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まさかの神様?

先に出来ちゃったので……。

「「……は?」」


 気がつけば、視界一面草原。


「いやちょっと待って、何がどうなってるんだってばよ?」

「いや、俺に聞かれても……しかも何でナル〇?」


 ありゃ、思った事がそのまま口から出てたようで。

 上下左右前後を見回し、黄緑色の柔らかい草一面の草原しか見えない事に、何故か隣に一緒に居る雲居(くもい)と顔を見合わせる。

 上から照らしてくる夏の物とは違う穏やかな光。夏晴れの晴天により遮るものの無い陽光が草の表面で反射し、どこか幻想的に見える。そしてそのどこか浮世離れした風景の中、制服を着た私達2人が立っている、と言うのはとてつもなく違和感があって滑稽に感じた。って言うか私達座ってた筈なんだけど?


 ……よし、ちょっと落ち着こう。そして状況整理してみよう。

 問い・この状況になったと思われる原因は?

 回答・タブレットに最終的に浮かんだ『Edenに行きますか?』のOKボタンを押したから。


「……にしては」

「……場所が変わりすぎって言うか……」


 頭を2人振り絞って思い出そうとしてみるも、この状況になったきっかけなんて、それぐらいしか思い浮かばないのが現状。

 小難しい議論をする清涼(せいりょう)(ゆず)に我慢が出来なくなって、雲居(くもい)と目配せしながら気づかれない様にタブレットを奪取し返し、『go to Eden』を押した途端出てした数十個の設定ボタンを全て見ずにOKを連打して、最後に確認を促す黄緑色のフォントで出た『Edenに行きますか?』と言うボタンのOKを押したのが30秒前。いきなり(ゆず)の怒号がプチン、とテレビを切った様に聞こえなくなった時には、もうこの草原に居た。と言うか居た、と言うより視界に草原が写った後に、(ゆず)の声が聞こえなくなったと気がついた、が正しい。


「「……」」


 ……どうしよう。

 2人して不安げな顔を見合わせる。タブレットをいじっただけでこんな所に来れると言うのは現代日本的に考えたら凄い事だと思うが、それは戻れる事が確立していればの話だ。こんな事なら大人しく(ゆず)の忠告に従っていれば良かった、と今更な後悔先に立たずを体現しつつワタワタと手を振りながら、私は雲居(くもい)に提案した。


「……と、とりあえず探索してみます?」

「……探索って、」


 とても大雑把な提案に、雲居(くもい)は周囲を再度見回した後、声のトーンを落として言った。


「……このどこまでも続いてる様な草原を? ……多分、日ぃ暮れるぞ」


 今更な事を突きつけられ、無言になる。確かにそうだ。

 試しに手を伸ばして膝上ぐらいの長さの草を引きちぎって目の前にもってきてみても、なんら山に生えている草(実家が田舎にあるので草や花の名前には詳しい)と変わらない。

 ――ただ、1分以上経ったぐらいで、光の粒になって実体を失い、手の中から消え去ってしまったが。

 その事に若干呆然として、掌をグッパッと開いては閉じを繰り返す。


「「……」」


 いや今の、現実じゃおかしいでしょこれ。どう考えても、ゲームとかでモンスターとかが一定時間経った時に消え去るみたいな……。まさかのゲーム……とか? いやまさか。

 もう一度雲居(くもい)と顔を見合わせ、草を掻き分けて地面を掘ってみる。土を掘る時の感覚もいつもそうする時と変わらないし、手につく土の感触も本物。


 ものの数分で、生物を見つける事が出来た。……出来たんだけど。


 掌よりも――それどころか手から肘ぐらいの大きさの()()()()()が居るってどうよ?

 見た目と絶対必要以上に多いだろと言いたくなる足の多さに、2人揃ってうええ~と嫌悪感を滲ませる。でもメガダンゴムシ(←今命名)の方も足を丸めて団子状態になってしまったので、これなら(さわ)れると両手を使って持ち上げる。重さは――荷物がパンパンに入ったランドセルぐらい? ……若干例えが分かりにくいかなぁ。

 持ち上げて雲居(くもい)の方へ向けると、雲居(くもい)はひきつった顔で数歩後退りした。


「……よ、よく持てんな木槿(むくげ)……って言うか来んなよ!」

「この状態なら何も出来ないだろうし、大丈夫だって」

「い、いや……団子の隙間から、足数本ウネウネしてんだが……」

「ん? ああ本当だ……でも本当にコイツ何だろうね?」

「お、俺に言うなよ!」


 近づく度に雲居(くもい)が逃げていくのが面白い。やっぱり雲居(くもい)は弄りがいがあるわぁ、とニヤニヤしたままふと見た手の中のメガダンゴムシが、私に顔を向けているのに気がつく。

 怒りの表情(顔は動かない筈だが、何故かそう見えた)でメガダンゴムシは、私へ向かって――霧みたいな物を()()()


「うわへっ!?」


 顔を背けつつ両手を開くと、メガダンゴムシはスルリと脱け出し、一度此方を一瞥(いちべつ)した後、元の土の中にノソノソ戻っていった。

 そしてそのメガダンゴムシの頭上辺りに――緑色の、()()、……らしき物が。


「な……い、今の……」

「なぁ……あのデカイダンゴムシの頭上にあったヤツ、」

「……雲居(くもい)、私も思った……あれってさ、」


 顔を突き合わせ、各々(おのおの)が思う答えを口にする。


「「HP(ヒットポイント)バーだよ()」」


 ……うん、雲居(くもい)と同じ事を考えていた様で良かったわ。

 つまり情報を整理するとここは、


「リアル、ゲーム……?」

「まんまだなおい」

「でもそうじゃん……現実で相手のHPバーなんて見えた事ある? 少なくとも私は無いよ」

「……あーうん、俺も無いわ」


 2人揃って今気がついた相手の頭上に浮かぶHPバーを見る。雲居(くもい)の物は右端まで緑色で埋め尽くされているが、ふと見た自分のHPバーは、若干短くなっていた。ゲームのルール的な物があるのなら、減った分はさっきメガダンゴムシが出した霧みたいな物を浴びたから? って言うかこれ、自分のHPバー見えないよね普通? 思いっきり頭頂部にある筈なのに……案外見にくいよこれ。


「……もう、何が何だか」

「……確かに何が何だかだが……どうする? ここでジッとしてる訳にもいかないだろ……でもさっきのダンゴムシみたいに敵が――敵になりうる奴らが居るんなら、動くのは危ない気がするんだが」


 腕を組んで言う雲居(くもい)に、口も眉もへの字にしながら言い返す。


「……そんな事言ったって、ここがゲームみたいだとは分かったけど、≪この状況が分からなきゃ≫どうしようもな――う、え?」

「ど、どうした?」


 自分が言った言葉が引き金だったかの様に、直後頭に流れ込んできた情報と共に若干の痛み。雲居(くもい)の心配そうな声を尻目に、片手で頭を押さえたまま顔を上げる。


「お、おい、どうしたん――」

「……≪『近畿ブロック』1ー3……」

「……え?」

「パターン5のフィールドに居ます≫……え、何これ?」

「い、いや俺に言うなよ! って言うかどう言う事だ『近畿ブロック』1ー3……とか何とかって」

「わ、私も分かんない……さっき≪この状況が分かる≫って言った瞬間に、急に頭に入ってきて……」


 若干テンパりつつ雲居(くもい)にそう言って、もう一度周囲を見回す。けれど、頭の中に響いた声の主が居るわけでもなく、ただただ草原が長閑(のどか)に広がるのみである。

 と言うか声が響いたと言うよりも、頭の中に『こうである』と言った感じに情報がそっくりそのまま叩き込まれてきた、と言う方が正しい気がする。

 そう……望む物が手に入る、言うなれば、


「……神様みたいに」


 ボソリと口から溢れた言葉に、雲居(くもい)が流石にそれは無いだろ、的な事を言いたいのであろう表情で私に反論しかけて、


「当たり前ですよ、貴女は選ばれた者なんですから」


 ――と言う声が()()()でした事に雲居(くもい)共々仰天し驚愕する。


「「うわっ!?」」


 飛び上がりつつ顔を上げると、成る程確かに人が居た。

 初見だと『白いローブをまとった白い人』……と言った所か。

 とにかく白い。髪は白髪に近い銀。瞳の色もナ〇トに出てくる白眼みたく、瞳の色と白目の部分の見分けがつかないほど。肌の色も似た様な物で、服の純白と相まって白い石で出来た彫刻みたいだ。まっさらな塗り絵みたい。かなりの美人で、雲居(くもい)が若干見とれている。

 服のローブはフードがついていて、全体的に純白。ただ胸の所に、星と十字架2つを組み合わせた様な形の金と銀の装飾がついている。


 突然話しかけたその人物は、美しいと思える顔に、しかし全くの無表情を貼り付けたまま、深々と硬直している私と雲居(くもい)の目の前で、一礼した。


「ご挨拶が遅れました、レイと申します。以後お見知りおきを」

「ど、どうも……」

「こ、こんにちは……」


 実に自然で綺麗なお辞儀に、若干タジタジしつつ答えると、レイと名乗った20歳はいってなさそうなその人(女性かな?)は顔を上げると、全く表情を動かさないままに口を開いた。


「この世界の説明をしに来ました」

「えっ」

「説明?」

「はい。……この世界、『ジャスパー』へようこそ、ソラ様、ラビリンス様」


 ◇◆◇◆

 『ジャスパー』。それがこのリアルゲーム世界の名前か。どういう意味なんだろうか?

 俺――雲居(くもい)(そら)(今はソラだが)――は、心の奥から溢れてくる高揚感を抑えきれないままに無表情のレイと言うその人の顔を凝視した。


 ハッキリ言って、俺はゲームが大好きである。家もゲーム推進派(?)で、もっぱらこの世に出回っているゲーム機……ファミコンから始まりPS(プレイステイション)にDSに3DS、PSP、PSVite、Wii、更にはWiiUまであるし、有名なゲームは殆ど持っている(と言うかその情報を覚えている所為で勉強が頭に入らないのだ)。

 しかしながら、今まで自分がやった事のあるゲームは全て2次元(3DSは半分ほど3次元なので若干違うが)であり、自分が参加出来るゲームでも、これほど大掛かりで、これほどリアリティの強い――姫橘(ひめたち)がよく話しているVRとか言う「ゲーム内に入り込む」技術でもない限り――RPGの様なゲームは、これが初めてである。


 まさかまさかのドッキリと言う可能性が無きにしもあらずだが、少なくとも一瞬の内に室内から屋外へ移動する方法なんて((りょう)の受け売りだが)今の2015年では実現どころかその理論のりの字すら無いらしいし、こんな人の手付かずの草原なんて第一日本国内にあるのか自体――山奥ならあるのかもしれないが――定かじゃないし、それ以前にあんな大きさのダンゴムシなんて居る筈がない。と言うか居ないでほしい。


「……『ジャスパー』?」

「はい、この世界の名前です」

「説明って……言ったよな? ……じゃあ聞くけど、ここは何なんだ?」


 俺が若干恐る恐る(本当にここがリアルゲームなら、色々凄い事なので俺自身が答えを知るのを躊躇っているからだ)レイさんに問うと、レイさんは全くのタイムラグ無しに答えた。


「ラビリンス様やソラ様が元々居られた世界……『アンバー』で流行っている『ゲーム』と言う物が、一番酷似しています。具体的には『RPG』と言う物が一番近しいでしょうか」


 って、俺らが元々居た場所って……つまり言外にここ異世界です宣言してないか? しかも元の世界にも名前あるのね。

 俺の内心考察とは裏腹に、レイさんは一度そこで息継ぎ。ちょっとの間言葉を探す様に言葉が途切れたが、殆ど分からない程度で先を続けた。


「……この『ジャスパー』と言う場所、と言うより世界は、存在する万物全てが、天から生まれでた瞬間から命の時間が数値化されて見える様になっている場所です。それは誰でも見る事が出来ます」


 ああ、HPバーの事ね、と木槿(むくげ)――いや、今はラビリンスか――が横でボソッと呟く。うん、俺も思った。


「『ジャスパー』に存在する限り、ラビリンス様やソラ様も例外ではありません。頭上に先ほどの《ビックピリバグ》の様に、その数値を示す物が浮かんでいますが、これは特定の術を持つものなら不可視にする事も出来ます。この緑色が全て無くなれば――」

「あーえっと、レイさん、私そこら辺理解できたから飛ばしてもらって構わないよ?」


 ラビリンスがいきなりそうレイさんの言葉を遮って、レイさんが首を傾げる。相変わらずの無表情なので何か変な感じがするが、とりあえず本人的には疑問の表情を作っている心算(つもり)なのだろう。何か滑稽に見える。と言うかさっきのデカイダンゴムシ、《ビックピリバグ》って名前なんだな。


「……宜しいのですか? ソラ様も?」

「あ? ああ、俺もいいぜ。HP残量が無くなる=死、だろ?」


 ダンゴムシの名前に気を取られレイさんが問うてきた相手が俺だと一瞬気がつかなかったが、俺はすぐに首肯するとレイさんの言葉の続きを補足した。RPGものだけでなくゲームならお馴染みの設定だ。


「……では、そこの所は飛ばさせていただきます。ラビリンス様とソラ様は『アンバー』からの《来訪者》と言う扱いですが、命量――お二方の仰る、HPと言う物が無くなっても、お二方は死にません。ただ、一定時間『ジャスパー』内に居られなくなるだけです。他にも代償が幾つかあって、持ち物が無くなったり、死んだ場所に落としたり、身体能力が低下したりします。『ジャスパー』から『アンバー』へ戻る際には――」


 ……ハッキリ言って、ここら辺で俺は若干手持ちぶたさになった。何故かレイさんはHP等のゲーム用語を使っていないが、今の話は死亡時のデスペナルティだったりログアウトに関する話だ。わざわざ理解出来ている話をダラダラと続けられてもなぁ……と右を見ても、ラビリンスも同様の顔。でもレイさんはゲームで言うNPCと同じなのか人間なのかが分からない以上、わざわざ説明をもう一度遮る(NPCなら躊躇無く言えるのだが)のもなぁ、と俺が躊躇した事を、


「あーもーっ! レイ! 話長すぎ! 2人がボケーっとした顔してるじゃん!」


 図った訳じゃないだろうが思考をトレースしたかの様なタイミングで言われ、俺はかなりビビった。


「だっ、誰!?」

「今度は何だよ!?」


 同様に吃驚(ビックリ)したらしいラビリンスと周囲を見回して、俺の真後ろでブンブン手を振っている少女――うん、少女で良いよね? 背、ラビリンスよりも低いし童顔だし――を見つけてちょっとビビった。その子が背中にしがみついてきて、前のめりになりかけて慌てて力をいれるものの、少女は俺の背中を踏み台にしてトン、と前へ飛び、レイさんの横に着地する。そこまできて、俺はやっとその少女の全体を見る事が出来た。


 これまた可愛い、と言って良い少女である。レイさんが『白銀』なら、彼女(多分)はさしずめ『黄金』か。金のプラチナブロンド(?)に金色の瞳。肌の色はレイさんに負けず劣らず白いものの、レイさんの様に青白く病弱と言うイメージではなく活発そうな印象を受ける。服も動きやすそうな短めのワンピースに五分丈のズボンが見え隠れしていて、色は金色で縁取られた白。ただレイさんのローブの純白と比べると明度が若干低い様に見える。胸の所にはレイさんの胸についている物と同じエンブレムが。

 レイさんが彫刻みたいに見えるのに比べたらこの少女の方がよっぽど人間っぽい。顔の造形はまだ幼い10歳前後の子供の様な感じだが、レイさんと同じくらい(勝手にレイさんは18歳ぐらいかと検討をつけていたりする)にまで大きくなったらさぞかし美人になるだろう――って、今なんか横から悪寒を感じたんだが気の所為かね? うん、気の所為であってほしい。お前姫橘(ひめたち)が別に好きな人居るって言ってた気がするんだが!


 俺とラビリンスの無言合戦はさておき、少女の登場で明らか嫌悪感を顔に出したレイさんは、その少女にムッとした表情を――殆ど無表情のままだが――向ける。その視線に怯む事無く、少女は続きを口にした。


「長々と説明しても飽きるだけだって! こう言うのは要点をパパッと言ってすぐ実践に限るよ!」

「……しかしノン、ちゃんと理屈を理解出来なければいざ実践となった時に苦労する事に――」

「この2人はどう見ても『理屈で理解する』タイプじゃなくて『体で覚える』派だって! 言葉で理解させようとしても頭半分になるのが関の山だよ。体で覚えた頃に説明させた方がよっぽど理解出来るし時間も無駄になんない――」


 レイさんにノンと呼ばれた少女は、俺らを指差しなおもレイに言いつのっている。どうやらノンちゃん、感情的になりやすい様で、レイさんが若干めんどくさそうにしている。

 って言うか、俺らはいつまで待つ事になるのだろうか。

 ラビリンスと顔を見合わせる。この2人、ヒートアップしすぎて当事者の俺らの事忘れかけてる様に見えるんですが気の所為?


 ◇◆◇◆

 幸いにも、彼女らは3分ほど議論していただけで、その頃には熱も収まってきたのか私達の存在を思い出していただけたようだ。まあ土に文字書いてシリトリしだしたら分かるかな……うん? 何故シリトリかって? 声を出すのが(はばか)られた上に、2人の声が五月蝿(うるさ)すぎて私と雲居(くもい)――って、今はソラか――の間1mも離れてないのに大きめの声を出さないと聞こえなかったからだようん。早く思い出していただきかったよ全く。お陰でソラが案外「る」攻め(相手の次の語の最初が「る」になる様にする事)に弱いって事が分かっちゃったけどさ!(←全然要らないだろその情報! byソラ)


 2人は私達の状態に気がついてアッと言う表情をすると、すぐにテヘヘと(分かりやすかったのはノンちゃんのほうだけど)頭を掻きつつ私達の近くまで歩み寄ってくる(案外レイさん背、高いんだな……俺より高いぞ……とソラが小声で言った)。


「ゴメンねラビリンス様、ソラ様……つい熱くなっちゃった」

「あ、うん別に良いんだけど……」

「すみません……ノンが聞かないもので」


 ノンちゃんの頭に手を置きつつ一緒に頭を下げるレイさんが頭を上げるのを待って、ソラが遠慮がちに言った。


「……いやレイさん、俺はどちらかと言うとノンちゃんの言う様に『体で覚える』派なんだけど……」

「私も同じく」

「えっ、そうなんですか?」

「ほらレイ、言った通りじゃん! ……って、ちゃんづけするなぁ! 呼び捨てしてよ!」

「「わ、分かった(よ)」」


 ノンちゃん――じゃない、ノンはプンプンと言う表現が似合う態度で腰に右手を当てたまま、レイにコソッと耳打ち。納得した様にレイは頷くと、一旦ノンの頭の上に置くのに出していた手をローブの中に戻して、何かを2つ引っ張り出すと、それらを私達に提示した。

 提示したそれは――手の中に納まるサイズで、四角い、


「……あ、れ? それ、タブレットか?」


 とソラが言った様に、『アンバー』から『ジャスパー』へ来る時に使った、タブレットだ――多分。色、青と黄色だし。でも『アンバー』の時とは大きさが一回り以上小さいけど。

 その推測を裏付ける様に、レイさんが頷いた。


「はい。ラビリンス様とソラ様がここ、『ジャスパー』に来られるのに使われた物です。これは任意で大きさを変更できるのですよ」

「「……大きさを変えられる?」」

「そうだよ~、これが最小なんだ。やってみなよ!」


 手渡されるそれを受け取って、ノンに促されるのに再度ソラと顔を見合わせて、半信半疑ながらも大きくなれ~的な事を念じてみる。するとどこからともなく出てきた白煙が、タブレットを包み込んだ。一旦手を離れた、と言うより重量を感じなくなったと思った途端、白煙の中のタブレットの影が徐々に大きくなっていって、『アンバー』で見ていた大きさと変わらなくなる。


「お、オオ~、これ凄い」

「ワオ、ラビリンス様早いねぇ! 流石神に選ばれただけあるよ~」

「? 神に選ばれたって……? そう言えばレイさんが出てくる前に、≪この状況が分かる≫って言っただけで何かが頭の中に流れ込んできたんだけど、それと関係あるの?」


 手元を覗き込んできたノンの言葉に、色々ありすぎて後回しになっていた事を聞く。

 ……が(なんか邪魔が入る事多くない?)、


「大きくなれよこの~っ!」


 といきなり左隣でソラがそう叫んで、ノンの答えを聞き損ねてしまった。いきなり何? と文句を言おうと彼の方を見たのだが……問題はその後。

 ボン! と白煙が視界を――と言うよりソラの周囲を埋め尽くす様に爆発した。いきなりの事で今度は吃驚するよりも唖然としてしまい、白煙を思い切り吸い込んでしまったらしい彼が煙の範囲から顔を出してゴホゴホ咳き込んで、ちょっぴり涙目になっている事におかしくなって笑った。どうやら何か間違えて少量しか発生しない筈の白煙を大量発生させてしまったらしい。

 それにムッとしてタブレットに視線を戻したソラだったが――何か呆然としてるなと思って彼の方を見ると、手の中に納まるサイズだったタブレットが普通のパソコン画面ぐらいの大きさになっているではないか。私も驚き、重いのだろう、咄嗟に両手で支えた彼の手の中のタブレットをしげしげと見て一言。


「……ソラ、大きくし過ぎでしょ」

「い、いや、お前のと同じぐらいにしようと思ったんだけど、なんか上手くいかなくってよ……って、やっぱりキャラネームで呼ぶんだな」


 なんか驚きを通り越して呆れちゃって、私の表情を見たソラは一応反論した。戻そうとしているのか、ムム~と力みつつ念じる……ものの、


「……変化、しねぇじゃねーか……」

「あーえーと、なんか、ドンマイ?」

「軽いなぁ、おい……」


 気力を振り絞り続けたソラが5分ほど粘ってみても、まるで変化無し。これにはノンも同情した様な表情をしているのがなお居たたまれない。頑張れ、ソラ。


「……ああ、もー俺この大きさで良いや。レイさん、話続けてくれ」


 あ、最終的に諦めた。


「は、はぁ……では、進めます……そうですね、まず電源を入れてください」

「ん、……ん?」

「ふむ……あれっ? なんか画面が変わってる?」


 同時に首を傾げ、表示の変わったタブレットを覗き込む。


 『ジャスパー』に来る前は虹色のバックに『go to Eden』と『feedback to real』と言う文字しか出ていなかったのだが、今ではすっかり様変わり。

 画面中央では簡易的な人の絵が描かれ、今私達が着ているのと同じ、中学の制服を着ている。その両サイド、画面右上に『称号』、『スキル』、『アイテム』と言うボタンが並んでおり、反対側の画面左上には『ログアウト』の文字が煌々と。


「あ、これでログアウトすんのか」

「はい。ログアウトしても、お2人の体はその場に残りますのでお気をつけ下さい」

「うん。とりあえず戻れると言う事が分かって何より」

「そうだな」


 ソラと顔を見合わせ安堵の溜め息。このままずっとここ『ジャスパー』に居なくちゃならないとかになったら――凄く魅力的だけど、困るだろうし色々。


 とそこで、私達の手元を覗き込んでいたノンが、右手をグーにして上に勢いよく振り上げつつ言う。


「んじゃ、時間が勿体無いから、駆け足で説明いくよ~!」

「「お~!」」

「……何故そんなにソラ様もラビリンス様もノンもテンションが高いのですか……」

「レイが低すぎるだけ! さていくよ~、『ログアウト』は分かったよね、『称号』は自分の通り名的な名前かな、魔法使いとかエスパーとか、自分がどんな感じのプレイヤースキル持ちなのか分かるような名前だよ! 誰にでも1つはあるんだけど、ここ『ジャスパー』じゃ名前を教えてもらわないと表示されないんだ~、だから、人に名前を教えたくない時はその称号を言っても良いかも! んで次、『スキル』だけど、例えば称号が魔法使いさんだったら、【火魔法ファイアボール】とか【水魔法ウォーターブレス】とか、そのスキルを使う時に言う名前が表示されてるよ~、スキル名をタップするとどんなスキルか分かるからね? 称号も一緒! で最後の『アイテム』! そのまんま持ってる物だよ、最大は999個! 木に生ってる果物とか、元々持っていない物を持つと、一定時間を過ぎたら取得状態になるの! そのアイテムをタップして、取得する、ってしてもアイテムは手に入るんだけど、そう言う物が中に収まってるよ! 今2人が持ってるのは着てるその制服ぐらいかな、着てる物とか手で持ってる物はアイテム数にカウントされないから、持ち物欄が一杯だ~! ってなったら重い物をタブレットにしまって、軽い物は手で持つとかすれば良いよ! 何か分からない事があったら挙手!」

「「無いです長々と説明有り難う御座いました!」」

「いや本当に長すぎです!」


 あ、レイさんが流石に突っ込んだ。でも簡潔で分かりやすかったけどなぁ。

 ニコニコとハイテンションになりつつある私達に、ノンは分かっててやってる表情で満面の笑みを浮かべ、再度右腕を高々と突き上げた。


「O~Kっ、分かったのなら実践行ってみようか!」

「「賛成!!」」

「もう、なんなんですかこのノリは~~~~~っ!!」


 レイさんの絶叫が木霊したのだった。諦めろ、私達はこう言うノリが大好きなのだあぁぁぁ!



以上です。

結論、無双はまだ先になりそう。

あとそれと、1話の後書き嘘言ってます、登場人物おもいきり増えました。レイにノンと言うね。

レイのイメージは苦労人です。最後の方で分かるかと。と言うかソラとラビリンスとノンの組み合わせは正直レイだけじゃストッパーになりきれずにズルズル暴走しそうで怖い……ソラもラビリンスもおふざけ大好きっ子だし、ノンはノンで分かってて盛り上げちゃうし。

とっとと突っ込みと言う名の柚と涼を投入しないと……。

誤字脱字、表現おかしいだろ作者! と言う怒鳴り込み(笑)は感想の方へ宜しくお願いします!

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