初授業
クラスに付くまでの間は針のむしろだった、そりゃそうだろう…庶民の出の自分が貴族のセレスと一緒に登校なんておかしいだろう、そんなのは自分が知っている。ようやく教室にたどり着くとセレスは何事もないように自分に
「また後で」
とたん教室中が騒然となった、ボソボソと「ねぇ…ヴェローナ様今喋った?」「嘘でしょ?」と皆一様に驚いている。セレス本人は我関せずと振り向きもせずに昨日の自分の席に行ってしまった。それを見ていると、いきなり腕を掴まれ教室の角に引っ張られた。
「ロッカ、一体どうしたんだよ!何だよあれは!」
ラゴだった、パニックを起こしているのを取り合えずなだめて、昨日からのいきさつを話と神妙な顔で
「そんな事が、でも大丈夫なのか?」
「何が?」
聞き返すと、何だか決まり悪そうに
「いや…だって、ヴェローナ様と一緒の部屋って…なぁ?」
ラゴが何を言いたいのか分からず
「…うん?」
伝わらないと分かったのか、ラゴは辺りに人が居ない事を確認して、顔を近づけ
「だって、ロッカお前……」
言いかけたその時、
「何二人でコソコソ話してるんだよ?」
いつの間にか来たエンデとモモが居た、ラゴはさっと離れて2人に挨拶すると、2人に何でもないと言うと、モモは興奮した顔で自分に
「聞いたよ!ロッカ!あのヴェローナ様と一緒だったんだって?」
「いいよな…ロッカ」
とエンデが羨ましそうにしている、結局ラゴが何を言いたかったのか聞きそびれてしまった、ラゴを見てもさっきのが嘘のように二人に
「何言ってるんだよ、お前らロッカが困ってるだろう、ちょっと落ち着けよ」
「えー!ラゴだって気になるだろう?」
「まぁ、そうだけど…」
「まぁまぁ二人共」
とモモが二人に言うと、二人はゴメンと自分に謝ってきた
「大丈夫だよ」
ふいにセレスを見ると、セレスもシンク達を囲まれ何か言われているようだった、視線を感じて見るとシンクと目が合った。まるで品定めをするような目で見られ目線が外れた、あれは何だったのか?するとチャイムが鳴りオッペンハイマーが教室に入って来た
「皆さんおはようございます、それでは席に着いて下さい、それでは授業を始めたいと思います。」
皆はそれぞれ席に着き、自分達も昨日と同じ席に着いた。
「今日から授業を始めるにいたって、取り合えずこの国の成り立ちから学びましょう」
生徒達から一斉にブーイングが
「先生!そんなのはここに居る全員知ってます!そんな今さら!」
「そうだよ!早く授業して下さい!」
生徒達のブーイングにも関わらずオッペンハイマーはニッコリと首を振り
「いえ。いい機会ですし、それに丁度良く学校が初めてのラティラ君もいますし、きちんとおさらいをしましょう」
「えーマジかよ、オレ早く授業受けたかったのによー」
「そうだよな!またアイツかよ!こんな常識も知らないなんて!一体どんな田舎者だよ」
「そうだよね。そんなのと一緒なのかー」
クスクスと笑い声がした、明らかに自分の事を馬鹿にする声だ仕方無いとは言え…そんな自分をラゴは心配そうに
「おい?大丈夫かロッカ?」
うんと頷き、何でないと
「大丈夫ありがとう。」
まだ生徒達が騒いでいるのを、オッペンハイマーが
「ハイハイ!そこまでですよ皆さん静かに、本当に皆さんはこの国の事を知っているのであれば、私が指名するので、指された生徒は答えを言って下さい。良いですね?判ると言うのであれば間違えませんよね?ハイそれでは、この世界には2つの国がありましたね?その国の名は?ハイそこのロニ君答えて下さい!」
指されたロニは
「えっ!あっと白亜と炎華の2つです」
オッペンハイマーは頷き
「そうです、この世界を造ったと言われている女神が、2つの国の為に双子月を産み、それぞれの国に与えたと言われていますね。白く大きな月の白亜、赤く小さな月の炎華ですね、双子月は夜空には炎華の方が上に白亜は少し下に輝いています、2つの国は双子月の名を国名として出来たと言われています」
ふいに疑問がうまれ、ラゴ達に小声で
「なぁ?本当に女神がいるのか?本当に世界を造ったと皆は信じてるのか?」
ラゴ達は首をかしげお互いを見合い
「私は微妙だな、まぁ…おとぎ話みたいな物じゃないかと思ってるけど」
エンデは腕を組みながら
「そうだよな、女神なんて居るわけないとオレは思ってるけどな、だって産まれてこのかた見た事が無いし、信じろと言われてもな…?」
「えー?そうかなぁ、ボクはいると思ってるよ?それに女神から授かったと言われているのが正にこの「力」とも言われてるんだし。それに昔には神に近い「力」を持った姫だっていたんだし、きっと女神は居るんだよ」
ラゴとエンデは二人して呆れた顔でモモを見ている
「それこそ、おとぎ話じゃないのか」
3人はだんだん白熱してきたのか自分には、一体何の話なのかさっぱりだ?姫って?3人に身をのりだして
「なぁ、何の話?」
聞くと3人がピタと止まり
「そうか…ロッカは知らないんだったな…ゴメンなこっちだけで喋ってて」
ラゴが説明しようと口を開きかけた時
「こら!そこの、勝手喋らないように!今は授業中ですよ私語は授業が終わってからにしなさい良いですね?ロッカ君もですよ?それではレイトナー君に質問です、2つの国は長く争っていました、何故ですか?」
いきなり指されて、ラゴは慌てて立ち上がり
「「力」のせいです、2つの国はお互いが自分の国の方が強いと思い争っていました、でも実際は両方の力は互いに拮抗していて決着が着く事がありませんでした…そのせいで長く争いが続きました」
「ハイ、そうです。それでは2つの国が持っていた力とは何ですか、力は2つの国にどのように作用しましたか?それではデュリス君」
「え、オレか、えっと力とは「矛」の力を持っていた炎華と「盾」の力を持ったいた白亜の事です。2つの国はそれぞれの力で争っていました」
「正解です、今でこそ2つの国は無くなってますが、ここに居る皆さんは持っている力は昔で言う国民性だったのです、矛の力があるのならば炎華が先祖となる訳です」
教室中から感心したような声がした、ラゴ達もこの事を知らなかったのかビックリしていた。その中一人生徒が手をあげオッペンハイマーが
「どうしましたかリデラ君?」
「それだと、おかしくないですか?私の力は盾の力を持ってますが、このクラスでも8対2と圧倒的に矛の力のが多い…これは白亜が負けたと言う事じゃ無いんですか?だから少ないとか…」
そうなのかとオッペンハイマーを見ると、その質問は想定内だったのか笑い
「白亜が負けたと言う事は史実にはありません、ちゃんと2つの国の力は拮抗していましたどちらが強いとかは無かったようです、どうやら白亜では力を持っている人間がとても少なかったと言われています、少ないながらも力を持っている人間の力がとても強かったと。それと残っている記述では白亜の王は国中は軽く守れたそうですから余程の力だったんでしょう」
「でも…私そんな大きな力は使えません」
オッペンハイマーはニッコリと
「大丈夫ですよ、今は小さな力でも頑張っていけば必ず力はつきます、まぁそうですね君にその気があればの話ですが?」
言われた生徒は「ハイ」と返事をして座った。今度は違う生徒が手をあげ
「学校で思ったんですが…あの、この学校おかしくないですか?なんか造りが変な気が?」
「やっぱり気付きましたか?そうです。この学校は元々白亜の城だったものです、だから少しおかしな造りなんですね」
一斉に生徒達が騒ぎ出した
「やっぱりな!おかしいと思ってたんだよ」
「えー、お城だったのこれ」
「騒がないように落ち着いて。白亜と炎華は長く争っていましたが、ある時期に2つの国は同時に無くなってしまったそうです、これには諸説あります自滅したとか、皆さんも知っる姫説と色々です。長く2つの城は使われていませんでしたが、白亜は学校として使われ炎華の城は今は軍の施設になっています」
そうなのか、昔お城だったから変なんだなと納得した。確かに地下に噴水なんて贅沢なんて王様ぐらいな人間でしか造れないよなと分かって一人頷いてるとオッペンハイマーは
「それでは力の事が分かってきたみたいですね。それではバルカン君君に質問です、皆さんが持っている力はどのようにして受け継がれますか?そして何故力を持っている人間と持って居ない人間がいるのですか?」
「それは、母親が力を持っているかいないかで決まります、力は何故か女性にしか繋ぐ事が出来ません。いくら父方に強大な力が合ったとしても意味がありません、男は国の為に戦い、女は血を残す者として教えられました。」
ふいにシンクがこっちを見たような気がする、シンクは何事も無かったように、また喋り始める。
「たまに、先祖返りと言われる人間も確かにいます。先祖返りとは、ずっと昔に大きな力を持った母親がいた場合に出ますが、まず居ないと言われていますし…先祖返りが男ではあまり意味を成しません」
…それはもしかして自分の事を言ってるんだろうか?でも自分は先祖返りじゃ…とシンクを見ると今度は睨んでいる。やっぱりシンクが言わんとしているのは自分の事なのかと思っていると、何故かラゴも複雑そうな顔で自分を見ていた。
「何どうかしたの、ラゴ?」
聞くと、挙動不審に手を前で振り
「いや、何も?ロッカが気にしないなら私が別に…なぁ?」
エンデとモモもおかしいと思ったのか
「どうしたのラゴ?大丈夫なの凄い汗だよ?」
「大丈夫、大丈夫それにしても流石バルカン家だよな!先祖返りの事まで知っているなんて凄いよな!」
それにはモモもエンデの凄いと頷き感心していた、現にオッペンハイマーもビックリしていた
「流石ですね、今やこの国は一つの国となっていますが昔は2つの国でした、その国は無くなり皆さんの様な力を持った人間の育成に力を注いでいます。皆さんがその力を暴走しない様に強い精神を鍛える為にこの学校があります。皆さんが持っている力とは、それほど大きな力なのです。それを暴走させてしまうと甚大な損害がでます人にも場所にも色々です。それによって個人の力の消失も過去いくつもあります、だからきちんと学びコントロールが出来るようにしましょう!判りましたか?」
生徒達が一斉に
「ハイ!」
と声をあげた、丁度よく終了のチャイムが鳴り
「丁度良いですね、それでは今日はここまでにしましょう」
と初日の授業が終わった。初めはどうなるかと思ったが、中々面白かった。この世界がどのようにして産まれ、疑問すら思っていなかった事すら知れた、ここに送り出してくれたジジ達に感謝だ、メイトが言っていた見識を広げなさいと、いつも言われていたのはこうゆう事だったのか、ここにいる間は頑張って行こうと思った。