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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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104 黒歴史を振り返って

 中二病が炸裂してから数日が過ぎた。


 キュウたちの様子だが、今のところ挑発してくる様子は見られない。しばらにらみを利かせる必要はあるだろうが、ひと安心といったところだ。


 また何かあれば、今度こそパフォーマンスでは収まりが付かんかもしれん。


 さて、今回の騒動を振り返ってみる。本音を言えば、一刻も早く忘れたい黒歴史になってしまったが、同じ事を繰り返さない為にも反省しとくか。


 あんなもん一度で十分だ。


 さて、結局は力で強引に解決したのだが、あの場面ではそれ以外の選択が僕には無かった。それを未熟と言わればその通りだろう。反論の余地は無い。


 では、なぜ暴力を振るわざるを得なかったのか。理由は二つ。



1. 普段の行いの結果


 何の前触れも無く突然に起こったのでは無い。普段の行いが積み重なり、今回の騒動となった。例え自分に非が無くとも被害をこうむる事はある。対処の仕方ひとつで防げた可能性は十分に考えられる。


 気付かぬ内に誰かのかんさわる行動をしとったのかもしれん。普段からそれなりの関係が築けていれば言葉で注意してくれるかもしれんが、そうで無いなら悪い感情が心の底に溜まってゆくだけだ。しかも学校で毎日のように顔を合わせていれば、いずれ何処どこかで爆発する恐れがある。


 今回が正にそのケースだ。



2. 力不足による選択肢のなさ


 追い込まれた後、解決の手段が他に無かった。論理的で巧みな話術を用いて説得できれば良かったのだろうが、そんな都合の良い能力は持っとらん。


 少なくとも、あの場面において暴力以外の解決策が僕の頭には浮かばなかった。それにだ、たとえ何某なにがしかの力(先生や友人等の交友関係、あるいは金銭による買収)で解決可能だったとしても、他人に泣きつくのは僕のプライドが許さなかった。


 ちっぽけなプライドを守る事で、大局を見失うのは褒められたもんじゃないってのは十分に理解しているつもりだ。


 頭では分かっているが、感情との折り合いが難しい。前世のサラリーマン時代、営業をしていた頃を思い出した。



 営業成績はそれなりの成果を上げていたが、僕より業績の悪いヤツのほうが上司からの評価が高かった。理由は何となく分かる。調子が良いというかヨイショ上手というか、彼はいわゆる社内営業に長けた男であったからだ。


 僕自身はどうだったかというと、純粋に自分の力を試してみたいお年頃だった。社内営業? 何やその邪道は。己の力は数字で示させてもらうぜってなもんよ。


 今にして思えば社内営業ってのは非常に大事だ。会社という組織がバックアップしてくれるからこそ、外で効果的な活動が出来る。自分をサポートしてくれる人たちとは、良好な関係を保っておくのをおろそかにしてはならない。


 とーちゃんが外で頑張れるのも、かーちゃんが家を守ってくれとるからやで。


 役割分担をする事で、より効率的に動く事が可能となる。どちらが上と言うものでも無い。主夫や共働きなど、家族により様々な形態がある事だろう。


 ある時、飲み屋で愚痴を吐いた事があった。


「僕もお世辞とか覚えたほうがええんかなぁ。」

「お前のスタイルは、そー言うんとは違うからな。」


 世渡りにはヨイショを覚えたほうが楽なんちゃう? 間違っとる?


「でもさ、キミにソレが出来んの?」

「ん? どーいう意味よ。」

「やるかやらんかの前に、出来るか出来んかって事ね。まりや、ヨイショしようと思っても、ヨイショ出来る性格しとるんかって事や。」


 うーむ、深い事を言いやがるぜ。


 お世辞のひとつやふたつ、考える事くらいは出来るやろ。しかし、実際にソレを口にしたり、具体的な行動に移せるのか?


 喧嘩に例えるなら、他人を殴れる能力はあるが、本当に殴れるのかは別問題だ。お前、無防備な他人の顔を拳でぶん殴れんのかって事よ。


 空手を習って格闘技の技術は身に付けた。


 しかし、その技術を実際の喧嘩で使えるのか?


「……うん、無理やな。出来んわ。」

「そやろ。ヨイショ出来るってのも一つの才能やで。」


 この会話が僕の意識を変えた重大な出来事だった。ゴマすりも才能のうち。小さなプライドが邪魔をしてヨイショ出来んってのは、接待の能力が無いのと同じ事。


 では、どうすれば良い?


 人には性格ってもんがある。僕の性格からすると、あからさまに調子の良い事を言ったり、太鼓持ちをする事が出来ない。ヨイショが悪いとは言わないし、それが必要となる時もあるだろう。理解は出来るが、お調子者を演じるのは無理だと感じていた。


 分かった。僕はお調子者になり切る事が出来ない。これはハンディキャップだ。他の人よりもゴールラインが遠い事を覚悟しようと思った。性格を変えないのなら、信念をもって受け入れるのみだ。


 小さなプライドだったかもしれない。今にして思えば、そこまで真面目に考えんでも、もっと楽にしたらええんちゃうのと言ってやりたい。


 これが若さってヤツか。


 良くも悪くも人は変わる。決して譲る事が出来なかったものが、成長するに従い全くこだわりが無くなる場合もある。


 これは成長と言えるのか、しくは妥協を覚えたのか。微妙なトコやな。


 今回も幾つかの妥協をせざるを得なかった。特に暴力を使ってしまったりとか。後から振り返ってみると全てが未熟で青臭い。まさに黒歴史だ。


 だけどさ、それが人生ってもんやろがい。

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