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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
序章 自己の確立
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14 家族会議7 求めるものと、必要なもの

 新たな知識は手に入ったが、その知識がさらなる謎を呼んだ。前世基準での感覚、論理のみで考えたら駄目だと感じた。


 前世での一時期、とある試験を受ける為に、資格勉強をしていた時があったが、その際に講師の先生が言った言葉を思い出す。


「君たちの第一目標は試験に合格する事だ。課題を深く考えると、例外事項がいくらでも出てくるが、そこまで考えていると、とても試験日に間に合わない。細かい所は受かった後で考える事だ。試験後なら、どれだけ時間を使って研究しても良いんだ。」


 時間は有限であり、全てをやり切る事は出来ない。現在の自分に必要なものと、そうでないものを取捨選択する決断が必要で、ある程度の割り切りが求められた。1+1=2で、それ以上でも以下でもない。よりシンプルに、より素直に頭に入れるようにした。


 深く考えるなら、その1とは、重量なのか体積なのか、はたまた質量を指しているのか。そして、加える1は前者と同じ物質なのか? 化学反応により、解が変化する可能性はあるのかなど、例外を考え出すと切りがないが、試験の問いは、そのような例外を問うていたのではない。試験は、自分の考えを発表する場では無く、設問が求めている答えを記入する事が必要とされる。


 勿論もちろんの事だが、ペーパー試験テストだけ成績が良いという、頭でっかちは問題がある。実際に資格を得る為には、試験合格後に、実務を一定期間こなすことが必須だったとは言っておこう。


 時と場合により優先順位は変わる。また、注意すべき点だが、最も優先すべき事と、自分の求めるものが同じであった場合は、その欲望のまま突っ走れば良いが、自分の関心と必要なものが異なる場合、自分の気持ちを抑えて、コントロールする必要がある。モチベーションも非常に大事な要因だ。


 今回の家族会議についてだが、元々は、迷子で怒られる事を有耶無耶うやむやにしようといった、不純な動機から始まり、最終的には自分の出自を確認でき、そのうえで、将来は学校に行かせてもらえる事まで確認できた。


 これは大収穫といえよう。


 学校では、満5歳を迎えた次の春から10年間の教育を受けて、満15歳となる年度で元服、卒業する。そして、佐助さん達による養育期間も終了だ。現代日本でいえば、中学の義務教育終了と同じ時期となる。


 少なくとも、元服、成人するまでは今の生活が保障されるということだろう。今はこれだけで十分だ。いきなり全てを理解する事など不可能なのだから。これから時間を掛けて、疑問を解き明かしていこう。


 今回は、最低限の必要な情報ものが手に入った。そして求めるものは、さらなる未知の知識だが、その前に、やらなければならない、必要な事があると感じる。


 新たに頭に入った情報をまとめ終わったら、今後の目標を立ててみようかと思う。なんだか、自分の事ばかり考えていて、これで良いのかなと感じてしまう。当然、佐助さん達に感謝の気持ちは持っているが、そこまでの余裕が心に無かったのだ。我ながら、まだまだ人間としては小さいなと、心の中でつぶやく。


 記憶だけは、前世の分を含め豊富なはずなのに、ままならないものである。なんとかは死んでも治らない、と言われたりもするが、それが僕の本質であるのなら、後は開き直るしかない。


 いきなり大量の情報が入ってきた為、自分の情報処理能力の容量キャパが気にかかる。過去に、前世の記憶整理で鍛えられた経験から、よほどの事が無ければ大丈夫だと思うが、自分の世界に引き籠る事は避けたい。自分の傾向としては、とことんまで深く潜り、周囲が見えなくなる事があると知った。気を付けよう。


「それでな、ハル。実はご両親の形見があるんだ。」

「もうちょっと大きくなって、話を出来ると思った時に、伝えようと思ってたの。御免ね。黙ってて。」

「俺らも、なかなか言い出せなくてなぁ。」


 形見ですと? 何かに役立つものであれば嬉しい。しくは何か金目かねめの物とか。しかし、形見だったら、例え価値がある物でも、手放し難い気がする。


「一つは、この守り刀やな。」


 片刃の短刀でつばは無く、刀身のりも無い。素人目には、これが業物かどうかの判断など出来ないが、綺麗な刃文はもんをしていて、見ていると引き込まれそうだ。柄のそばの刀身に模様が刻まれている。何やら文字のように見える。


「次に、魔石をあしらった首飾りだ。」


 魔力が結晶となった魔石であるが、この魔石に装飾がほどこされ首飾りになっている。古代遺跡より発掘されたものらしく、その飾りは縄文文化を思い起こさせる。魔力についてはすでに力を失っているようだ。僕自身は魔力を感じる事が出来ない為、佐助さんからその様に説明を受ける。


「最後に、この本ね。」


 一冊の古びた本を手渡された。パラパラとめくって中身を確かめたが、この世界の文字を読むことは出来なかった。山や海を描いた挿絵が入っていたが、どんな内容なのだろう。また、所々に書き込みの様なものが見られた。両親どちらかの筆跡なのだろうか。


「何が書かれているの?」

「この地方に伝わる昔話をまとめたものね。ご両親は、お話に出てきた町が実在したかって事を調べていたみたいね。」

「行商で、いろんな地方を訪れているうちに、興味を惹かれたと言ってたよ。」


 失われた古代都市などが記述されているのだろうか。そのようなのは大好きだ。伝説のトロイなんてロマンの塊だ。


 ちなみにトロイを発掘したシュリーマンだが、彼の発掘方法については問題があったらしい。発掘された財宝を勝手に持ち出した、捏造された部分があった、関心の無い遺跡は、それを破壊してしまった等の話がある。


 これらの話を知ってから、純粋な気持ちでシュリーマンをたたえる気持ちが薄れてしまったが、それでも彼の功績が素晴らしいものである事は間違いない。時代背景を考慮すれば、情状酌量の余地はあるだろう。


「これ、どうしようか?」


 春絵さんが尋ねてくる。


「うーん、僕が持ってると、どっか無くしちゃいそうだし、このまま預かってもらって良いかな? 本は読めないし。」

「じゃあ、元服するまで預かっとく?」

「うん、あ… 本が読めるようになったら、本だけ貰ってもいいかな?」

「分かった~。」

「よし、夜も更けてきたし、そろそろ寝るとしようか。」

「寝る前に、ちゃんと便所へ行くんやぞ。」

「は~い。」

「俺がいっちばーんっ!」

「あ~、大きいのは止めてよね。臭いから。ね~、ハルちゃん。」


 便所に入れたのは僕が最後だった。さいわいにして、大で用を足したものは、いなかった模様である。とはいえ、所謂いわゆるボットンなので、多少、臭うのは致し方ない。結局は自己申告と、便所に籠っていた時間で判断するしかないが、ハナねえも、からかっているだけだろう。


 便所事情について、いつか改善してやろうと思う。

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