プロローグ
魔王城249階。ようやく8合目か。ここまで来るのに何か月かかったのだろうか。
3、いや4か月もかかっているだろう。
魔王城に入ってからアルコール類は一切飲んじゃいない。
水と薬、それとモンスターの死骸を浄化して体液を飲めるくらいだ。
仲間はもう残っちゃいない。
ミーチェ、ガイスト、スー、気の合った仲間達だった。
ミーチェは87階、ガイストは200階、スーは238階で死んでしまった。
俺一人になってしまった。
じきに俺もくたばるだろう。
食料も非常用の乾パンが1缶と干し肉が2切れ、水はあと一口か二口か。
回復用のロッドや、巻物なんてものもさっきの階で全部使っちまった。
とどのつまりもう何も残っていないということだ。
そんなことを考えながら、魔法陣の前で休んでいた。
魔王城はそれぞれのフロアが空間として繋がってなく、魔法陣で移動していくことになっている。
「次で250か・・・」
魔王城はキリのいい数字、つまり50階・100階・150階といったフロアは普通とは違う。
通常、迷路のようなフロアが多い魔王城だが、
およそ幅70m奥行50mの大部屋に変わって、ボスが待ち受けているからだ。
200階にて待ち受けていたのは、透明化したドラゴンだった。
もちろん殺した後にドラゴンだと分かったが。
呼吸を整え魔法陣に乗った。
視界が白くなる。
そして感覚が消えた。
意識が戻った瞬間、すぐに臨戦態勢をとった。
転移が終わった瞬間は最も集中すべき時であるからだ。
だが目にしたのは予想だにもしていなかったものだった。
「なんだこりゃ・・・」
真正面に見えたのは大きなプレハブ小屋のような建物だった。
大きさは大部屋の5分の1程度ほどだったが、
予測とは大きくかけ離れていた現実が実際よりも巨大に見えさせた。
壁面は茶色く、レースのような飾りつけがされており、屋根には魔王城で出現するモンスターの死骸が飾られていた。
視線をずらし建物以外を見渡してもボスと思わしき物体はどこにもいないように見えた。
「ボスはあの中か?」と、無意識に言葉が出てきた。
「趣味がわりい。」
どこから襲われてもいいように気配を探りつつ、ゆっくりと建物に近づく。
近づけば近づくほど異様な雰囲気に飲み込まれそうになった。
中にいるのは、何だ?
おそらく精神異常者だろうと目星を付けた。
バカな建物を好むのは、どこかおかしい奴らだと経験上知っていた。
ドアの前に立ち、一呼吸置いた。
数秒間大部屋が静寂に包まれた瞬間、思いっきりドアを引っ張り開けた。
「おっ、いらっしゃいませー」
「ませー」
ドアの先にいたのは、モンスターではなくやる気のない挨拶達だった。