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魔王城250階ユメミロへようこそ  作者: あまあまあま
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4.買い物の金額

 ハーベストが測定器で魔心石を調べ始めるとその測定器から聞こえてくるのか、

「ピー・ピー・」という電子音のような音が薄く部屋中に広がり始めた。

 ラロッカは多少耳障りに感じたが、その音が収まるのを待っていた。


 だが、数分経っても測定は終わらず、

 そのたびにハーベストにまだ終わらないのかという合図を送ったつもりだったが、

 特に気にする様子もなく測定を続けていた。


 なんとも掴みどころのない不思議な男だとラロッカは思った。


 「よろしければ、他の商品も見ていってください」

 「ああ、そうさせてもらうぜ」


 「リーナ、案内してもらえます?」

 「うん。このかごに欲しいのを詰めてって」と言って、なかなかの大きさのかごを手渡してきた。

 これなら、必要なものを全て入れても、収まりきる大きさだ。


 武具の棚から離れてまず最初に向かったのは、薬品コーナーと思われる場所だ。

 冒険者にとって、重要な消耗品であることは間違いない。


 「ハーベスト、さすがにこれはパチモンじゃないよな?」と、

 測定器を弄っているハーベストに声をかけた。

 「ハハハ、私は一応調合も出来るんです。試し飲みしてみても大丈夫ですよ」

 「・・・さっき飲んだ滋養薬で十分だ。信じるぜ」


 そう言って、薬品たちに目を向ける。

 回復薬から解毒薬、先ほど飲んだ滋養薬まで様々な種類がも並べてあったが、

 俺が一番求めていたものはそこにはなかった。


 「ここにはないのか?」と、独り言を呟くとリーナには聞こえていたようで、

 「何を探しているの?」と、下から顔を覗き込みながら聞いてきた。

 「あれだよあれ、解魔毒の・・・」

 「シガレット?それなら、あっちの棚の中」と、言うとリーナはその棚の方に向かい、

 すぐにお目当ての物を取ってきてくれた。

 

 「おおそれそれ、サンキュな」

 「どうも」と、リーナは興味がなさそうに言った。


 「ハーベスト、これ銘柄なんだ?」

 「自家製ですよ、もちろん」

 「そりゃそうか、こんな場所じゃ既製品は使い切っただろうしな」


 解魔毒シガレット、30年ほど前に開発され、それ以降魔物がいる地域に行く際には、

 旅人から冒険者まで様々な人の必需品となった。


 ちなみに、シガレットと命名されたのは形が似ているというだけで、

 ニコチンなどの依存性、身体に悪影響を及ぼす成分は入っていない。




 その他にも、回復薬や緊急回避用の巻物、

 非常食も並べてあったのでかごに詰められるだけ詰めていった。


 もう買うものはないかと顔を動かしていると、

 「測定終わりましたよ」と、ハーベストが言った。


 「いいタイミングだな。こっちも欲しい物は詰め終わったぜ」と言って、ラロッカはパンパンのかごを床に置いた。

 「ホントにいっぱいだ」と、リーナは少し驚いているように呟いた。

 「それだけ、買ってもらえると頑張って集めた甲斐がありますよ」


 「では能力補正を説明させていただきます」

 「紅の魔心石があなたに与える基本効果は、攻撃力+150%、防御力+20%。特殊効果は火属性のエンチャントと、自己治癒力増加、Aランクまでの魔物に対して中確率で即死効果、と言ったところですね」


 「さすがに良い効果ばかりだな」

 「やはり、超レア物といったところですね」

 「まったくだな、これなら魔王の元まで進めるかもしれないな」と、ラロッカは満足そうに言った。


 だが、急に何かを思い出したのか先ほどの表情から一変して、

 少し困ったような表情をしていた。

 

 「どうかしましたか?」

 「ずっと忘れていたんだが、一つだけ聞いてもいいか?」

 「ええもちろん」


 ラロッカは買い物を続けながらも何かの違和感を覚えていた。

 実際、さっさとその違和感を口に出してみれば良かったのだが、

 魔心石の測定を頼み、商品を片っ端からかごに入れていると、

 脳がその事実を思い出させないようにしたのかもしれない。


 完全にその事実を思い出してから、少しの間をおいて、ラロッカは言い出した。


 「俺、金持ってないぞ」


 ラロッカは周りの雰囲気が凍ったようにも感じた。

 まるで、酒の勢いで髪の薄いおっちゃんにハゲと口を滑らしてしまい、

 しかも、そのおっちゃんがお偉いさんだったときのような。

 だが、ハーベストの返答は思いがけないものだった。


 「そんなことは分かっていますよ」と、

 ラロッカの固まっていた身体をほぐすように、優しく言った。続けるように、

 「ユメミロでは金を取りません。というか、金を持って魔王城に入る人なんていないですし」


 「それはそうだが・・・、だったらお前らはどうするんだ?ユメミロは物を取られるだけの店なのか?それがお前らの言う手助けってやつか?」と、ラロッカは疑問を全てぶつけた。


 ハーベストはラロッカの疑問を聞いた後、

 その言葉を噛みしめるように考えるような仕草をした。


 「確かにそうですね、金を取りませんからこちらは損をするだけですね」

 「だろ?だったら何かを交換するとかなあ」と、ラロッカは頭を掻きながら言った。

 すると、ハーベストが可笑しそうに笑った。

 「なんだ?何が可笑しいんだ?」

 「いえ、すいません。ラロッカさんっていい人だなって」と言うと、

 ハーベストはまた可笑しそうに笑った。

 「な!?・・・、別にそういうんじゃねえよ。ただ気持ちわりいんだ、こっちが恵んでもらっているみたいで」と、少し顔を赤らめながら言った。


 ハーベストの笑いが収まると、表情を少し真面目そうにしてラロッカの顔を見つめた。

 「そこまで言うのなら、ただ一つだけ欲しいものがあります」

 「おおなんでもいいぜ、もちろん命と交換とか言い出したらぶん殴るがな」

 「・・・よく分かりましたね」

 「あ?」




 

 「私達の欲しい物は魔王の命です」





 「そういう事か」と、ラロッカは店の天井を見上げながら言った。

 「そういう事です」

 「魔王殺しか・・・、確かにあの魔心石と消耗品があれば、後30階ほどは登れると思うが・・・」

 「別に難しく考えなくても、一歩先で死んでやる精神で進んでくれれば満足ですよ」

 「なんだその精神は、だがそれもそうだな。俺の考えは変わらない」と、

 ラロッカは何かの覚悟を決めたようにも思えた。


 「私達の思いをあなたに乗っけたいのです」と、

 ハーベストはラロッカの目をしっかりと見つめながら言った。


 ユメミロでの買い物が終わると、ラロッカは荷造りをした。

 ハーベストが運びやすいようにと、リュックを差し出してくれたのはありがたかった。


 ラロッカ達は店の外に出て、店の裏側にある251階に進むためのドアに向かった。

 魔王城の階層移動は魔法陣を用いるが、250階などのボス部屋では大部屋の奥にドアがあり、

 その奥の小部屋に魔方陣が設置されている。


 「ラロッカさん、交換条件お願いしますね」

 「ラロッカ、バイバイ」

 「おお、ハーベスト。ちょっといいか?」と言って、ラロッカはハーベストを引き留めた。

 「なんですか?」

 「その子に聞かせたくない話なんだが」と言うと、軽口を叩けるような雰囲気ではないとハーベストは感じた。


 「分かりました。リーナは戻っていなさい」

 「うん」とリーナは言って、ユメミロの中に戻っていった。


 ラロッカはリーナが見えなくなったのを確認して、

 ハーベストと向かい合うようにした。

 そして、ラロッカは開口一番に、ずっと抱えていた疑問をぶつけた。


 「てめえらはついて来ないのか?」


それを聞いたハーベストは表情を変えないままだった。



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