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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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118 北関市籠城戦2

 政権が交代する事で、良い変化が起こるなら歓迎すべきだが、社会の雰囲気に流され、深く考えずに投票先を決めた事に後悔していた。


 こりゃ、衆議院選挙に備えて、しっかり考えたほうが良いな。


 そう思い、野党が掲げるマニュフェストを真面目に読み込んでみた。僕が専門としていた分野を足掛かりに、全てを検証した結果、


 何やコレ、無理や。こんなん無茶苦茶になるぞ。


 ――― この様に感じられた。


 だが、僕の思いと裏腹に、新聞やテレビなどマスメディア報道では、野党の応援で埋め尽くされていた。有識者とされる人々が、自信満々の顔でマニュフェストを持ち上げる。


「政権交代すれば、必ずや実行してくれるでしょう。」


 嘘つけや!


 これだけの政策を、赤字国債無しで出来ると断言しやがったな!


 何が有識者や。クソボケが。


 マスコミだけでなく、ネットでも野党の勢いが増していた。


 当時、某ネット掲示板に、野党のマニュフェストは実行不可能だと、その理由を説明しながら、反対意見を書き込んだ事があったが、理解してもらえなかったのを覚えている。


 ネットの世界は玉石混交だ。恐ろしく博識な人がいる反面、デマとしか思えない意見も、日々垂れ流されている。


 時は流れ、TVでは日本の優秀さを自慢する番組が目立つようになったが、当時の空気を肌で感じた身としては、よくそこまで自画自賛できるぜと感じたものだ。当時のバカ騒ぎも、日本人の姿に違いないのだから。


 勿論もちろん、日本には素晴らしい文化があり、優秀な人が多いのは否定しない。むしろ誇らしく思う気持ちが強い。


 だが、そんな人々も情報に踊らされる。如何いかに情報が大事かという証左だ。


 政権交代が成され、僕の心にあったのは失望と、日本の落ち行く未来への覚悟、そしてわずかばかりの希望だ。


 希望は、僕の予想が間違っている事である。自分の考えと違い、マニュフェストが本当に素晴らしいものであるのなら、何の問題も無い。


 自分の誤りを望むのもおかしな話だが、それが最後の希望だった。


 もし間違ってたら、全力でゴメンナサイやぞ?


 詫び代わりの献金も頭に入れつつ、国会を見守っていたが、その結果は……、



 御覧の有様だよ。



 番組に出ていた腐れ学者どもめ、恥を知れ。一方的な番組構成を許した、TV局の責任も重大だろう。


「政権交代したら、電波料を思いっきり下げますから。」


 臆面も無く、このように発言した議員がいる。これを知りながら野党に全面協力したメディアの報道は、もはや信じるに値しない。己の利益の為に、偏向報道すら容認するとは恐れ入ったぜ。


 情報を握る者は大きな影響力があり、それなりの責任が求められる。近年になりインターネットの成熟で、既存メディアの力が弱まってはいるが、未だ無視できない力を持っている事は否定できない。


 マスコミは多数に影響を与え、まとまった数は力となる。その力は、時に武力を上回る効果を発揮する。


 ペンは剣よりも強しとの言葉がある。


 マスコミにたずさわる者たちは、良い意味でも悪い意味でも、自覚してもらいたい。


 今回の北関市における戦いも、単純な武力だけでなく、情報が非常に大きな役割を果たした。


 帝都からの援軍は遅れる。


 これが侵略者たちの予想であり、事実、それは的中していたのである。



「北関市から援軍要請があったらしいですな。」

「今さら我らを当てにするとは、恥を知らんとみえる。」

所詮しょせんは文官上がりの青瓢箪あおびょうたんよ。いざ戦となると、まるで使えぬわ。」

「これで将軍を名乗るとは片腹痛し。今頃は部屋にこもって神仏頼みでござろう。」


 太平の世にあって、将軍は名誉職でしかなかったが、それでも武家からすれば、最も重要な位であった。


 新たな魔石鉱山が発見され、内政面が重視された為、文官の中でも秀才の誉れが高かった現将軍に白羽の矢が立ったのだが、重要なポストを奪われた武家からは、妬みを一身に集める羽目になった。


 将軍と武家が上手くいっていない。これを逃す海の民ではなかった。


「今年は天候が悪く、作物が不出来じゃ。兵糧を確保するのも難儀な事じゃぞ。」

「出陣が遅れる言い訳にはなるじゃろうて。北方の蛮族ごとき輩、土地の支配にはこだわるまい。略奪品を抱えて、動きの鈍ったところを叩くのが良かろう。」

「しかし、それでは北関市の民が被害を被る事になるが……。」

「ある程度は仕方あるまい。それなりの兵数を揃えないと、こちらの被害も大きくなるぞ。そこまで尻拭い出来ぬわ。それに、北関市に被害が出れば、将軍の力不足が露呈する事になる。将軍職を取り戻す契機にもなろう。」

「しかし、民が犠牲になるのだぞ。」

「では、我らの兵が無駄死にして良いと申すか。わずかな数で駆け付けても、簡単に撃退できぬのは分かっておろうに。」

「それはそうなのだが……。」

「そもそも、あやつが将軍となってから、北関市から伝わる話は、景気の良い話ばかりだと気付いておるか?」

「それは喜ばしい事なのでは?」

「軍事費を削り、予算を魔石鉱山に投入したからじゃぞ。金策も大事だが、削ってはならぬ予算もある。その認識が甘いから、文官将軍などと言われるのだ。」

「確かに、それは悪手であったな。」

「しかもだ、軍事費を要求する我らを、無能呼ばわりしておるとも聞く。」

「うむ、それは儂の耳にも入ってきておる。」

「そんな奴に命を懸けられるか? 助けには行くが、勝利するに確実となる兵数を揃えるまでは、軽々しく動けぬわ。」



 これには、工作員の偽情報が多く含まれていた。


 人口の増加に比べ、兵士の数の伸びが抑えられていたが、人口が増えた原因は、魔石鉱山目当ての出稼ぎであり、質の良い人材確保が難しかった事にある。


 人員確保の代わりに研究費に投資し、新兵器である火雨ヒサメが完成していた。


 確かに、総支出に占める軍事費の割合は低下していたが、軍事費が削られていたのではなく、経済発展により、使える全体の予算が増えていただけである。


 予算総額は増額されたが、軍事費は据え置かれた。よって、相対的に総額に対する比率が下がっただけだ。加えて、飢饉対策で臨時出費が重なった事もある。


 軍事費の伸びが抑えられたのは事実だが、それなりの事情はあったのだ。


 将軍に批判的な勢力は、自分たちに都合の良いデマを信じてしまった。


 誰にでも言える事だが、人間は自分の信じたいものを信じる傾向にある。感情論のみで物事を判断すると、大事な選択を誤る危険がある。


 頭で分かってはいるのだが、これがなかなか難しい。

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