運命
暗く何も見えない、何で?いくら歩いても暗いままで何も無い…手探りで何かないかと、あれ?自分が見えていない…恐る恐る両手で胸に手で触れると、穴が空いてる!胸の部分だけポッカリと何も無い。もしかしてと手で目を触るとやっぱり無い。それにさっきから両手で触っているはずなのに右手の感覚が無い…目、胸、右手、もう消えている所は無いだろうかと必死になっていると急にガクリと体が倒れ、左手で足を触ると両足が消えていた。
「何で?誰か…」
立ち上がろうとしても、立ち上がれずにいると暗闇で誰かが
「………だって、君が選んだんだよ?」
ハッと目を覚まし両腕を確認すると、ちゃんと体はある何処も消えてもいない…身を起こし、見馴れぬ場所に、そうかと嘆息した。昨日からここがオレの居場所らしい…広く大きい部屋そしてメイクされたままのキレイなベット、使えと云われても、自分には贅沢過ぎて使えずに床で寝た、床でさえ絨毯がひかれフカフカだ…自分にはこれで充分だった半年前の生活に比べてここは天国だ…前は酷かった。両親はオレを奴隷の様に扱った。それに疑問を持たずに居たオレに言ってくれた人達が居た。その人達のおかげで色々な事が、嘘だと分かった。両親はオレに小さい頃から「お前は男だと」言い聞かせてきたが…違った。部屋の壁の姿見の前に立ち自分の姿を見て、男と女の違いがよく分からない、見た目そんな変わらない…昨日渡された制服に袖を通して気付いた。もしかしてこれは男子制服?もう一度鏡を見て、間違えても仕方無いかと、痩せていて女性らしいのを探す方が難しい…そのままでいいかと、それにこっちの方が楽だしと。一通り身支度を済ませ改めて部屋を見渡すと本当に広い。舎監の人が言ってた通り
「この部屋は本来6人部屋なんだが、この先増える事は無い。実質君一人部屋だから」
そう言われた。そっちの方が楽でいいと。人に振り回されるのはもういい、それでなくとも働きぱっなしだったのだから、それからようやく解放された。もう働かなくていい、両親の為に早起きしたりご飯の準備したりと息つく暇も無かった。物心つくしろには奴隷だった、ご飯も一日一食食べれたらいい方で、いつも食べれず水で満たし、そんな毎日が続くのだと思っていた、あの日まで…その日も両親が起きない様に外に出て、走って果物屋のオヤジに頭を下げると
「相変わらず、無愛想な奴だな、荷物それな」
言われ頷き、仕事をくれる。恐い顔の割に色々世話してくれる。一通り終わりお金の変わりに果物を貰いお礼し帰った、家には両親が起きて自分を見るなり
「オイ、飯!」
貰って来た果物を差し出すと、引ったくる様に食べた。それを見ていると母親が嫌な顔し
「何見てんのさ!気持ちが悪い!」
母親は自分のことを憎んでいる、というか化け物でも見るような顔で見る…それは仕方無い、だって生まれてこのかた泣いた事が無い。泣くって何んなのかその感情が分からない。皆オレが異常だと気味悪がった。
「オイ、何ぼさっとしてんだ!金稼いでこい!」
父親に突き飛ばされ、壁に背中を強く打つけ、ふらつきながら、次の仕事場へ、朝果物屋のオヤジに紹介された割のいい仕事だ、ここいらで一番大きいお屋敷の水汲み仕事、汲めば汲むほど給金が弾んでくれると、その為多くの人が働いていた、自分も樽を持ち瓶に水を貯める為に、ひたすら往復を繰り返した。朝父親に突き飛ばされた背中がヒリヒリし傷みだし痛い、でもまだ瓶に水が貯まっていない…あともう少しと繰り返しとここで止める訳にはと、少しでも多く稼がないと…足元がふらつき前に居た誰かにぶつかってしまった。「ドン!」と大きな音がし後ろに飛ばされ尻餅を付いた時に相手の足元が見えた。立派な靴だ!しまったと慌てて頭を土に付け
「申し訳ございません、どうかお許しを」
必死で謝っていると、ぶつかった相手は自分の前に膝をついて
「いや、私も前を見ていなかった、すまない怪我は無いかい?」
首を振り大丈夫と、すると遠くから走って来る音がして
「まあまあ、ご主人様どうされましたの?」
女の人がぶつかった相手に話しかけている。ギクリとヤッパリここの主人だったのかと…もうお金は貰えないと頭を下げたまま
「本当にすいませんでした。」
後ずさるように逃げようとすると、気付いた男が
「待ちなさい」
止められ、もしかして弁償しないといけないのかと
「はい…」
「そんな畏まらないでくれ、君の仕事の邪魔をしてしまって本当すまない」
「いえ!オレがフラフラしてたから、あの、どうか…弁償だけは…」
「しないよ大丈夫、そんな事より、服を乾かさないと、そのままじゃ風邪をひく、おいで?」
男に腕を引かれ、立ち上がると他の水汲みの人達が自分の樽を片付けていた、どうやらさっき来た女の人が指示を出していた、自分も手伝おうとするのを女の人が
「あなたは、こちらね?ご主人様いかが致しますか?」
「ああ、キレイにしてやってくれ、私は自室で着替える、用意が出来たら連れて来てくれ」
「ハイ」
と頭を下げ、こっちを見て引きずるように、連れて行かされ何度かもがいたが
「ダメよ!大人しくしてちょうだい?じゃないと私ご主人様に叱られてしまうわ」
「だったら…嘘言えばいい!あの子はもう帰ったって…!」
「……私に嘘をつけと言うの?」
恐ろしい顔で迫って来て、いつの間かお風呂場に着いていた。ニッコリと笑い問答無用で服を剥ぎ取られ
「ピカピカにして差し上げますね~」
犬猫を洗うように全身キレイに洗われた。怪我をしていた背中は泡が付かないように丁寧にキレイに、お風呂場から出ると着ていた服が無かった。慌てて自分の服を探すと、真新しい服を出され
「さっきの服は洗うからこっちのを着て?」
「でも…」と困っていると
「あら、私が着させてあげた方がいいのかしら?」
慌てて着た。今まで着たことのない、気心地でしかも良い匂いがする!何だこれと思っていると女はニッコリと笑って「こっちよ?」と案内されいつの間にか部屋のドアの前にいた、女のはノックし
「ご主人様用意が整いました、入ってもよろしいでしょうか?」
中から「入れ」と声が聴こえ扉を開けて入ると男はソファに座り待っていた、思わず後ずさると後ろからガシッと押され無理矢理ソファに座らされた。慌てて女の人を見ると、お辞儀をしてそのまま出ていってしまった、すると直ぐにさっきの女の人がお茶を用意して、男の後ろに立ち
「お茶、どうぞ?」
言われ恐る恐る豪華なカップを持ち、一口飲んだが緊張で味なんか分からない…震える手で落とさないようにテーブルに置き、ホッとしているとその様子を見て
「ああ、そうだまだ自己紹介がまだだったね、私の名はジジと言う、一応ここの主人をやっている。そして後ろにいるのは、私の妻のメイトだ」
えっと顔を上げて女の人を見ると、イタズラに成功した子供のように口に手を置き笑っていた。
「ふふふ!わたくしの事ここの使用人だと思っていたのでしょう?ビックリしました?」
頷くと「ゴホン」とジジが咳をし
「済まなかったね、私の妻が。酷い事されて無いかい?」
「わたくし、そんな無体な事しませんわ」
と怒っていたが、お風呂場での事は無体に当たらないらしいと思っているとジジが
「それで、君の名前を聞いても良いだろうか?」
「……名前?」
人にはそれぞれ名前があるが、両親は一度として自分の名前を呼んだことが無い…いつも「オイ」とか「お前」とかだ…どうしょうと考えているとジジは
「別に君に危害を加えるつもりで名を聞いている訳では無いから安心して欲しい、ただ名前が聞きたかったんだよ?」
あらぬ心配をさせてしまったようで慌てて首を振り
「違うんです!すいませんオレ…無いんです名前。いつも「オイ」とかで…」
二人は互いに顔を合わせ
「えっと?ご両親は居るのよね?」
頷くと、訝しげにメイトが聞いてきたが「いますけど…呼ばれた事ない」と返すしか無かった。いきなりジジが立ち
「何て事だ!有り得ない!」
ビクッと震えるとメイトが横に来て手を握りしめ
「大丈夫。あなたの事で怒っている訳じゃ無いの。あなた、怯えています」
「!ああ…済まなかった。いきなり声を荒げてしまって…そうか。名が無いのは困るな。どうだろう?私に君の名前を贈らせて貰えないだろうか?この先名が無いのは君自信もきっと困る」
今度から「オイ」とかじゃ無くなるのか?欲しい自分の名前が、いつも他の人が羨ましかった。
「あの!お願いします!名前!オレの!」
ジジは頷きメイトを見るとメイトも頷き
「分かった。それでは私が君の名付け親になろう。でも今日はもう遅い明日またここに来なさい?」
ジジは立ち懐から袋を取出し無理矢理持たした。ズシリと重いそれを見て
「オレ今日こんなに働いて、無い。困ります」
押し返そうとすると、ジジは首を振り
「持って行きなさい。少ないと君は両親から折檻を受けてしまうだろう?これぐらいあれば大丈夫なはずだ」
どうやらバレていたらしい背中の傷が両親から受けたものだと、有りがたく受け取り二人に何回も頭を下げた。家に帰ると父親に有無言わず殴られた。ダンと床に転がり背中の傷が開いてしまったようで痛い
「お前!今までオレ達の飯の用意もせずに、遊んでたろ!」
今度は蹴られ体を丸め、耐えていると母親が
「何その服?あんたには勿体ない!脱げよ!!
服を引っ張られた拍子に懐からお金が落ち、両親がそれの中を見て態度を変えた。
「何だよ、お前こんなに稼いできたのかよ!」
嬉しそうに父親がお金を数えて
「大金じゃねえか!だったら早く言えよ!久々にいい酒が飲める」
と母親と二人は自分を残し出て行った。一人部屋の角で小さく丸まり痛さにジッとしてるとお腹が「ぐ~」と鳴った。そう言えば今日一日何も食べて無い、立ちあがり水でも飲もうとした拍子にポケットに何か入っている事に気付いた。中を探ると出て来たのは、小さいキレイな包みのだった、破かない様に開けるとチョコだ、そして一緒にもう一枚の紙が、紙には絵が書かれていた、人の口にチョコが入ってる絵だ。メイトが字の読めない自分の為にこれを入れてくれたようだ…そっと一欠片のチョコを口に入れると、フワッと溶けるように消えた、こんな食べ物生まれて初めて食べた。こんな小さい物なのに、凄い美味しい。包み紙とメモをキレイにたたみポケットに大事に仕舞った。そして台所の角のいつもの所でコモをひき目を閉じた。
翌朝になっても両親は帰って無かった、あんだけの大金を持っているのだ、まだ帰っては来ないだろうと、いつも通りに起き昨日出来なかった部屋の掃除をして、果物屋のオヤジの所に行き仕事をしようと行くとオヤジは首を振り
「もうお前を使えない、帰れ」
と追い返された。愕然と「何で?」と聞いても「帰れ」としか言われず途方うに暮れてうずくまっていると、目の前にメイトが立って居た。ニッコリと
「ご主人様が、あなたをお待ちよ?いらっしゃいな」
手を差し出され昨日の屋敷に着いた。部屋に通されるとジジが
「良く来たね。さあ座りなさい?朝御飯は食べたかな?」
「あの、いえ」
要らないと言うとメイトが
「朝御飯食べないなんて!ダメよ!今から一緒に食べなさい!良いわね!」
テーブルの上に用意された料理は見た事が無い食べ物が並び、恐る恐る口に運ぶと「!」美味しい!この世には、こんな美味しい物が有るのかと必死に食べた。メイトが飲み物を差し出し
「ゆっくり食べなさい、誰も取らないから」
ハッと向かいのジジをみると笑っていた。ふと昨日から不思議に思っていた事を二人に聞いた
「あの…何でオレにここまでしてくれるんですか?」
二人はビックリした顔をしている、そんなおかしな事を聞いただろうかと首を捻っていると、ジジが嘆息し
「君は幾つかな?」
「多分…14歳ぐらいだと思います」
「うん、やっぱりか。どうやら君は両親からキチンとした教育を受けずに来ている。それを今から説明する」
メイトも真剣な顔で頷き
「この国には、大きな「力」が二つある、一つは「盾の力」そしてもう一つは「矛の力」この二つだ、この力は皆が持っている訳じゃ無い、限られた人しか持って居ないんだよ、その力は母親からの遺伝でしか次に持たされない、それも100%の確立で遺伝するんだ、父親からは力の恩恵は無い。だからこの国では女性は大事にされるんだよ」
「……オレは男…だって」
ジジは腕を組みジッと見て、ふいに目を反らし
「君は…女の子だよ。君の両親は嘘を君に言ってたんだよ…君を働かせる為に…」
「…え?嘘…でも、オレ働いてる女の人見た事あります」
「ああ、それは彼女達に力が無いと分かっている人達だよ。さっきも言った様に力がある母親からは絶対に引き継がれるが、普通の人からの「力」の遺伝は無いからね。まぁ極たまに力の無い母親から「力」のある子が産まれる事があるんだ、だから一定の年齢になると調べないといけないんだよ、それが14歳~20歳までの間で義務付けられている。それだけ力の持ち主は貴重なんだよ」
「でもオレには力何て無い…」
ジジは首を振り
「それは分からない、君に力が有るのか無いのか…調べてもし有るのなら学校へ学ばなければならない、無いのなら…両親の元に帰らずに私のこの屋敷でメイトに付き、メイトから学びなさい、この先君が生きる為の知識を」
昨日の今日で色々聞かされて、気後れしたが二人が真剣に自分の事を心配して言ってくれている、だったらと頭を下げ
「あの…よろしくお願いいたします。」
「私が責任を持って君の事を見よう。いいねメイト?」
メイトは「ハイ」と応え。「よろしくね」と嬉しそうに笑っていた。
「おっと!忘れていたよ。君の名前だが決まったんだよ!君の名はロッカだ」
「ロッカ?」
「そうだ、この名は白き姫が愛したと言われている花の名だよ」
「白き姫?って…」
「この国、いや世界で稀な力を持っていたといわれている伝説の姫だよ」
「そんな、大それた名じゃなくても…」
「いいじゃないかしら?ぴったりだわ!可愛いし」
二人に言われ、折角考えてくれたのだからと思い直して、自分の名を呟いた
「ロッカ」
薄い膜に覆われていた世界が割れて、急に色々な物がハッキリと見えた。辺りを見渡し急に現れた世界にビックリした、今まで見えていたのは一体何だったのか?と思っていると、誰かの声が聴こえる暗闇で聞いた声が
「ようやく…見つけた」
この作品で一番の困り事は人の名前でした…名前付けるのって大変。