129 リスク管理
過労死裁判について補足しておく。
企業が違法残業の事実を認めた場合、これまでは略式起訴にて簡易裁判が行われるのが通常であった。
じゃあ何か?
人の命は100万円以下だとでも言うのか?
当然だが、これで話が終わるほど甘くは無い。
この略式で裁かれる内容とは、労働基準法という行政法を破った行政罰である。そして、従業員の死が労災だと認められる流れだ。
労災認定は始まりに過ぎない。
労災は会社に責任がある事を意味し、他の裁判に重要な意味を持つ。
過労死が起こった場合、裁かれるのは行政法のみではない。内容が悪質であり、犯罪性があれば刑事罰で起訴される可能性すらある。
たとえ刑事罰は免れても、民法での決着が未だ終わっていない。
人が一生で稼げる生涯賃金というものがある。
個人により違いはあるが、およそ一億円が目安と言われる。
死亡した事により、今後に稼げるはずだった賃金を得る機会を失ってしまった。詰まり、将来の収入である一億円を失ったという事に等しい。
これは損害賠償案件だ。
先ず生涯賃金を算出し、それを過失割合で会社の責任とされる部分が請求される事となる。
労災認定があった場合、会社の過失割合がゼロとなるのはあり得ない。労災認定されるという事は、会社に責任がある事を意味するからだ。労災と認定されれば、会社は責任を逃れる事が出来ない。
会社が労災を認めるのに慎重となるのはこの為である。大企業でもない限りは、会社の存続が危ぶまれる金額となるだろう。
また、これに慰謝料は含まれない。会社の出費はさらに増える事になる。
真剣にリスク管理をするのであれば、ブラック企業とされる会社は、早急な労務の見直しをお勧めしたい。
気を付けるべきは、人間は善良な者ばかりではないという事実。それは会社だけでなく、労働者サイドにも同じ事が言える。
ブラック企業があるならば、モンスター社員がいるのも忘れてはならない。適正な労務管理と記録の保存は、自己防衛の絶対条件だ。
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さて、脳の話に戻ろう。強化方法をどうするか。強化する部分を誤り、バランスが崩れるのが最も恐ろしい。
例えば理性で抑えきれない程に、野性的な本能が強化されたらどうなる?
腹が空けば、手当たり次第に食い散らかし、気の向くまま排泄する。女とみれば襲わずにいられないモンスターへとなり果てるやもしれぬ。
最悪だ。生きながら地獄へ堕とされるようなものだろう。僅かでも知性が残っているならば、精神が耐えきれない。
かつて、人間は脳の機能を使い切ってはいない説ってのがあり、使われていない領域を開発すれば、恐るべき能力を手に入れられるはずだと考えられた。
「脳の全てを使う、それが我が暗殺拳の極意なりぃ~っ!」
「バ… バケモノめ!」
実は、既に全部使っとるらしいですよ、アレ。将来において、さらに別の学説が出る可能性もありますがね。脳の構造はとても繊細だ。専門的な知識もなく、手を加えて良いものだろうか?
失敗した時のリスクが高すぎる。僕の考えた脳強化案は、脳機能そのものではなく、脳に情報を伝える情報伝達物質、ニューロンを増やすという方法だ。
身体で例えるなら、心肺機能や筋肉を強化するのではなく、各細胞にエネルギーを運ぶ血液をドーピングしてやろうという試みだ。
一昔前、脳の情報伝達物質は何歳になっても増えるとの考えが一般的だったが、どうやら13歳程度で増加は終わるのではないかという説が発表された。
僕が13歳に拘る理由がこれだ。ニューロンを増やすのが僕の計画である。
これで、より多くの情報量を扱う事が出来るだろう。
当然ながら不安いっぱいだ。その不安の理由、リスクを考えてみよう。
1. ニューロンを増やす方法
ニューロンは、記憶を司る海馬で作られるという。魔法操作で増やす事が出来るのか。また、手違いで海馬の組織が破壊される危険は無いのか。
実験が必要だ。
2. 増えた情報量を扱いきれるか。
ニューロンが増えれば情報量も増えるだろうが、その量を処理できるのかという問題。前世の記憶で苦しんだのは記憶に新しい。
もう一度地獄を見る覚悟はあるか?