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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
四章 モラトリアム ― 実験開始前 ―
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156 相性の良し悪し

 話が随分難しくなったが、始まりは自顕流と自在流のどっちが強いんやっちゅう事だったはずだ。


 難しい理念とやらは脇に置いて、純粋な強さ比べをすれば、初期段階は自顕流が強いが、最後は大器晩成型の自在流に追い越されるって事だろうか? ほんなら、剣術を極めたいなら自在流を選べって事なんかね。


「同じ剣の戦いなら、自在流は最強と呼ばれるに相応しい流派ではあるが、自顕流も負けてはおらんぞ。」

「そうなんですか。」

「負けてはおらぬどころか、自顕流は自在流に対して非常に相性が良いんだ。」

「自在流、恐るるに足らずですか?」

「とんでもない、良いとは言っても紙一重だ。」


 自顕流は武芸百般を修める為、他流派より剣の鍛錬に費やす時間が少なくなる。戦場のエキスパートではあるが、剣術だけに限っていえば、剣のみを極めんとする剣士より技量が低いのは否めないだろう。


 軍人が剣士と剣で戦ったら何方が強い?


 例え軍人が筋肉モリモリマッチョマンの変態でも、キビシイ勝負になるだろう。


 その事実は認めざるを得ない。


 しかし、認める事と受け入れる事は別だ。


 自顕流の先達は、それを事実と認めながらも、生粋の剣士に勝てる方法を模索し続けた。その結果、出来上がったのが今のスタイルだという。


 それこそが自顕流の代名詞、全てを賭けた一撃必殺の初撃である。


 自顕流は他流派と比べ剣速と力に特化する。一芸を極める為に他は敢えて捨てるという選択をした。


 ふむ。


 超短期決戦に持ち込み、相手の技を出す余裕を潰せば、自在流の長所を消せるという訳か。自分の得意分野で勝負しろって事やね。


「ところで、自在流の道場に遊びに来いと誘われているんですが……。」


 事情を説明して相談したところ、向こうの師範が了承しているのなら大丈夫なのではとの事だったが、念の為に一人では行ったらあかんって事と、他流派を学ぶ事のアドバイスをしてくれた。


 最悪なのは、無事に帰してもらえずボコられるケースだが、大人が関わっているのなら、流石に無茶は出来ないだろう。子供相手に威張り散らす大人げないヤツがいるのは事実だが、理論を重んじる自在流師範となれば、それなりの人格と教養を期待しても良い気がする。


 否、何も情報が無いのに期待し過ぎるのは良くない。


 ある人がどの様な人物かを判断する時、年齢や職業、肩書を知れば、ある程度の傾向を掴むことは出来るが、それはあくまで判断材料のひとつでしかない。


 品性下劣な者が、高い社会的地位に就いている場合もあるのだ。


 確かに、人間的に成熟した者が、リーダーとなる確率が高いとは思う。しかし、それはあくまで確率でしかない。


 また、外見上の立派な装いだけで判断すると、その裏にある内面を見抜けない事だってある。


 その事については、前世の経験で嫌というほど思い知った。



 僕が前世で就いていた仕事は、中小企業の事業主がメインの顧客だった。多くの社長や部長クラスの方々と付き合いがあったが、重役だからといって人格が優れている人間ばかりではなかった。


 彼らの人間性が露わになったのが、新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界的なパンデミックが起きた時である。


 何らかの困難に直面した時、その人間の本質が出る。


 美しいものから醜いものまで様々だ。


 僕は彼らが見せた姿を忘れる事は無いだろう。


 信頼が深まり、何とか力になりたいと感じた人がいれば、関係を終わりにしたいと思わされた人もいる。


(売り上げが落ちて困っとるのに立派やな。見習わなあかん。)

(へ~、自分さえ良ければええっちゅう事か。)


 ただ、これは僕が一方的に感じ取っただけであり、相手の方々からすれば、また違った話になるかもしれない。


 それに僕は外部の人間でしかなく、全ての事情を知っていた訳ではないとも付け加えておく。


 そこで改めて思い知らされたのは、肩書やステータスは人間を着飾る装飾品ではあるが、いくら煌びやかに飾り付けても、内面も美しいとは限らないという事。


 詰まり、自分の目が節穴やったっちゅう事ですな。


 クソが。


 呆れ過ぎて逆に冷静になるという経験を久々に味わったぜ。


 まあいいさ、これも人生経験か。



 そんなこんなで、6歳にしては人生経験が豊富なんである。知識だけやけどね。


 自在流の輩が何を考えて招待してきたかしらんが、ガキやと思ってナメ腐っとると返り討ちにしてくれるぜ。



 ……… 自分、ちょっと落ち着け。呼吸を整え冷静に判断しろ。



 感情的になったら、物事を冷静に判断できなくなる。今は前世での出来事なんて関係ないんや。感情が先走ると、客観性に欠ける恐れがある。


 未だ何も分かっていないのに、悪く決めつけるのは良くない。こんな子供のうちから他人を信じられんくなったら、将来は世捨て人まっしぐらやぞ。


 そもそもさ、他の道場生の殆どは武家の子たちだが、こっちは一般庶民なうえに孤児という身分だ。勘違いしたらあかん。


 いくら外様である島一族が身分に拘らない気質とはいえ、身分の差ってのは確実にある。こんな気さくに付き合えるのは子供のうちだけかもしれんのだ。


 考えたく無いが、大人になり社会的格差が広がった時にややこしくなりそうだ。当たり前の話だが、タケを含め、要らん敵は作らん方が良いだろう。


 損得を考えた付き合いが真の友人かという問題はある。しかし、社会で生活していく以上、相性が悪いヤツってのは必ず存在する。その相手が同僚や取引先担当者になれば、付き合いを避けては通れない。


 今のうちに、気が合わんヤツとも、其れなりに上手く付き合う方法を身に着けるのも大事な事だろう。所謂いわゆる、処世術ってやつか。


 本音で生きるのは難しい。だからこそ、ある程度のエゴを主張できる家族や友人の存在のデカさに気付かされるというもの。


 自分としては、もうちょっと子供の楽園で遊んでいたかったのだが、思ったより早く大人になる必要があるのかもしれん。なにせ、中学卒業と同じ15歳で元服、大人の仲間入りをする訳やからね。


 あと9年、長いようで短い。

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