3.まがい物と魔心石
人魔店ユメミロの内部は幻想的な風景に包まれながらも、様々な実用品が陳列されていて、非常に実用的な店という感じがした。
よく目を凝らして見てみると様々な武器や防具が壁にかけられており、大剣から槍、ナイフといった近接武器から魔法使い用のロッドやグローブ、胸当て、ブーツに眼帯のような物もある。
奥の本棚には魔導書と見える物もあって、まさに何でも揃っているといっても過言ではなかった。
「どうですか?ユメミロの品ぞろえは」
「素晴らしいな、こんな場所でここまで揃えられるなんて」
「ありがとうございます」と、ハーベストが軽く頭を下げながら言った。
「どういたしましてー」
「いやお前には言ってないぞリーナ」と、ハーベストは躾けるように言った。
「だって半分は私が作ったし」
「作った?ってことは鍛冶もできるのか?」と、ラロッカは不思議そうに言った。
「ああ、なんでもないですよー。だろリーナさん?」
ハーベストはそう言いながらリーナの口を手で塞ぐと、リーナが「んーんー!」と苦しそうにしており、少し可哀そうに思えた。
「もっと近づいて見てもいいか?」
「ええ、もちろん」
ラロッカはまず武器が飾られてある棚に近づいていった。
離れていても素晴らしい魔力を感じられて、
地上ではまず見られない超レア物だと思うと少し鳥肌が立った。
まず飾られている武器の中でも一番の魔力が感じられる大剣から見ていくことにする。
ぱっと見だが刃が鉄や鋼といった鉱物系ではないことは分かった。
ってことは、魔物の爪や牙を固めて作った刃だと推測した。
ゆっくりと手を刃の部分に近づけてみると、それまで出会ってきた武器と呼ばれるものとは異質な、強大な魔力を感じた。
これこそが魔王城でしか見つけることが出来ない魔道具だと思った。
だがよく見れば見るほどある違和感を覚えたので、
「ハーベスト、一つ聞いていいか」と、ラロッカは大剣を見つめながら言った。
「ええもちろん」
「これ・・・レプリカだろ」
「・・・・・・あ、やっぱり分かりました?」
「ばれちゃったね」
「・・・・・・大剣は貝型の魔物の甲殻を削ってそれっぽく見せただけ。槍は巨人型の魔物の肘から手首まで骨を柄にして、槍頭は指の骨を使っている。そうだろ」
「まあ、こんな辺鄙な場所で武器なんて・・・」
「ナイフは石製か。グローブは革製だが縫い目がぐちゃぐちゃ。ブーツは粘土製。眼帯に至っては折り紙で作ってあるなんて素晴らしいじゃないか」
「眼帯は私が作ったの。可愛らしいでしょ」
「ああ可愛らしいな。だがなこんな実用性のないガキのお遊びのような店なら、俺はさっさと出ていくぜ。なあハーベスト」と、ラロッカは怒りとも笑いとも取れないような表情をしながら言った。
「まあまあ、ちょっと待ってくださいよ。ブーツとか眼帯ははまあ子供が遊びで作ったようなものですが、これは確実にレア物ですよ」
「そそ、大剣だって自称店主が7日間寝ずに作って『これはユメミロの目玉商品になるぞおお!!』ってすごく張り切っていた武器だもの。レア物よ」
「ひとつだけ言わせていただきますと、大剣が完成した時はリーナもそれはそれは喜んでいて『やっぱり私達のやってきたことは無駄じゃなかったのよ!!』って目をキラキラさせながらはしゃいでいましたよね」
「だって・・・、私もほとんど寝ないで手伝っていたから。眠かったし」
ラロッカは少しため息をつきながら二人の言い争いを聞いていた。
二人が頑張っていたのは伝わったが実用性のない物ばかりだと、
最初のワクワク感も徐々に冷めていくのが分かった。
「わかったわかった。武具はもういいから回復薬とか巻物を見せて・・・」
「あ!ラロッカさんちょっと待ってください」
「だからもう武器はいいって」
「違いますよ。確かに武器はガラクタみたいなものですが、それに付随している魔力は本物でしょう?」
「・・・言われてみればガラクタにしては魔力の量は強大に見えるな」
「そうなんです!その理由は柄の部分にあります。よく見てください」
そう言われてラロッカは大剣の柄に目を近づけてみる。
そうすると小さなビー玉のような物が柄にはめられているのが分かる。
しかもそのビー玉のような物からは、まるでドライアイスから出る二酸化炭素のように魔力が漏れ出ていた。
「これは・・・」
「地上ではまず見かけないものですよね。これを魔石というには非常に濃度が高すぎますし、何より自然にできたには綺麗な球体すぎます。こういうのを真円って言うんでしたっけ」
「俺はただの剣士だから詳しいことは分からん。ただ仲間の魔法使い、ミーチェってやつからもこんな魔石は聞いたことがないぞ」
その球体は紅く怪しい渦をその球の中で巻いていた。
その魔力の動きを目に入れると無意識的に見てしまっていたのが、なんとも不気味であった。
「それは魔心石と呼ばれるもの」と、後ろから声が聞こえたので振り返るとリーナが話しかけていたようだ。
「魔心石?それは魔石とは違うものってことか?」
「そう、魔石は魔力が濃い場所を掘り返せば全部魔石になる。魔心石は魔物の体内から出てくるもの。違いはそれだけ」
そう言いながらリーナも俺のそばに近づいてきて、魔心石を見つめた。
こうして横に並んでみると俺の腰ぐらいの高さぐらいの身長しかないので、
本当にこんな子供が冒険者で魔王城250階まで来れたほどの実力者なのかと不思議に思った。
「魔物の体内に石が出来ているってことか、・・・なんか痛そうだな」
「魔王城ほどの魔力が濃い場所に生息しているからこういうアイテムが取れるの。ユメミロのアドバンテージってやつね」
「確かにこいつは滅多にお目にかかれねえし戦力補強としても非常に十分だな」
「でしょ」と、リーナが少し笑みをこぼした。
「敵を倒すために一番有効な力は、腕力でも武器の強さでもなくて魔力ってのは分かっているでしょ?」
「もちろん。未だに納得はしてないけどな」と、ラロッカは自分の腕の力こぶを触りながら言った。
「魔物が強いとされているのは生まれながらにして魔力を扱えるから。人間が弱いのは身体にとって魔力が毒として働いてしまうから。だからこそ人間は魔石を媒介にして魔法を使えるように・・・」
「要するに、魔石または魔心石があれば強くなれるってことだろ?」
「そういう事。他にも色んな魔心石があるから、見てみて」
そう言われて、他の武器にも目を向けた。
やはり棚に飾られている武具はレプリカに魔心石がはめられている状態だった。
それぞれの球の大きさは様々で色も青、黄、紫などバリエーションに富んでいた。
それでも一番大きく色が艶やかだったのは最初に見た大剣にはめられていた魔心石だった。
「やはりこれが一番だな」と、ラロッカは満足そうに大剣にはめられている紅い魔心石を指差した。
「あ、決まりましたか」と、ハーベストが意気揚々とこちらに向かってきた。
「この魔心石をあなたの剣の柄に入れるとですねぇ、能力補正は・・・」と、ハーベストはカウンターの奥から小さな測定器を取り出して魔心石を調べ始めた。