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魔王城250階ユメミロへようこそ  作者: あまあまあま
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6.日常

 チュンチュンチュン…………


 鳥の鳴き声が聞こえてくると、ハーベストは朝の気配を感じた。

 ああ、いつもの朝だと感じながら、姿勢は横になりながらも大きく背伸びをした。


 チュンチュンチュン…………


 視線を右側に移すとリーナの寝顔が見えた。

 起きている時は何事にも興味のなさそうなジト目をしているが、

 寝ている時は子供らしく無垢な表情をしている。


 ヂュンヂュンヂュン…………


 さて、今日も店内の掃除を終えたら、リーナに基礎魔法を教えてあげないとな。

 しかし、リーナも基礎魔法は十分できているし、

 そろそろ中級コースに入っていってもいいかもしれないな――。


 ヂュオンヂュオヂュヂュンヂュヂュオンヂュンヂュン……………


 「……うるさいなぁ、この目覚まし時計」

 

 枕元にある目覚まし時計に手を伸ばし、スイッチを押して音を止めた。

 音が消えると一瞬静寂が訪れるのだが、その数秒後に新たな音声が流れてくる。

 

 キョウハ 736年5月15日7時キッカリト ナリマス。


 目覚まし時計は音声を流し終えると、一日の仕事が終わったかのように眠りについた。


 「腹減ったなぁ」と、軽くあくびをしながら呟く。

 「もう月の半分か――」


 そう言いかけると、リーナが目のあたりを擦りながら起き上がってきた。

 この瞬間までなら可愛らしいんだけどなと思ったが、

 それを口に出すと今日の機嫌が悪くなりかねないので何も言わなかった。

 今日もまた一日が始まった、とハーベストは思った。


 ハーベストは顔を洗って髪をとかした後、6畳ほどの小さな居間に向かった。

 この居間は二人が大抵の時間はここでのんびりしている場所で、

 大きなテーブルと座布団が2枚ほど置かれている。

 もちろん、これらも魔物の死骸などを火魔法で変形させたりして作った物なので、

 使い勝手は市販の物よりも悪いが。

 他には魔力で動く暖房機や掛け時計、基礎魔法を学ぶための指導書などが、置いてある。


 食事はハーベストとリーナが日替わりで交代しており、今日はリーナの番だ。

 始めの頃はハーベスト一人だけで食事を作っていたのだが、

 リーナが手伝ってみたいと言い出してきたため、彼女に教えつつも任していた。

 居間で座りながらでもパジャマ姿の彼女が料理をしている所が見える。

 ただ、リーナが料理をすることを想定していなかったため、

 キッチンの高さは大人用に作っていた。

 そのためリーナは台座に乗りながら料理をしていた。

 

 「ハーベスト、目玉焼きでいい?」

 「ええ。あと昨日の残り物がまだ食べられると思うので」


 魔王城での食材は全て魔物を倒して得られる物だ。

 卵に関しても、昨日249階を探索していた時に手に入れられたものだ。

 鶏型の魔物が巣を作っていたのを発見してから、時間をかけてなんとか全滅させた。

 これで当分の食料には心配をせずに済むだろう。


 「えっと、卵をフライパンの上で割って……」と、リーナが確認するように呟くと、卵を割った音が聞こえた。卵が焼ける音はとても食欲がそそられた。久しぶりの卵料理というのもあってハーベストは少しうずうずしながら待っていた。


 「はい、できた」と言って、リーナは料理を運んできた。

 「おお、よくできています――」と、褒めようとしたが、

 何故か自分の皿だけ妙に目玉焼きの量が多いことに気づいた。

 ぱっと見でも黄身が5つほど見えており、朝起きてすぐに食べられる量ではない。


 「リーナ、これは……」

 「全部ハーベストの分よ。おなかすいてるって言ってたでしょ?」と、いつもの調子で

言ってきた。

 「お、お気遣いいただき、ありがとうございます……」



 「ああー、苦しい」と、ハーベストは倒れこみながら言った。

 食事が終わり、リーナが片付けを始めていた。

 ハーベストは時間をかけながらもなんとか大量の目玉焼きを食べ終え、

 少し苦しそうにしながら寝ころんでいた。


 目玉焼きは丁度良い焼き加減でよく出来ていたのだが、

 ハーベストは大食いというよりも、むしろ小食なほうであったため、

 目玉焼きだけでも、食を進めるのが容易ではなかった。

 ただ、リーナが今日は成功したと思っていたのか、

 時折ハーベストが食べている表情を嬉しそうに見ていたのもあって、

 絶対に残せない!と、ハーベストは無理やりにでも限界の近い腹の中に入れたのだ。


 「ハーベスト、食べてすぐ寝たら牛になるよ?」と、食器を洗いながら言ってくる姿はまるでお節介やきの母親のようだ。

 「分かってますって、それより終わったら魔法練習を始めますからね」

 「はーい、今日も基礎魔法?」

 「もちろん、基礎は大事ですから」

 「でも、ちょっとつまんない」

 「基礎につまるつまらないなんてものはないんですよ」と、ハーベストは膨れた腹をさすりながら言った。

 「そうかなぁ」と言って、片づけを終えたリーナが居間に戻ってきた。

 「そうです、大事な事なんですよ」と、ハーベストは笑いかけながら言った。


 朝食を済ませた後、ハーベスト達はリーナの基礎魔法練習を始めるため、

 歯磨きと普段の衣装への着替えなどの準備を終わらせると、店の外に出た。

 ユメミロの正面にはある程度自由にできるスペースがあるため、

 魔法練習をする際にはうってつけの場所だ。


 魔王城内の空間のほとんどは石造りなため、気温は低く感じやすい。

 それに加えて季節という概念もないため、ユメミロ内以外では服装は厚着であることが多い。

 実際、二人は普段の服装に加え何枚か重ね着をよくしていた。


 その二人の恰好はというと、ハーベストは黒いロングコートに原色バッチが大量についた、奇妙な服装に加え両手には何やら革手袋をはめているようだった。

 リーナも、いつも通りのゴスロリ衣装と紅いマフラーを身に着けていた。さらに手にはA4用紙ほどの紙に魔法陣のような印が描かれている物を、3枚ほど持ってきていた。


 「じゃあ、始めましょうか。よろしくお願いします」と、ハーベストが軽く頭を下げながら言うと、 「はい、よろしくお願いします」と、リーナもそれに続くように頭を下げた。

 

 「今日の練習メニューは昼食時までは火魔法を、午後からは水魔法と土魔法を教えていきます。何か質問があれば答えますが?」と、ハーベストは先生らしい口調で語りかける。普段も比較的丁寧な口調で話すが、この魔法練習の時には特に真面目ぶった口調になる。


「ハイ」と、リーナが右手を上げた。

「おや、珍しいですね」と、それにハーベストは少し驚いた。

 なぜなら、リーナはいつもは質問などをせずにすぐに魔法練習に入りたがるのだが、

 今日に限っては自分から主張するようにしたからであった。

 普段二人でいても、あまり質問をしてこなかったため、

 ハーベストはそのことに少し嬉しさを感じた。


 「ちょっと気になることがあったから」

 「いいですよ、なんでも答えますので」と、ハーベストは笑いかけながら言った。

 「じゃあ、えーと、今学んでいる基礎魔法ってこの紙がないとつかえないじゃない?」と、リーナは手に持った紙をひらひらとさせながら聞いてきた。

 「そうですね。魔法を使うためには魔力を持ったなんらかの媒介、それと詠唱魔法もしくは魔法陣のような術式、それらが揃うことで魔法が発現させることができますね」

 「うん、それは教えてもらったから分かってる。でも、ハーベストは敵と戦うときには詠唱魔法をよく使っているでしょ?どうして私は魔法陣の練習ばかりなのかなって思ったの」と、少し首を傾げながら聞いてきた。


 ハーベストは少し考える素振りをした後、人差し指を立てながら話し始めた。

 「私が主に詠唱魔法を使っているのは、それは詠唱魔法が万能的、つまり使いたい魔法を使いたいときに使えるからです。順を追って説明します、詠唱魔法とは古代より決められた言葉を発声することで魔法が発現できる方法です。メリットは魔法選択の余地がある点、デメリットは大型の魔法になるほど時間が掛かってしまう点ですね」


 リーナを見ると集中して話を聞いているようだった。

 「対して、魔方陣は事前に壁や床、本や紙などに描いておき、魔力を流し込むことで魔法を発現させる方法ですね。メリットは事前に魔法陣を描いておくことで、詠唱魔法より素早い点、そして時間を掛ければ大型の魔法でも容易く発現できる点ですね。デメリットは魔法陣が非常に精密なものなのである点です。一部分が間違っていたり擦れている、魔力を流し込む際にも気をつけなければ、暴発してしまうことだってある大変危険な方法でもあるのです。」


 そこまで言い終わるとハーベストは話を戻した。

 「では質問の答えになりますが、私がリーナに魔法陣のやり方を主に教えているのはあなたが天才的な魔法使いだと考えているからです」

 「天才的……?」と、リーナはまた首を傾げた。

 「そうですよ」

 「でも、基礎魔法しか使えないし、死者操作だって全然上手じゃないよ」

 「それはまだ私が教えてないからですよ。教え始めたら私なんて簡単に抜かされてしまいますよ」

 「うーん」と、リーナはいまいち納得していないようだった。

 「まあ、期待をかけるようじゃありませんがね。あなたの素質は――」

 と、ハーベストが言いかけた時、それまで話を聞いていたリーナが急に口を開いた。


 「ハーベスト」

 「ん?何ですか――」と、ハーベストが言い終わると同時に次の言葉が発せられた。


 「何か来てる」

 「ッ!?」


 その言葉を発端に、ハーベストはユメミロの真正面にある魔法陣の方に目を向けた。

 すると、魔法陣がかすかに光っていることに気づいた。

 そして、その光度が徐々に高まっていくのと同時に魔力が増大していくことにも気がついた。

 その異常な事態を完全に理解したハーベスト達の間には、先ほどまでにはなかった重い緊張感が流れ始めていった。


 「……リーナ下がっていなさい」

 「でも、私も――」

 「いいから、見ているのも勉強ですよ」


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