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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
117/305

117 北関市籠城戦1

 天王山の勝利から数日が経過した。


 味方の被害は皆無と言ってよい程の、圧倒的勝利を収めた事で、守備隊の士気はかつてないほど高まっていた。


此度こたびの戦、我らの圧勝じゃな。」

火雨ヒサメを使える条件がそろっていたのが決め手ですな。敵味方入り乱れた状態ですと、お味方にも被害が出る為に使えませぬ。本来なれば、敵が接近する前の牽制で使うか、攻城戦で使うのが効果的でしょう。」


 海の民が敗れた最大の理由、それは新兵器の存在を知らなかった事だ。しかも、自ら山に陣を敷き、火雨ヒサメから逃れる為の機動力を失ってしまった。


「後は、遅れて出発したはずの本隊がどう動くかだな。」

「新兵器を恐れ、退却してくれれば良いのですが、どう出ることやら。」

しばらくすれば、帝都からの援軍が到着する予定じゃ。兵力差は縮まるが、未だ劣勢だろう。今度は籠城し時間を稼ぐ。そして、島一族の到着を待ち、攻勢に転じるとしようぞ。」

「はっ 勝利までの布石が見えましたな。」

「今のうちに、住民の避難と食料の確保を徹底させよ。未だ収穫前の作物も、敵に荒らされる前に刈り取ってしまえ。矢の数量確認や、防壁の補強も怠るなよ。」


 一方、北関市に進軍中の本隊に、先遣隊の敗北が伝えられた。


「文官野郎がやるじゃねえか。ただの頭でっかちでは無かったって事か。」

「頭、これからどうします?」

「逃げたいのか?」

「い、いや……。しかし、まごまごしてると、帝都からの援軍が到着しますぜ。」

「ふん。」

「そうなったらまずいんじゃありませんか?」

「それならしばらくは大丈夫だろう。」

「でも、先遣隊が北関市を攻めてから、それなりの日数が経ってますぜ。既に帝都から兵が出発していても、おかしくないと思いますが。」

「普通ならな。」

「何かありそうですね。」

「ああ、奴等、普通じゃねえのよ。」


 海の民は海賊を生業なりわいとしつつ、貿易商としての顔も併せ持っていた。金銀財宝を略奪しても、虚栄心や自己満足を味わう事は出来るが、生きるための腹を満たすことは出来ない。金は使えてこそ、その価値が出るのだから。


 海の民一族は、軍事と商業に特化した、いびつな構造をしていたのである。


 どこの世界にも腐った輩は存在する。盗品と知りながら買い付ける者、人身売買に手を染める者達が主な顧客であった。



 奇貨居くべし。  史記・呂不韋伝



 これは現代に通用する商売人の基本だ。商品を安く仕入れ高値で売り、その差額が利益となる。珍しい品は手元に残し、値が上がるのを待てとの格言である。


 その言葉通り、呂不韋という商人は、他国で人質生活を送っていた、秦国の公子異人に目を付け投資をする。後に王となった異人に取り立てられた呂不韋は、丞相にまで上り詰めた。王となった異人は荘襄そうじょう王と呼ばれる事になる。荘襄そうじょう王とは、かの有名な始皇帝の父である。


 この言葉を実行しようとしたとき、必要となるものは何だろう。


 奇貨に投資できる資本を持っている事。更には、決断力や実行力が求められると思うが、何より大事なものは情報だ。


 情報を知らなければ行動は起こせない。また、情報が違っていたら、損失を出す可能性が非常に高くなる。正確な情報が絶対条件だ。


 情報の入手も大事だが、どこまで信頼できるものなのか、慎重に判断しなければならない。


 前世においても、発信される情報には、所謂いわゆるフェイクニュースが交じっている時があった。若しくは、流す情報を恣意しい的に決定し、印象操作をするケースも珍しくない。情報を発信するマスメディアに対し、僕が始めて不信感を抱いたのは、日本で政権交代が起きた際、報道番組の姿勢を身を持って知った時であった。


 衆参二院制を採用した日本の政治では、衆議院で多数を占めた政党が政権を運営する事になっている。平成の世において、長年の間、政権を担ってきた政党が選挙で敗北し、新たな政権が誕生した時があったが、その敗北の兆候は、衆議院選挙前に現れていた。


 その兆しとは、衆議院選挙の前、参議院の選挙が行われたが、その選挙において、与党が敗北を喫していたのである。


 その参議院選挙で選挙権があった僕は、何となくという理由により、とある野党に投票したが、その野党は選挙に大勝し、政権交代の現実味を感じさせた。


 で、実際に投票した僕はどう感じたのか、正直に言う。


 うわー、やっちまったなぁ。やべぇ。


 自分で投票しといて、やべぇとは何事やねん。脳ミソ腐っとるんちゃうか?


 返す言葉もない。


 社会的な空気、雰囲気に釣られて投票したのだが、選挙結果を知ると、政権交代が現実に起きるかもしれないと感じられ、身体に戦慄が走ったのを覚えている。

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