処遇どうしよう?
「えっ、清涼ん家!?」
「ん? 何かあるの?」
「っな、無いけど……」
「んじゃ、決まりだな」
と言うやり取りがあって――今私は清涼の家の清涼が与えられている部屋にいます。正直言って、凄く緊張しています。
流石、清涼の家と言うか……緑色が多い部屋の中は整理整頓され切っていて、これならいつでも人呼べるだろうな、と思える部屋だ。男の子の部屋、と言うべきか。
「……んで、来たは良いけど……どうする?」
「……確かにね」
「どうしようもない……って言うのが本音だな」
「うーん……あ、とりあえず僕何かお菓子取ってくるよ」
「えっ……い、いいよそんなの」
「遠慮すんなって姫橘、ついでにお茶貰えるか? 喉カラカラなんだ」
「うん、分かった、探してくるよ」
「あっ、清涼、柚も手伝う……ついでに、タオル干せる所があるなら教えてほしいんだけど……」
「お? ありがとう……えっと、タオル干せる所は――」
パタン、と言う音で我に帰る。見回せば、部屋の中には私と雲居しか居なくなっていて、私は足を胡座で組んでいる雲居に問いかけた。
「あ……あれ? 2人は?」
「……いや、お前さっきの会話聞いてなかったのか? 菓子とお茶取りに行っちまったよ」
「そ、そう」
正座していた足が痺れ始めていたので、体育座りにして雲居を見る。
「……何だよ?」
「……いや、別に」
見つめられた雲居の言葉に目を逸らした。何となく、妙な停滞。それが3~4分と続いた所で、耳に何かをゴソゴソ動かす音が入った。
発生源は、いつの間にか私から背を向けている雲居。
「……雲居?」
声をかけると、雲居はビクッと体を跳ねさせた。その後ろから覗き込むと――雲居の手に、四角いのが。
……ちょっと待て、
「雲居、まさかタブレットいじってたんじゃ――」
「わ、わぁ! あの2人には言うなよ!」
雲居が手の中の物――タブレットを隠して私の口を塞ぎながら言う。気になってはいたらしい。
……うん、とりあえず口元から手を退けさせて、
「で? ……どうだったの?」
「……へっ?」
「だ~か~ら、あの『スタート』ボタン押して、どうなった?」
ポカンとする雲居に顔を寄せ、タブレットを覗き込む。私の行動に目を白黒させていた雲居だったが、すぐにフリーズから脱却し言葉を紡いだ。
「あ、ああ……えっとな、名前入力の画面が出たぞ……」
その声を聞き、自分が貰ったタブレットを取り出す。電源を入れて(本体の脇に普通に付いてた)『スタート』ボタンを叩くと、画面の背景が黒っぽくなり上端に白い枠、下端にキーボードが出てくる。
「へー……あ、ホントだ」
「え、お前、押したのかよ!?」
私の言葉に焦った声色を出す雲居の方を、ん? と振り返り、うん、と更にそこから慣れない手つきで打ち込んでいたタブレットを見せる。
「おい!? しかも俺より進んでんじゃないか!」
「ああ、名前ってなったからとりあえず『ラビリンス』って打ち込んで次に進んじゃったよ~」
ポカンを通り越して呆れた表情になる雲居。
「……いやお前、危ないとか思わなかったのか? 俺でも若干躊躇してたってのに」
口をへの字状態そう言う彼に、先にやっといて何を今更と思いつつも顔には出さずに、私はハッキリと言ってやった。
「こんな面白そうなの、放っておける訳無いじゃん」
再度ポカン、と間抜け顔を披露した雲居は――1秒後一転して黒い笑みを浮かべた。
「……お主、悪よのう」
「いえいえ、あっしの悪巧みなんて雲居様の足元にも及びませんてぇ」
ニッシッシ、と2人して(何故か)時代劇・悪役バージョンで笑いあった後、扉の方に耳を傾けまだ2人が戻ってこなさそうなのを確認する。
雲居もいつの間にか名前を打ち込んでいたらしく(見せて貰った所思いっきりソラだった)、2人同時に『次へ』をクリック。それぞれのタブレットを覗き込みながら、ちょっと時代劇バージョンで雲居に振ってみる。
「さーてお次はぁ……『go to Eden』に『feedback to real』と出ましたでぇ、お代官様」
「ふむ……俺様のにもそう出ておるのう。お主はどちらを押すべきだと思うか?」
ノリノリである。若干雲居の方が私より階級が上になっている事にムッとしつつも、ここは持ち上げてみる事に。
「お代官様ぁ、一人称まで悪っぽいですねぇ……さぁ、あっしにはさっぱり。お代官様がお決めになって下さいませ」
「ううむ……そうだな、『go to Eden』とはエデンに行く、と言う意味の筈だ……そちらの方が面白そうだと思うのだが?」
ええ、あっしもそれで良いと思いますよぉ、
……と言う声は、残念ながら出せなかった。
何故なら、
「「押さないの一卓で決まってるでしょ」」
扉がガチャっと開く音と共に、背後から2人分の声が響いたからだ。
「「うわぁ!?」」
此方も此方でシンクロしつつ飛び上がって、後ろを恐る恐る振り返る。そこにはお茶とお菓子を持った清涼と柚が仁王立ち。
「お、お二方、い、いつからそこにいらっしゃっておられましたんで!?」
「葵が『ラビリンスって打ち込んで』~の件から」
「ふ、振り返ったのに2人とも居なかったのですが!?」
「扉の前で原質取ってたし」
嘘ぉ、とガタガタする私達に、清涼&柚様方から有り難~いお言葉が。
「「さて2人とも、何か言うべき事は?」」
「……その、えっと、」
「……これ、ゲームだと思います」
「「そ・う・じゃ・な・い・よ・ね・2・人・と・も?」」
直後、私は柚から、雲居は清涼に笑顔と共に拳骨を脳天に頂きましたとさ(チャンチャン)。
◇◆◇◆
いやどこがチャンチャンだよ、この2人は。
僕――清楚涼――は、頭を抱えて蹲る木槿さんと天を姫橘さんと一緒に見下ろしていた。この2人は放って置くとすぐに要らない事を始めるんだよね……。
カタンと人数分のお茶のカップを乗せたお盆を机に置きながら、その場に座る。
「全く、油断も隙も無いんだから……」
そう言いつつ、姫橘さんが2人の手の中のタブレットを見事な手際で抜き取って、2人が手を出せない様に机の上に置いた。とても鮮やかです。何か手品でも出来そうな勢いだなぁこの人。
「あっ、ああ……」
「ああ、じゃないよ木槿さん。何か分からない物に触れるの止めといた方が良いって習ったでしょ、学校で……」
「と言うか学校で習うまでもなく皆知ってる事だからね普通に」
僕と机の上のタブレットの横にお菓子を置いた姫橘さんのコンボに押されたのか、天がそっぽを向いてボソリと、
「……この優等生め」
「聞こえてるからね雲居? なんなら拳骨もう一発逝っとく?」
「え、遠慮します」
呟いて、持ち前の地獄耳で聞き咎めた姫橘さんに忠告されて引き下がる。すると今度は木槿さんがボソッと言う。
「……地獄耳め」
「ありがとう」
「褒めてないっ!」
あえなく撃沈。姫橘さんって妙に話術が上手いと思ってたけど、小説書いてる影響もあるのかな……?
ちなみに僕が一番扉に近くて、右隣→木槿さん、左隣→天、正面→姫橘さん、と言う感じで四角い机|(座卓)を囲んで座っている。
そんなこんなで皆とも僕が配ったお茶を1回飲んで落ち着く。落ち着いた所で、問題児2人が口を開いた。
「さて、我らが軍師様、これからの指針を我らに授けて下さいまし!」
「下さいまし!」
「え、えっと、僕の事、軍師って……?」
「以外に誰が居られますか!」
どうやらこの2人は今日は時代劇に染まりきってるらしい。軍師様って初めて聞いたよ……?
まぁどちらにしろこの後を決めないといけないので、頭を捻って指を折りつつ挙げていく。
「えーと、案1・交番に届ける、案2・何も触れずに放置、案3・誰か1人犠牲になってタブレットを動かしてみる……えっと、他は……」
一旦詰まって考えていると、ズズズ~と啜っていたお茶を机に置いた姫橘さんが、意地悪な顔をして2本指を立てた。
「案4・全部捨てる。案5・分解してみる」
「ごほっ、おい!?」
お茶で噎せかけつつも言った天の突っ込みに、薄く苦笑した姫橘さんは更にもう1本指を立てた。
「……まあ、案5は無いかな。んじゃ案6「まだあるの!?」うん。案6・誰か1人がまとめて持っておいて、何か変化があったら皆に知らせる」
……。
「僕より姫橘さんの方が向いてるんじゃないの、軍師……」
率直な意見を述べると、姫橘さんはまた湯飲みに手を伸ばしながら否定した。
「そうでもないよ。小説書くのに主人公が取れる選択肢を出しきってから、面白そうな選択肢を選んで書き進めるって書き方してるから、取れそうな選択肢を出すのが得意なだけだよ……作戦立てるのはあんまり得意じゃないから清涼にパス」
「……さいですか」
パスされても困るんだけど……やった事無いし……でもまぁ、木槿さんや天に任せるより良いか。
姫橘さんがお茶を追加しズズズ~と啜るのを見ながら脳内で考える。
……うーん。
「……じゃあとりあえず、出た案の検討しようか。また出てきたら随時出すって事で」
「「了解であります!」」
「……葵に雲居、とりあえず時代劇風にやってたならそっちで固定しなよ、それ軍隊の方だし……」
呆れ顔で姫橘さんが2人に突っ込んだが、2人は知らん振りしてるので先に進めよう。
「まず案1……一番安全だと思う。届け出て放っておけばいいし。案2は完全な保留案……案3はとりあえず今は保留しよう、最後で良いだろうし……」
僕を皮切りにそう言うと、姫橘さん、天、木槿さんの順に思案顔で続く。
「案4は廃棄案……でもタブレットって確か回収対象だったような……」
「案5って何だっけ?「壊す」……流石に無いだろ」
「案6は誰かが持っておくだよね。案6にするなら私が持っておくよ~」
そう言いつつ机の上にあるタブレットに手を伸ばす木槿さんだったが、ピシャリと響いた声でビクッと手を止めた。
「却下。葵に渡しておくと勝手に弄るでしょ……案6なら清涼に預けるってなるね」
「論破……」
思案顔で指折り考える姫橘さんに視線すら向けられないままに論破され、ガックリと肩を落とす木槿さん。信用されてないんだ……(汗)。
一通り案を検討し終わった所で、問題児2人にチラッと目を向けた姫橘さんは、
「……で、だけど」
僕が置いていたお菓子(ポテトチップス)を開けると、が真っ先に手を伸ばしてバリボリと食べ出した。1回掴んだ量を呑み込むと、言いにくそうに口を開く。
「案3にするなら、誰かが犠牲になる必要があるけど……犠牲になりたい人、挙手」
「「はい!」」
「……こうなるよねぇ」
途端に手を挙げる木槿さんと天。こう言うの目無いしね2人……流石問題児|(この4人の中では)。2年の頃と殆ど変わっていない。とそこで、木槿さんが不可解な事を言った。
「って言うか、案3で良いと思う」
? と首を傾げて木槿さんを見れば、その手の中に……姫橘さんが取って机の上に置いていた筈の、タブレット。ついでに言うなら、天の手の中にも同じ物が。
……まさか2人とも画策してたのか、僕らの目を盗んで先に進める事?
「……ねえまさか」
「押しちゃった♪」
「押しちゃった♪ じゃないでしょこの馬鹿っ!!」
テヘッ♪ と舌を出す2人に対する怒号が、姫橘さんの口から響いた。
以上です。
……次話投稿するのに時間かかるかと思ったら案外そうでもなかったです。いや~、先々進んで書いててよかった、うん。
それと、予告が若干違ってました、はい。もう次からヒャッハー出来ちゃいそうです……ちょっと強引すぎる気もするけれど……。
次の更新をお楽しみにして下さると嬉しいです(少なくとも1日以上空きます)。
誤字・脱字等ありましたら教えて下さると嬉しいです。