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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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109 身内の範囲

 新たなアイデアを思い付いた興奮の為だろう。ゴンをベタ褒めしてしまったが、よく考えたら当然の事かもしれない。僕も柔道の技を秘密にする事なく彼らに教えている。もっとも、素人に毛が生えた程度のレベルなので、直ぐに吸収されてしまう事だろう。


 だが、この当たり前の事が大人になるにつれ難しくなるように思う。子供の純真さが世の中に出ると通用しないケースは有り得る話だ。


 会社の同僚や他社の友人等の仲間内で、お互いに助け合い切磋琢磨するのは良い事だが、言える事と言えない事は当然にしてある。


 社内機密を他社の人間に漏らしたら?


 軍事利用できる技術が海外へ流れたら?


「友達に利便を図った迄でです。友愛の精神に乗っ取れば当然の事でしょう。」


 人を信じる大事さを否定するつもりはないが、万が一裏切られた場合、犠牲となるのはアナタの大事な家族や友人かもしれない。どこまでが利益を共有する仲間内だとラインを引くのか、難しい問題だと思う。


 そりゃあ理不尽な境遇に耐えている人々を全て救えれば良いのだが、どこまでの犠牲を払い、どこまで救えるのかには限界がある。例えば、近代日本では教育の無償化が問題となっていた。教育の重要さに異議を唱えるものは無いと思うが、教育とは今日明日の生命を繋ぐものではなく、将来への投資である。その一方で、食料が不足し餓死する他国民が存在しているのも事実だ。徹底した友愛を貫くならば、我が子の教育より他国の難民事情なのではないだろうか。


「町内会に参加して助け合っていきましょう。」


「隣人の為に献金しましょう。」


 情けは人の為ならず。


 同じコミュニティーに属しているのなら、他人への親切は間接的に自分への利益になる事もあるが、その親切が仇となるケースもある。


「我が国が独立を保つため、軍事強国となる道を選ばざるを得ないが、財政が逼迫ひっぱくし子供らが飢えておる。国際的な支援を要請する。ただし、軍事費は削減しない。これは国内問題であり、他国が口を出すなら経済侵略とみなす。」


「自国の福祉など二の次です。死に直面している幼子に罪などありません。さあ、今こそ友愛の精神を発揮しようではありませんか! 物資援助と義援金を送りましょう。」


 アナタはどこでラインを引こうとお考えでしょうか。


 あまり難しく考えると身動きが取れなくなってしまう。未だ子供な事を言い訳にして、今はこの問題を考えるのはやめておくか。そもそもだ、この世界に生を受けて数年程度の記憶しかないんやぞ。異世界情勢の機微なんて分かってたまるかってもんよ。


 折角の遠足だ。精一杯楽しむのが子供としての在るべき姿だぜ。


 滝壺から少し離れた所に開けた場所があり、そこでの昼食後に暫しの自由時間となった。


 川に目をやると魚が泳いでいるのが見える。


「さっき良いもん見せてくれたから、こっちも面白いもん見せるわ。」

「何するんや?」

「ま、見とってくれ。」


 手を水に浸して魔力を流す。何も考えずに流すと円状に広がっていくだけだが、目標を意識すれば任意に効果範囲を定める事が出来る。これは医療魔法には必須の技術である。患部に直接触れて治癒するのが一番確実だが、内臓等の内部疾患となるとそうもいかない。腹を裂いて治療する必要が無いのは患者に負担が少ない為、とても重宝される技術である。


 水が揺れて目当ての魚に警戒されないよう慎重に魔力を広げ、ここら辺で良いと判断した後、魔力を一気に爆発させる。


 ドオォォンッ!


 音とともに衝撃が水を伝わる。爆発漁法だ。


 ダイナマイト漁、発破漁とも言われるこの漁法は環境に甚大な影響が出る為に、前世の多くの国では規制されている。ダイナマイトの替わりに魔力で衝撃波を生みだして漁をするこの漁法は、同じ理論ではあるが、威力はダイナマイトより劣る。使い手による差もあるだろうとは思う。


 威力が劣る分、より魚の近くで衝撃波を起こす必要がある為、魚に怪しまれずに魔力を広げるのがこの漁法の肝である。夏休み中にこの方法を教えてくれた格さんによれば、ある程度の慣れがないと、釣り竿を使った方が効率が良く疲れないとの事らしいが、良い魔力操作の練習になる。幸か不幸か、環境破壊となる程の威力は無いので、環境を気にする必要も無い。


 後ろめたさが無いってのは大事な事だ。余計な物を背負えば行動も鈍る。これを教えてもらってから、時間が空けば川へと繰り出し練習をしていたのだ。そのお陰で食卓のメニューも多彩になり一石二鳥だ。


「よし、二匹程とれたな。塩持ってきとるから、焼いて食お。」

岩魚イワナか。良いもん捕れたな。」


 焚火の準備をしていると、ワカが加わって俺にもくれと言うので分けてやった。二人とも爆破漁に興味津々で、今度の休みにやり方を教える約束をしたのだった。

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