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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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102 抑止のデモンストレーション

 責任を取らせる。どうやって?


 言うはやすく行うはかたし。


 法律の罰則規定と同じで罰則を与えるのが目的ではない。約束を守らせる事こそが大事なのだ。僕らに手を出したら叩きのめすとしても良いが、言質げんちを取られたくない。


 一度言葉にすれば、何かあったら必ずぶっ飛ばす必要が出てくる。面倒くせえ。


 言動不一致。良くも悪くも信用が無くなってしまう。他人を暴力でひざまずかせるのは気持ち良いもんじゃない。だが、キュウをこのまま野放しには出来ん。


 暴力という実力行使をせずに他者を抑えるにはどうすれば?


 良い人間関係を築くのが最善だろうが、事ここに至っては不可能だ。ひたすらにへりくだれば良かったのか? そんなん奴隷と同じやろ。


 そもそもだ。何でキュウが僕に手を出してくるかといえば、自分の計画が上手くいかなかったさ晴らしだ。


 試験で一番を取りたいが自分より成績が良かったヤツがおる。ムカつくぜ。俺が一番になれなかったのはアイツのせいだ。よし、イジメてやろうって事だろう。


 アホか。うん、アホなんやろな。


 こーいう単純なヤツには難しい事を言っても通じん。通じんからこそのアホや。これは勉強が出来んとか頭が悪いとかの問題じゃない気がする。


 一見してやんちゃなヤツが、実際に話してみると真面まともな考えをしていたりするのと逆パターンで、頭が良いであろう人が残念な思考回路をしていたりすると、その残念さが余計に際立つように思う。


 最も、それを判断する自分自身が、真面まともな考えを持っているのが一番大事なのは言う迄もない。


「お前ら皆狂っとるんじゃー!」


 いや、お前が一番オカシイぞ。病院へ行け。


 狂人が正常な人を見れば、正常な人こそ狂っとる訳やからね。狂気の沙汰やで。前世の記憶があると思っとる僕こそが真の狂人かもしれんのだ。


 ま、そこんトコは置いといてやな。今すべき事はキュウが僕に手を出させん様にする事だ。単純なヤツには単純にやる。ちょっかいを出したら酷い目に遭わせるぞと威嚇する必要がある。


 単純なデモンストレーションをしようと思う。国家が開発した新兵器をお披露目するのと同じ事だ。


 単純に考えれば、開発した新兵器は実際の戦闘が行われるまで情報を隠したほうが効果的に運用できる。えて敵に情報を与えるのは抑止の面が強い。


 俺はこんな力を持っとるから、逆らわんのが身の為やで~っと。


 軍事力の全てを正確に発表していないだろうが、情報は心理戦を左右する重要な要素だ。場合によっては、辺境の小国が覇権国家と会談をする事すら可能となる。


 しかしながら、軍事に偏った政治では国民生活に多大な影響が出るため、民意を無視できる強権的な独裁国家がこの手法を執る事が多い。


「逆らう奴は収容所送りの思想改造、しくは銃殺刑で見せしめだ。」


 このような奴等と話し合いをする為には、此方こちらにも力があるとみせつけなければならない。力による保証のない言葉など相手にされないためである。


 相手は独裁者やぞ。共通の価値観なんて存在しない。力こそ共通言語だ。


 さて、今度はタケに向かって声を掛ける。


「お前さ、素手では負けたけど剣やったら負けんと思ってないか?」

「それは本当の事じゃないのか?」

「純粋な剣だったらな。」

「純粋?」


 タケは机の横に木刀を置いているが、その彼の木刀を拝借する。彼が天下無双を目指すのは良いんやが、木刀を持ち歩いていて迷惑極まる。持ち運びの扱いも非常に危険だ。


 傘を持つ時にさあ、畳んだ傘を縦に持つんじゃなくて、横に持つヤツおらへん? しかも、歩く時に前後に振るから刺さるっちゅうねん。駅の階段でそれするヤツ、脳ミソ腐っとるんちゃう?


 子供はともかく、スーツ姿のサラリーマンがそんな事をしとるのを見た時には、思わず殺意の波動が目覚めるのを感じてしまう。さすがに滅多におらんが、仕事の前に人としてのマナーを身に付けろと言いたい。


 話が逸れたが、タケは何時いつもそんな感じで木刀を持ち歩いている。教育的指導をしなあかんな。


「お前の木刀より僕の手刀のほうが強い。」

「いや、さすがにそれは……。」

「しっかり見とけよ。」


 普通なら素手が棍棒や木刀に勝つのは不可能だが、それを可能にするのが魔法の存在である。


 以前に検証した事があるのだが、切り出されて時間のたった木材は、木属性魔法ではなく土属性魔法が作用する。細胞が既に死んでいるからである。簡単に言えば死にたては木属性、化石になったら土属性って感じか。


 ゾンビはどうやの?


 うーん、この世界にゾンビっておるんか? あまり会いたいとは思わんね。


 さて、複合魔法の木属性より土属性のほうが扱いは簡単だ。まだ余裕がある為、追加で身体強化の水属性魔法を発動させる。


 手刀で木刀を叩き折ったるぜ。良う見とけや。


 デモンストレーションは派手にやったほうがええからね。本来なら喧嘩に魔法を使うのはご法度だが、あくまでデモンストレーションだ。それに、いざとなったら何するか分からんキレたヤツと思われたほうが、抑止力として効果的でもある。


 イカれて行動の読めんヤツほど怖いものは無いからね。


 …… ちょっと待て。お前ホントにそれでええん? ヤバなってきてないか?


 その言動、中二病じゃないのか? じっくり考えろ。

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