3. 涼しい朝
朝、わたしは諸々の準備を済ませて家を出ると、毎朝決まって向かうところがある。
昨日より数度低い気温ではあるけれど、まだ手袋以外の防寒着の必要のないくらいだ。家族に行ってきますの挨拶をしてから外へ出て道路を歩くこと数歩。
ピンポーン
そして更にインターホンを鳴らして待つこと数秒。
ガチャッ
わたしの住む隣の家から学校指定のライトブルーのブレザーを身に纏った真帆が無表情で出てきた。肌寒いからか、マフラーをしている隙間から見えた頬は少し紅かった気がした。
「真帆、おはよ」
「……おはよう、彼方」
「今日は時間どおりね」
「いつも彼方に迷惑をかける訳にはいかないから」
朝に弱い真帆は時間通りに起きられないことも多く、一緒に学校にいくついでに、と毎朝起こしに行っている。
真帆が遅く起きて支度をしても遅刻しないように、登校時間ギリギリのバスに間に合う三十分前に行くようにしているのだけれど、今日は珍しくわたしが合鍵を使う必要のない日だった。
軽くお互いの身だしなみのチェックをしていると、真帆の手の可愛らしいもふもふの手袋が左手にしか付いてない事に気づいた。
いつもはツンツン傲慢な態度を演じていられるのに、私の前でだけしおらしい乙女になるのだから、小動物のようで可愛くて。ついいじめてしまいたくなる。
「手、繋ぎたいの?」
「…………うん」
「ふーん。……そういう時は?」
腰を少しかがめて、僅かに真帆の方が高い身長差を広めるようにして覗き込むような体勢で上目遣いをしながら、意地悪に微笑む。
「…………いじわる」
「わたし、大好きな可愛い人には意地悪したくなっちゃうの」
「いじわる」
マフラーで口許が隠れているので見えないけれど、きっと口を少し尖らせて真っ赤に恥ずかしがっているのだろう。
声からその様子が伝わってきた。
「ほら、ね?」
「……彼方、手、繋いでいこう?」
「もちろん。良いよ♪」
お願いを聞いてから、わたしは指を絡ませるようにして真帆の手を握る。触れ合っているところから感じる温もりは、確かにここに真帆がいる証拠だ。
お願いしてもらうと言っても、特別変なことをする訳では無い。だれもが普通にするようにお願いするだけ。
でも、これは真帆にとって大切なこと。
認めてくれる人がちゃんといるって解ってもらうため。
「あたたかいね」
「うん。わたしも真帆の暖かさ感じる」
「……そろそろ行こうか?」
「そうだね。電車、暖かいから早く行こう!」
わたしたちはぎゅっとしっかり手を握りあったまま、わたし達は駅に向かってあるき出した。
第四話
明日(2/1)4時頃投稿予定