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1 渾沌
一番古い記憶は何時の頃だろうか。
おそらく3歳位なのではと思う。だが、それ以後の数年、記憶に混乱が生じていた。
いつの頃からか、現実感のある夢を見るようになった。色彩があり、触覚、痛覚があり、味覚さえ感じた。その夢の中で様々な生物となり、その生を経験する。
大地を駆る獣であった。
天空を舞う鳥であった。
暗闇に潜む蝙蝠であった。
井戸に住まう蛙であった。
汚泥を喰らう蟲であった。
深海を漂う怪魚であった。
初めは夜の夢だけであったが、次第に白昼夢となり宙に迷う。現実と混ざり合い、処理能力を超えた情報が頭から溢れ出す。
人間であるという意識を拠り所とし、膨大な情報と格闘する。
そんな日々が続き、僕は5歳になろうとしていた。