2. 私のお姫様
真帆視点。
中学校の最高学年という立場も折り返し地点を過ぎ、いよいよ受験シーズンが迫ってきた秋頃。
私と彼方は通学に利用しているバスから降り、残り僅かな道のりを、手をぎゅっと繋ぎながら歩いていた。
学年の同性と比べても高めの身長を持つ私よりも、同い年のくせに頭一つ分小さな彼方はとっても可愛らしい、私の大好きな大好きな愛しい人。
成績や運動神経はそこそこ。ちょっぴり天然気味な彼方には、私に到底真似出来ないコミュニケーション力を身につけている。むしろ、それがあっての彼方の魅力かもしれない。
彼方と話す誰もが笑顔になり、周囲も釣られて明るくなる。クラスメート以外にも後輩や先生からの信頼も厚い、生徒会長を務めるすごい女の子。
……まるで私とは正反対。
私に近づく人は皆一様に早足になり、顔を背けて目を合わせないように去って行く。無意識に出てしまう憎まれ口に私自身が気づいたときには、既に相手は居なくなったり、泣き出したりして途方にくれてしまう。
そんな一面もあり、そもそも近寄ってくる人が少ないという事も相極まって、私の孤立は年々深まっていった。
凍てついた、何があっても決して砕けることのない、絶対零度の氷の心。
それなのに、彼方だけは昔からずっと私に優しく接してくれる。
どんなに私が酷いことを口走っても、どんなに酷い態度で接しても、決してにこにこした表情と態度を変えないその姿。
彼方は皆から昔から泣かれ、逃げられてばかりいる私、如月真帆という人生に差し込んだ、唯一の光だ。
***
「ねえ、真帆ちゃんも遊ぼうよ?」
彼方とは昔からの幼馴染だったのだけれど、小学生の頃は正直あまり仲が良いというわけではなかった。
私という存在がを否定され、何もかも信用できなくなった私が全てを一方的に拒絶していた頃。昔は遊んだけど段々疎遠になったご近所さん。程度の認識しか持っていなかった私は、他の誰へ接するのと同じような扱いをした。
つまり、暴言の数々や見下した発言と言った、私の心から他者を排斥する行動。
あの出来事で誰も信じられなくなって、はっきり言って私は荒れた。
世の中の何もかもが信じられなくなり、全てを拒絶し締め出した。
そんな時。
「真帆ちゃん、一緒にお出かけしよ? 最近元気ないよ……」
こんなことをされて、普通なら嬉しくないはずがない。
でも、私の心は彼方を拒絶した。私はこの世界から必要とされない。心配をしたふりをしているだけだろう。いつかきっと、裏切られるだろう。
そう思っていたから。
今思い返せば、誰も信じられないという固定概念に囚われて、私の側にはいつも彼方がいたことを忘れていた。昔から、私の隣には彼方が必ずいてくれたのに。
「真帆ちゃん、一緒に学校に行こう?」
「真帆ちゃん、また具合悪いの……?」
「真帆ちゃん」「真帆ちゃん」
……絶対零度の氷は決してとけないはずだった。
それでも。
それでも、彼方がそばにいてくれる。彼方だけいてくれればいい。
いつしか彼方は私のかけがえのない親友となり、決してとけないはずの、絶対零度に支配された心が。
彼方によって、彼方という存在に埋め尽くされていった。
私の彼方への想いははっきり言って依存。
私にとっての彼方とは、生きている理由のすべてだ。