楽浪の徒
まったくじたいがしんてんしないままこくこくとときだけがながれ、えぴぜほはかんがえることをやめてしまいました。
すると、
「ア、やっとみつけた」
ずじょうから勢也(行き成り)声が聞こえてえぴぜほがとびあがります。えぴぜほはいいます。
「おう、このようなところにひととはまれなり、なにようですか」
そいつは男でしたが、こえがいやにたかく、あなだらけのあかいぬのをかぶっていました。また、だしぬけにせいたかでした。
(あ、こいつ道草=楽人のべつめいだ)
えぴぜほはすぐきづきます。
おとこはいいました。
「ワタスはさがスモノスてます、棒棒鳥の探スモノスてます」
男はtやs, zのむせいおんるいをたんごにかかわらずいたずらにせっちゃくしたようなはつおんでしゃべります。
「なんですって?」
「ぼココゴがいい、ユルセますか?」
男はぼこくごでかいわがしたいといっているようであるとえぴぜほはわかったので、うなずきでへんとうします。えぴぜほは一進娯楽主義でしたが、げんごがくしゅうにたいしかじょうなまでのたのしみをみいだすきへきがありましたので道草のことばもしっていたのです。男はうってかわってひくく、ひびくこえでりゅうちょうにはなしはじめました。
「豆腐がすっ転んでパンダが崖から飛び降りた(私は楽人の村を出てとある秘宝を探しているもの好きです)」
楽人のことばとにんげんのことばはそのみなもとをおなじところにもつといわれており、そのどくとくなぶんめんはそのままかいしゃくするとせかいしゅうえんのもようになるといわれています。えぴぜほもまた道草々ではなします。
「皮むき包丁のソテー二人前ヨロシク(遠路はるばるお疲れ様、その秘宝というのは一体なんですか)」
「お怒りダイオウイカと楽しくカラオケおべんちゃら(ええ、それがですね、先ほど申し上げた棒棒鳥というもの何ですが……)」
「キーボードクラッシャー最低のチャレンジャー(ぼうぼうどり……ですか?棒棒鶏じゃなくて?)」
「寝たかと思えばネタだった種無し芋羊羹(そう、そういう勘違いが本当に嫌なんだ、私が最初に訪れた街のね、『黄色いカモメ』というファミリーレストラン、大衆料理屋に寄った時、メニューにこうあった。ミラノ風ドリア…三五〇、ほうれん草とベーコンのクリームスパ…二〇〇、そしてこう、棒棒鶏…一〇〇驚きましたよ、私の心底求め極まった棒棒鳥をこうも簡潔に発見せしめた訳ですからね、当然注文をして、もう料理はいいからそれを持ってさっさと帰ろうとその時点で私はもう決めてしまっていました。帰って端々まで研究し尽くしてやろうとね、しかし私の震える注文、いや、それが震えていたから良くなかったのではないというのはもう明らかなんですが、音波が引き起こしたスタッフとの精神的契約の私に対する結論は第二の凶愕を賷したのです。なんと運ばれてきたそれは、先ずもって、序の口からして何ですがね……セラミックに乗っていたのでありますよ!現代芸術の至極であるかの棒々が珪酸化合の向きな薄板一枚の上に死体然と安置されて収まる訳が無いじゃないですか!いや……確かにあれは死体だったのだ……少し説明を加えさせて頂くと、私はお待ち遠様の合図に基づいて向首したのですね、だから下の薄板が先に奇愕をもって私に呈した理屈ですよ、でも違った、皿の上に乗ってたのは棒棒鳥ならぬ……棒状の鶏だったのです!アッハッハッハッハ!!傑作だ!!巫山戯るのも大概にし給へ!!アハハ!!――奴ら棒々と聞いたからって本当に鶏を棒にして持ってくるなんて余りにも趣味が悪い、さらには奴ら頻りにバンバンジ、バンバンジ、と叫んでいる、直ぐに気づきました、私は貴方々の言語に明るくありませんが抑揚と発音でね、屹度、ひっかかったー、といったような意味でしょう、どうですか、え?不快なことにこんな冗談が人間社会全体で流行っている、あんなに流行れば引っ掛かる人も滅多でしょうから嬉しくて興が乗るのも分かりますよ、しかしきちんとお金を取ってしまうのは良くない、嘘を吐かれて金を取られる、こんなに虚しいことはない、棒棒鳥と言われて棒鶏を持ってくるなんて、タイ焼きと言われて鯛を塩焼きにして……ドラ焼きと言われて銅鑼を火にかけ、お好み焼きと言われて恋焦がれる……そんな馬鹿馬鹿しいことだと思いませんか……ねぇ貴方……)」
男はわらったりないたりまわったりさかだちをしたりしながらとかくじょうちょ熱勢なかたりをしました。男はまだしゃべります。
「強突張り駅前でティッシュ配りナポレオンばりの頑張り虚しく浴びせらるるはバリバリの罵詈雑言in Paris(そして文化というのは恐ろしい、教育の連続によって伝わっていくそれは教育者側が一体どの様な意義のあるものであるかを認知せずに与下奉るのみになりがちですからね、貴方の用にかの下らん料理事態がバンバンジの銘を給わり奉ったと勘違いし始める者が出てくるのです、本松天統という熟語を知っていますか、いくら立派でも松が天を統べることは出来ない、思い上がるなという言葉ですよ、奴ら鶏肉は思い上がったのです、かの棒棒鳥の占める地検を間違いで取得できるかも知れないなんていう風にね、周りの人間がやっていれば如何なる生産性を見出せずとも真似をしてしまう集団心理の中を駆け抜ける鳥インフルエンザの一種でしょう、ピラミッドオブザーバーですよ)」
男のことばはせっとくりょくをもってえぴぜほののうないをゆさぶります。さいしょえぴぜほは男がなれないにんげんしゃかいにでてきてきせきてきなぶんめんのがっちによるミス・アンダースタンディングをひきおこしたのだとばかりおもっていましたが、よくきくとたしかにありうることです、われわれは一せいに凄愕なるウィルスにかんせんしているのかも知れません。えぴぜほの一ぱんとか自しんとかいうものはいつのまにか暗密のはこにとじこめられてしまいました。むしろ棒棒鳥とかいてバンバンジーとよむわけがないし、いまみちばたの楽人はわれわれじんるいがないほうするとんでもないけってんをおしえてくれたようなきがしました。口をついてでてくるぎもんをえぴぜほははきだします。こえはふるえてしまいました。
「その……棒棒鳥というのはいったいぜんたいなにものなんですか?」
「ウ……ヘ……」
「あ……そうか、えーっと、楽浪の風雲児淡々隈の貴公子に吶喊し突貫工事のとっつぁん描くは凸関数(私にその棒棒鳥の何たるかをご教授願えませんか)」
「オレのサーカディアンリズムはマイナーエクスペリエンスインファラデイストオブザラプル下に推す(良かろ……私は楽人学校で皆のお祭り騒動から一人外れてずっと考古学の文献をあさっていましたよ、それらの埃臭い雰囲気は私の土臭い肌にとても合っていたものでね、そして奇妙な扞格を見つけた……しかし規則的な悖りだったんだなこれが、つまり差しに合致した次第でござ候……あ、そういえば私は貴方のことを貴方とばかり呼んでいましたねぇ貴方、貴方名前は何て言うんですか貴方)」
つまりえぴぜほはこのあたりでいみやたんごのはんべつができなくなってきました。ただでさえ道草々であるにもかかわらずややこしいぶんぽうやたんごがあずきぶくろにあなをあけたときのようにいきおいよくとびだすものですから、えぴぜほのあたまからもりかいがポロポロこぼれていきます。なをただされたことはわかりました。
「初志回転本願消滅透徹暗黒意味不明(名は胞目翳徒能
百火と言います。胞目翳の盲病に冒されても百火大罪の悪徒を滅し能う者という意味だと父からは聞いています)」
「あいうえお(良い銘々ですね、さて、何の話だったか……そう!棒棒鳥んも明説でしたね!その不規則な規則は世界中の神話、伝説からの一般化を経て一つの存在を示していた)」
「ぺい(まさかそれが……)」
「シンクロカラー一号が消滅しました……爆発です!(そう、それ即ち棒棒鳥、エデン、空虚な裂け目等とも呼ばれるがその正体は遙か後世の人々が遺した高次元並動都市船SHLと呼ばれるものです、奴らは文明の種を蒔き、全体を見守りながら時空の海を浮遊している、高見を決め込んだ最過去の根源であり絶未来の完成なんですそれが創造主棒棒鳥の正体ですよ、まあ有り体に言って馬鹿デカいタイムマシンで、正確な文献は少ないのですがその姿は大きさの目測できない黒球とその周りに半二次関数的推翼が幾つも全方向に突出しカオスに回転しているそうです、MJSV波の発受信塔なんだとか、そしてそのまた更なる外周に直柱の骨組み構造が五六本本体を貫くようにして存在している、棒棒鳥の銘々由来と私は考えて居るんですがね、案外に目撃された例は歴史全体に渡って存在して居るんですよ、多くの場合それが一体何かを理解されることは無いんですがね、私は棒棒鳥に如何なる時間座標からも出入りすることが出来る特定の場所、利便性を考えて作られた遺跡の存在を研究の末に確信しました、それを探している訳で御座います)」
えぴぜほはもうバンバンジーのなまえがなんだとかそのような下事はどうでもよくなっていました。うちゅうたんじょうのひみつがじしんにいっきょとしてりゅうにゅうしたことによりじょうねつをしげきされ、よもやじぶんがこの道草先生のお手つだいをすることはできないものだろうかとすらかんがえはじめていました。えぴぜほはおもいのたけを口にします。
「館内での写真の撮影は……禁止となっております……他のお客様の御迷惑となるような行動は……慎んで御鑑賞下さい……(先師様……先師様とお呼び致すことを御許可願います、先師様は、我々の村にその手掛かりを見つけなすったのですね!お聞き下さい、この愚身は長らく安寧の月飯を食らい肥えくたばって果ては我が身を何時虚無へ還そうかと思案するばかりで意欲というものを持ち合わせた試しが御座いませんでした、しかし!先師様の御高説を拝聴拝身して脳髄が引き繰り返りました!どうか先師の旅路へ追随し微か乍らも下事抹消に努めさせては頂けませんでしょうか。)」
「右は盛り下げ隊長としての功労甚だ不愉快極まり我気に入らぬ也(いえ、手がかり、というよりも……確率問題ですよこれは、私はこの村の大衆料理屋に立ち寄り、棒棒鳥を注文する、そうすると大抵はいたずらに終わるがいずれ棒々の手がかりが出てくることでしょう、何て言ったって楽人の寿命はほぼ永遠と言っても良い位のものだから試行回数での勝負が最も賢いのです)」
「なんだって!!そんなばかなはなしがあるか!!」
えぴぜほはぼこくごでさけびをあげながら道草の男をなぐりつけます。ていじされた一しゅんのしんえんがえぴぜほによびだしたのはせつなてきよっきゅうであったので、かれののうないであふれでたアドレナリンとドーパミンは然な悠時にじゅようてきでなかったのです。いわばしょうどうであったのでさきほどのちゅうせいは賤欲からでたいきおいのどろだったわけです。道草はかんせいにふかれころがります。とまろうとくさをいくどとなくつかみましたが、このそうげんはことごとくアブラナかイヌガラシぞくにうめつくされており苔がふとかいまみえたとおもっても終止虚仮で、イヌガラシです。草々。道草はわかみどりのやわくさのはにかみを無血無涙にひきちぎります。百米ほどさきでとまり、おきあがりました。
「いそいでそんじた、九仞一簣のてぬきこうじにていぼうたちくずれた」
えぴぜほはとっさのこういにとっさのこうかいをむけました。にげたくなってふりかえります。すぐはのなのさんずんさきに道草がいます。えぴぜほは絶愕し、ふだんのくちやかましいとやかくしのごのいかんのそのが出てきません。
「あーっはっはっはっはっ(貴様どうも命が惜しくないと見える)」
おとこのあかいがいとうが楽浪的かつちょうげんじつてきにうねりねじれかすかなあおせんこうをはっします。
「あーっはっはっはっはっ!!(人間文化とは相いれないと常々感じてはいたがここに最固の壁を発見したぞ)」
あなとおもわれたやぶれはひたすらにあんこくをきわめそれぞれのおりがうきあがります。赤条一本々々がちょくせんとおれまがりをようそとするきかさんじこうぞうをあんこくきゅうちゅうけいせいしてゆき、ぬのはぶんかい、道草のほんたいである変五感器連組織がろけんしました。
「あーっはっはっはっはっ!!!(問答無用言語道断)」「しにたまひね!(お待ち下さい!)」
えぴぜほはじしんの楽浪をまったくかなぐりすててしんぞうからさけびます。
道草のしゅういをせいちょうする命運赤糸がうきよそうらんをこまわりのごとくぶんだんし、それがぶつりてきそんざいではないようにおもえてきたほどなか、そのさけびははばのない直赤線にこうかんされるあんこくのまたたきをろうらくしました。きくきがあるのかもしれません。
「Watch these jumping thin casual books in raw foods that yelling shy girls have made on the boats.(私は先師の無駄を殴ったのであって先師を殴ったのではないのです、先師が幾つの大衆料理屋を巡り統計的加熱濃縮で確率の蒸発を促進した所で棒々結晶の析出は決して発生しないでしょう、何故なら棒々は料理ではないからです!)」
そのとうぜんのきけつはなにゆえか道草にかつてないほどのおどろきをあたえます。盲目は工夫でもあるのです。まぶしいひかりのなかではかんさいぼうのはっかはおさえられております、あまりにおおいにゅうりょくはそうていされたかのみをぶんせきするきこうしかもっていないのうにとってしげきでしかないからです。あんじゅんのうからとうとつにけいこうとうのもとへつれだされればだれだってめをほそめることからもわかるように。楽人のせいたいてきせいしつにしたがったぶんかようしきにたいする、そのもうもくにたいしてぶつけるとうぜんはこんかいのばあいさとりではなくこうげきとしてなったのでした。道草はかんじょうはんだんばんてきさようをもつがんめんそれすべてのきんにくをまるでおいだしたいかのようにきんちょうさせてしまいました。あかせんがところどころとぎれつーっとぜんたいがきえていきます。かれのひょうじょうはけいようするならばくはつでした。さまざまなおどろきのひょうげんをしっているえぴぜほですらこれをあんちょくに霹愕だとか驚滅だとかいってしまうのがはばかられ、げんごとはかたちをかえるぶんかのうえにのった可塑粘物質だとのじろんをもつかれはそのばでせいしきにじゅくごをつくってしまいました。いわく、「楽愕」。すべてのざつねんをいきおいでほうむりいのちまでもをときはなつ、そんなごくらくの驚地といういみです。ざいしょ、えぴぜほがおそるおそるかおをのぞきこんだときは男がしろめをむいているようにうかがわれましたがどうやらくろめじたいがしょうめつしつつあるようです。ながめつづけるとはいいろであった薄虹彩は見えなくなってなんだか透明な結晶的粒粒が内部に出現したようにおもわれました。よくみるとかれぜんたいからいろがうしなわれています。それになにかいいあらわせぬいじょうがかんじられました。えぴぜほが道草院にしもんをせっしょくしようとしたそのとき、楽人はザッというおととともにほうかい。なんとみじんとかししろいすなやまになりかわってしまいました。
ひとつまみ。
含口。
しおけ。
「しゅうびがひらいてなかからぼんとしょうがつがでてくるとは!これはなみのはなというやつだ、豁然として大きくいかんせんかさとったぞ! 地平遠眺我意廃捨にしすよりしおをくらってねよう!はははははは!」
えぴぜほはそのしおのやまをふくにくるんでもってかえりみんなにわけましたがわけてもわけても、つかってもつかってもいっこうにへるけはいがありませんでした。むらびとはみなそのしおをそとにうったかねでゆうふくにくらし、えぴぜほはそんちょうになったとさ。めでたしめでたし。
楽人はなぜ絶滅したか~マヤの滅亡~編はこれでおしまい。