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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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128 社会的価値観

 社会的価値観は時代により変化し、当時の雰囲気に影響される。


 古くは末法思想か。


 末法思想とは、釈迦の入滅(死)から二千年を経過すると、仏の教えが行われない暗黒時代を迎えるとされる考えだ。これにどこまで影響されたか正確に知ることは出来ないが、当時の世の中は激しく乱れた。


 宗教的価値観が社会に与える影響は無視できない。


 社会的価値観の変化は宗教だけでなく、人為的なものを含め様々な原因があり、マスコミや政府が主導して行うケースがある。


 現代日本において、政府主導で価値観を変えようとした例が「働き方改革」だ。大手広告代理店社員の過労死が引き金になり、働き方の価値観を社会全体から変えようと政府が本腰を入れ始めた。


 この過労死事件は略式が認められず、正式裁判となった事から、官邸の本気度がうかがえる事件となった。


 略式起訴とは通常の起訴手続きを簡略化したもので、100万円以下の罰金・科料に相当する事件である場合に利用される。被告が罪を認めており、法を犯した事実を争わず、量刑の内容を決めるだけの簡易的な裁判である。


 今回の事件において、広告代理店は違法残業を事実だと認め、その内容について争うものでは無かった為、略式起訴となる見込みであったが、略式は不相当と判断され、正式裁判となった。前例が覆ったのは官邸の意向があった為だと聞く。


 違法労働は許さない。


 これをひとつの企業で終わらせず、社会全体の価値観として浸透させる。


 政府がはっきりと意思を示した事件であった。


 しかし、社会の奥深くまで広がった価値観を変えるのは難しいと思う。人為的に社会の空気を変えると聞くと、とても胡散臭く思うが、良い方向への変化なら歓迎したい。


 自己犠牲を強いられ、仕事に命をささげる時代は終わりを告げねばならぬ。


 世論を動かすべき時が来ている。


 だが、ネット小説なんぞでブラック企業勤めの自虐自慢をしているのを読むと、ゴールは随分遠そうだ。


 ネタなのは分かっているが、ありゃ何処まで実話に基づいとるんかね。現代版の蟹工船か。ネットに小説なんて書いとる場合じゃ無い。命が惜しいなら早く寝ろ。そして、証拠を集めて労基署へ駆け込むんだ。


「死んだら異世界へ転生し、神の恩恵を得ました。」


 死こそ救済なんて、どんなカースト制度やねん。死ぬ前に出来ることがあるはずだ。確かに、自力では何ともならん状況ってのはある。そんな時こそ社会を頼ってほしいと思う。生活保護はその為にこそある。本当に必要なものならば、皆も納得してくれるだろう。


「生ぬるい。俺らの時代はな、日が沈んでからが勝負やったぞ。」

「コンプライアンスって分かります?」

「コンプラかテンプラか知らんが、それでは仕事が回っていかんのや。」


 言いたい事は分かる。


 定時で帰れと言われても仕事は減らん。残った仕事は誰がやるんや。最後は自分の首が絞まるだけやぞ。それを考えたら、残業以外に選択肢など無い。この状況を誰が解決してくれる?


 それは会社しかない。その後押しをする環境づくりが政府の仕事だ。政府も解決したいという意気込みは分かるのだが、疑問を感じる政策もある。


「求人を出しても人が集まらん。」


 人が集まらなければ、賃金を上げたり福利厚生を充実させる等、条件を改善して応募を待つ方法が望ましいと思うが、より安い労働力を欲しがるのが事業主だ。


「給料に文句があるんか。なら、文句を言わずに働くヤツを連れてくるまでや。」

「外国人なら安く使えますよ。」


 文明の発達でインフラが整備され、遠い世界が近くなるのは良いが、グローバリゼーションは悪しき一面もある。それに、外国人だからといって、劣悪な労働環境が許されるはずもない。



 天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず  福沢諭吉



 天ならざる人間は、人の下に人を造りたがるらしい。


政府「外国人で問題が生じるのなら、高齢者を活用してはどうですか?」

企業「しかし、今以上の出費を出したくないなあ。」

政府「在職老齢年金の見直しを検討します。」


 在職老齢年金とは、高齢者で年金を受給しながら、フルタイムに近い時間で働く人に適用される制度であり、一定の金額以上を稼げる年金受給者は、年金の金額が一部、若しくは全額停止となる基準を定めている。


 令和元年の基準で65歳未満が28万円、65歳以上が47万円となっている。この枠を増額すれば、企業はこれまでと同じ給料を払うのみだが、年金のカット分が少なくなる。


 つまり、企業が金を出さなくても、働く高齢者の収入が上がる計算だ。


「今は人手不足なので、元気なお年寄りは働いてね。」


 見直しでは65歳未満を47万円に。65歳以上を51万円にと検討している。


 これってどうなん? 細かく見てみよう。


 先ず65歳未満はともかく、65歳以上の51万円という数字は正確なものではないと言っておく。停止となる年金は老齢厚生年金のみであり、最大で6万5千円程度となる基礎年金を含んでいない。


 51万円という数字はまやかしで、最大57万5千円程度との表現が適切だ。


 65歳以上で月額57万5千円以上の収入があるなんて、会社にそれなりの地位がなければ、通常では考えられない。高齢者を優遇するのは良いが、それだけ若者にしわ寄せがくるのは目に見えている。


 ポストに空きが無く、若年者が長期的キャリア形成を図るのが難しくなる。当然に賃金も少なくなるだろう。増額された年金の負担は、現役世代の肩にかかっているのに。


 本気で少子化問題を考えとるんかね。


 これまで社会を支えてきた年配の方たちは、大事にされるべきだと思うし、蓄積された知識と経験は得難い財産だ。しかし、若者の成長無くして未来は無い。


 3千円のパンケーキを食べようが問題は感じない。自分で稼いだ金をどう使おうが良いやん。可愛いもんだ。本当の庶民感覚が欠如しているってのは、こういう事なんじゃねーの?


 これは外国人や高齢者が悪いのではない。


 目の前に自分の生活を良くするチャンスがあれば、誰でも飛びつく。しかもだ、求められて就く仕事なら、やりがいも感じられる。


 社会のシステムこそ肝だ。制度設計を担う政治家の責任は重い。細かな事に気を配るのも必要だろうが、最も大事な政策で競ってもらいたい。


 尚、この見直しには与党内で反対意見が多く、基準の変更は見送られる見通しだという。野党こそ反対せんとあかんやろ。


 与党が隙を見せているのにシュレッダー見学とは。そんな寝ぼけた事をやっとるから、支持が伸びんのやぞ?


 有権者にアピールすべきは政策が第一だ。ポピュリストと呼ばれたくなければ、お花見以外にもやるべき事は山積みだ。質の良い野党がいるからこそ、政権与党の政策も磨かれてゆく。精進されたし。


 日本は普通選挙制がある為、投票で自分の意思を示す事が出来る。独裁国家より風通しは良い。ましてや、中世の世とでは比ぶべくもない。


 そして、今の僕がいるのは中世の世界だ。考えるだけなら良いが、口に出すのは慎重になるべきだろう。革命家になるつもりはない。


 中世の革命家なんて、命を捨てる覚悟が無いと務まらん。


 まっぴら御免だぜ。

時事ネタは状況が変りやすいので難しい。

後日、新たな事実が判明し、評価が変わるケースも珍しくない。

少なくとも現時点での判断だが、違ってたら自分が未熟だったまで。


現代の実名表記は恐ろしい。

もっとも、実名が無いだけで、何を意味しているのか誰でも分かると思います。

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