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魔王城250階ユメミロへようこそ  作者: あまあまあま
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2.謎の店主

 「攻略者?お前らがか」

 「ええ、半年前までは私達も冒険者だったんですよ」

 

 聞かされた事実には本当に驚かされた。

 目の前にいる男は元攻略者で250階まで来ていたという事、

 しかも半年前にはすでにここまで来ていたという事。正直信じられる話ではない。


 「魔王城に入ったものは誰も出てこられない。なら、魔王城に居続けるしかない。それだけですよ」

 「・・・・・・」

 「まあまあ、私達のことはどうでもいいんですよ」

 「いや、どうでもよくは・・・」

 「重要なのはあなたですよ、えーと」


 「ラロッカ・シーハートだ。あー、よろしくな」

 「ハーベスト・アスタリスクです。よろしくお願いいたします」

 

 何気なく会話を続けているが、まだまだこいつが怪しい男だということは変わっちゃいない。

 俺も服には無頓着な所はあるがロングコート+原色バッチのセンスは見たことがない。

 罰ゲームでも着るのは無理だな。服のセンスは最低以下。

 要するに、俺がこいつを怪しんでいる一番の理由は服装ってことだ。


 「・・・どうかしましたか」

 「なんでもねえよ。それよりもさっきの話だ、魔王城に居続けるって言っていたがそんなことは普通はできる訳がねえだろ。食料だって尽きていくし、重要な水もまともに供給されない場所だぜ?」

 「食料は下の階の魔物を食べていけばいいですし、水は奴らの体液を浄化すればなんとでもいけますよ」


 「ならもう一つの質問だ、この場所の物資はどこから持ってきた?布団だってそうだが、建物は並大抵の物資じゃ無理な話だ。大体このユメミロを建てるにはお前が大工でもないと・・・」

 「実は私大工でもあるんですよ」

 「ん、何だそうだったのか。だがなぁ」

 「冗談ですよ」


 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・どうかしましたか?」

 「・・・・・・・・・次にしょうもない嘘を言ったらぶっ飛ばすぞ」


 少しの間があった後、ハーベストは先ほどのような軽い口ぶりではなく、

 落ち着きを払って話し始めた。


 「私達が250階に居続けてから、あなたのような攻略者が来たのは何人目だと思いますか?」

 「さあな」

 「2人目なんですよ、半年間で」

 「まあ、そのぐらいだろうな。大体250階まで来れるやつなんて滅多にいねえだろ」

 「ホントに、敵強すぎですよね」


 「地上ではまず見ねえ奴ばっかだな、ランクAのサル型の魔物が大群で襲ってきた時には死んだと思ったな」

 「ハハハ、215辺りでしたっけ。動きが素早いうえに口から光属性レーザー撃ってくる奴らでしたね」

 「ああそうだった、サルが魔法使ってくるのにも驚いたし、まさかレーザーとは笑いと恐怖が同時にやってきたぜ」

 「ホント、よく生きていましたね」

 「・・・だな。ここまで来れたのが本当に奇跡みたいなもんだな」

 「・・・ですね」

 

 会話が進んでいくごとに二人にある感情が目覚めていた。

 それは目の前に見えるものが人であるということ、敵である魔物ではなく味方だということだった。

 その感情が少しずつ初めに持っていた緊張感を溶かしていった。


 「このパン、手を出していいか」

 「もちろん、どうぞ」


 そう言って出されたパンに手を伸ばした。

 味は・・・中の下といったところか。

 だが、こんな場所でまともな食事ができるだけでもありがたい。

 魔王城に入ってからは保存食と魔物を食すしかなかったからな。


 続いて緑色の滋養薬も飲んだ。味は・・・下の下だな。

 良薬は口に苦しってところか。

 ハーベストは俺が食事している時は自分から話してはこなかった。

 やつの基本的な性格はどちらかというと控えめ、といったところか。


 「うまかったぜ、ごちそうさん」

 「おかわりもございますよ」

 「重要な食料をそんな簡単に取れねえだろ。遠慮しておくぜ」と、ラロッカは満足そうな顔をしながら言った。


 「それよりも少しずつだが身体が動かせるようになってきた、もう少ししたら俺はここを出るぜ」

 「・・・そうですか」

 俺がここを出ると言った瞬間ハーベストは少し悲しいというか寂しいというか微妙な表情をした。

 

 「出発するというのでしたら、一つだけよろしいですか?」

 「ん?なんだ」

 「ここから魔王にたどり着くまで50階を登っていかなくてはいけません。そして魔物の強さは増すばかり、ですよね?」


 「・・・そうだな。だからなんだ?行くのを止めろってのか?」

 ラロッカが少しだけ語気を強めながら言うと、場の雰囲気が重くなった。

 「・・・・・・止めても無駄なんでしょう?」

 「当たり前だ」と、布団から出ながらラロッカは言った。


 「“魔ノ城は天に近づく助け、高く登る者眠りの時も幸福なり”俺の故郷の言い伝えだ。要するに魔王城ってのは冒険者にとって最高の死に場所ってことだ」

 ラロッカは心の底からそう思っていた。一歩でも先に進んでから死にたいと。

 その思いを聞いたハーベストは少し表情を曇らせた。


 「ハーベストが言いたいのはそんなことじゃない」

 「うおっ、さっきの女か」

 二人が話している所に急に割り込んできたのは、先ほどのゴスロリ風の恰好をした女の子だった。

 それまでどこにも気配を感じなかったのに、気が付くとそばにいるのも相まって気味が悪いとラロッカは思った。


 「どうしたリーナ?」とハーベストは言った。

 「表の準備ができたから呼びに来た」

 「おお、そうだったな」

 「表?準備?何の話だ?」

 「人魔店ユメミロ。私が言いたかったことですよ」

 

 寝室で話し合っていた3人はユメミロの入り口まで行くことにした。

 ラロッカは説明をあまりせずに、自分たちのペースで物事を進めようとする二人に少し苛立ちを感じたが、それ以上にユメミロに何が置いてあるのかに興味を持っていた。

 

 ハーベストは先ほどの寝室で見せた陰気臭い表情とは違って、

 表情は自信ありげに意気揚々と歩いていた。

 ラロッカは、ハーベストがそれほど商品とやらを見せたいのかと思うと、少し子供っぽいんじゃないかと感じた。

 リーナはハーベストの後ろを少し離れて歩いていた。実際、表情は楽しげにというより興味があまりないような感じだ。


「ここが人魔店ユメミロ入口になります。ラロッカ様」

「・・・おお」


 入口に来た瞬間、初めに入ってきた時とは全く違う場所にいるようだと思った。

 照明は薄暗くなっており、部屋中に様々な魔光虫が灯りをともしながら飛び回っている。

 匂いもアオキノコの少し甘い香りと古臭い書斎にいるような匂いが混ざり合って、気分が沈着してきた。

 光も闇も存在しない魔王城に、幻想的な風景が見えていた。

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