1.出会い
「えー、悪夢の中に夢と希望を与える人魔店ユメミロへようこそオコシクダサイマシタ。
こちら珍品レア物なんでも取り揃えてーーー・・・つぎなんて言うんだっけ?」
「取り揃えております。ぜひお楽しみください、ですよ」
ちょっと待て、こいつらは一体何なんだ。
魔王城の中に店、だと?それにようこそ?
こいつらは頭おかしいのか?
視界に入っているのは男と女が一人ずつだ、
まだほかにも潜んでいるのがいるかもしれないが。
なぜこんな所に店を?どうやって?こいつらは誰だ?
全く理解が追いついていかないが、やつらを冷静に観察することにした。
まず目についたのは男の方だ。ぱっと見28から32歳程度の年齢だろう。
服装は黒いシルクハットにロングコート、
それと原色のバッチをじゃらじゃらと着けているのが分かった。
普通の感性ではおおよそ考えられないような恰好だと思った。
一方、女の方は幼く、9から13歳程度といったところか。
容姿はおもちゃ屋のショウウィンドウに飾られている可愛らしい人形のようだ。
だが、こちらも可笑しな恰好をしており、少女が好きそうな白やピンク色のフリフリの衣装ではなく、黒で統一されたゴシック衣装を身に着けていた。
「なんか固まってるよ、大丈夫かな?」
「うーむ、最初の挨拶が悪かったかなぁ」
ある考えが浮かんだ。
魔王城の中ですら見かける事が出来なかったが、魔物の中には見た目が人と見分けがつかない存在、
「魔人」がいるということを。
もしかするとこいつらが・・・。
そうであれば、うかつに近寄るのは危険だ。
だが・・・。
「だって、あんたがセリフ考えたんでしょ」
「言い方がなぁ」
ヒュッ
男の顔めがけて、短剣を投げつけた。
魔人だろうがなかろうが、魔王城でやるべきことは一つ。
先手必勝。
くだらない茶番を見ている場合じゃねえ。
「うおっ」
短剣は命中せずに男の顔のすぐ横を通りぬけていき、奥の本棚に突き刺さった。
やつは態勢を崩したままだ。
瞬時に男に対して飛び上がり、もう一つの腰に差した剣を右手で抜き、突き刺そうとした。
やれる。
そう確信したその時、視界がぶれ始めた。
「な、なんだ?」
急に身体が言うことを聞かなくなった。
これは電流だ、
俺に電流が走ったんだ。
糞ッ、罠だったか。
剣を持つ力がなくなり、手から滑り落ちた。
身体が地面についたその瞬間、意識が途切れた。
「あーあ、しびれちゃったよ。どうしよう?」
「・・・ってあら?」
「・・・・・・ウエッ・・・しびれが・・・俺に・・・」
「・・・あんたもくらってどうすんのよ」
目が覚めるとどうやら布団の上に寝かされているようだった。
まだ体が痺れていやがる。
ただ体全体に意識を向けても何かが無くなっている、という感覚はないのでひとまずほっとはした。
だが安心はしていられない、
何があってもいいように身体が動くようにしておかなければ。
首を軽く動かし始めると、顔のすぐそばに先ほどの女の子が見えた。
表情はなく、まるで興味のないものを見ているようだった。
「おい・・・、なにをする気だ・・・拷問か?これから何かを取るのか?」
そう言うと、彼女の口角がわずかに上がった。
「手助けだよ」
「・・・なに?」
突然、視界の奥のドアが開き始めた。
すると先ほどの魔導士気取りの男がトレイを持って入ってきた。
しかしよくよく見てみても異様な格好だ。
黒のロングコートのあちこちにバッチが付けられているが、特に模様なんてものはついていない。
赤、青、黄、緑、ピンク、白、黒、確認できただけでもこれだけの色々が使われていた。
「おっと、起きてましたか」
「お前は・・・」
「店主のハーベストと申します」
ハーベストと名乗った男は自己紹介しながら、布団の横に座った。
その時気づいたが、いつの間にか先ほどの女の子がいなくなってしまっていた。
やはり、こいつらは気味が悪いと再確認した。
持ってきたトレイには小ぶりのパンが二つと、怪しく光る緑色の飲み物が乗ってある。
どう見ても組み合わせが悪い。
「食事と滋養薬です、お好きに」
軽く微笑みながら言ってきた。出された物には手を付けなかった。
「なぜ殺さねえ」
「お客様ですから」
「さっき店主って言ったよな?ならお前らは魔王城で商売してるってのか」
「ええ、日常品から超レア物までなんでも揃えていますよ」
「胡散臭いな」
「まあ、私達も胡散臭いと感じてますよ」
ハーベストという男は顔を動かしながらも、目線は俺の顔から切らなかった。
どこか俺の表情を読み取ろうとしている。
確かに商売好きの店主がぴったり当てはまると感じた。
「ここのボスはどこにいるんだ?まさかお前らが・・・」
「僕たちが殺りましたよ」
「あ?」
「殺しました。半年ほど前の事ですが」
「殺しただと?じゃあお前らは」
「ええ、元攻略者です。あなたと同じ」