なぁにこれぇ?
「……」
「…………」
「………………」
「……………………いや、何か喋ろうよ」
隣にいた姫橘柚が、さっきから黙りこくっている私、木槿葵と、更に右隣にいる男子2人――身長高い方、雲居天と身長低い方、清楚涼にそう突っ込んだ。言われて、私はしぶしぶ口を開く。
「そんな事言ったって、これが何か分かる訳じゃないし」
「だからって黙ってもいい理由にはならないでしょ」
「じゃあ柚はこれが何か分かるの?」
「分かる訳ない(シレッ)」
「「「分かんないのっ!?」」」
「お~ナイス突っ込み」
「「柚は元々突っ込み役だろっ!」」
「うんまあそうだけど。本当にこれ何だろうね?」
サラッと柚が話題を戻してしまったので、仕方なしに追及をやめて、私は視線を手の中のこれ――タブレットに落とした。
全体が青色で、表側はその全体の大きさ(手より一回り大きい)から一回り小さい画面があり、画面には虹色のバックに白のボタンだけが浮いていて、黒のフォントで『スタート』と書かれている。裏側には虹色の『マジカルスペース』の文字のみ。
多分これの名前なんだろうけど……。
それが、私達4人に1個づつ。それぞれ外郭の色が違い、柚は紅をそのまま薄くした様な色、清涼(清楚涼なので、略して――と言うかそを抜いただけだけど)は薄黄緑色、雲居は黄色と言った所。
「でも……よくよく考えたら、これ渡された時点でおかしかったよね……?」
「へっ? どういう事?」
「だって、色とか、重さとか……」
この中では頭の良い方に入る清涼が、口元らへんに右手を当て右肘を左手の上に乗っける――俗にいう探偵がやる様なポーズ――をしながらそう言うので、私はこのタブレットを渡された時の事を頭に思い浮かべた。
◆◇◆◇
「葵~! 一緒に帰ろうよ~」
「柚?」
HRが終わって、教室を出た私はすぐに柚に捉まった。この手際良さ、絶対教室前で待ってたな……。
「千草と時雨君と帰んないの? いつもは一緒に帰ってるのに……ラブラブで」
「……いや、あれをラブラブと言っていいなら、似たような状況になってる人達なんて大量に居るし……ついでに言うなら、彼女に尻に敷かれてる彼氏ってのもどうかと思うんだけど」
「……尻に敷いてるじゃん、時雨君のこ「うん」と……自覚あるのっ!?」
まあ話の流れで分かると思うけど、柚には彼氏がいる。時雨天と言う男子で、先刻話題にも出した千草爽と一緒に同じクラスだ。いつもは一緒に帰っている筈なのに珍しい、と思って聞くと、
「何か2人とも用事があるからって先帰ったよ」
との返答が。
「……それより私、菫ちゃんと一緒に帰ろうと思って――「残念、来る前に覗いたら、菫ちゃんは掃除で先帰ってってさ」――……あー、なら一緒に帰ろうか……」
もう、今日は柚と帰ろう、と諦めた私なのだった。いやまあ、一緒に帰りたくない訳ではないけどさ?
もう9月も後半戦に突入しようとしてるのに、今年の夏はまだ立ち退く気は無いようです。
と言う柚の声(確かに今日私は上着を持ってきているものの羽織る事はせず手に持っている)を聞きながら、しかし私の視線等の感覚は前方に見えるある男子生徒に釘付けだった。
「ん? 何見て――ってなんだ、涼に天じゃない」
私の視線を追った柚が、納得の口調でその人の名前を言った。
清楚涼。3組の男子生徒で身長は殆ど私と同じくらい(つまり150㎝を過ぎた程度)、顔は――まあ、中の上程度? 結構良い方だとは思うんだけど。校則に忠実な黒髪(首に届くか届かないかくらい)に黒目。成績は優秀だ。理系で、理科部の部長。絵に描いた真面目君、が私の評価。
元々中2だった頃のクラスメイトで、私が――その、気になっている男子だ。と言うか、一回告ったんだっけ?
ちなみに清涼の近くにいる背高ノッポは、雲居天と言うこれまた中2時代のクラスメイト。身長163㎝弱の――うん、どちらかと言うと成績は私に近い。要するに悪い方だ。黒髪、と言うには若干茶色が混じっている髪を短く切っていて、目の色は焦げ茶。クラスメイトだった頃は、良い弄り相手……ゲフンゲフン、仲が良かった。部活は――確か将棋部かそこら辺。悪戯が好き、と言うのは違うが、振ると乗ってくる面白い奴。一部の女子(と言うか私などの元2組)に、『変態仮面』と言われている……理由は、お察しください。彼的には不可抗力だったんだろうけど、女子の着替えている所に――(自主規制)。
ちなみに私と柚はと言うと――私は首より若干長い黒髪を、首の後ろで1つ括りにしている。目の色は漆黒で、身長は150㎝にギリギリ届かない程度。どちらかと言うとおちゃらけた性格で、2組の頃は雲居と一緒に色々やった事がある。人見知り、と言うよりただ単に人と会話するのが下手な所為で、友人は少ない。成績は前述の通り、中の下程度。3年5組所属。
柚は長く、若干(彼女は生粋の日本人の筈なのに)金髪も混じっていて茶髪っぽく見える黒髪に茶色の目。清涼程ではないが優等生で、にしては遊ぶ事が好きだ。変化は好きだが自分から手を出す事がなく、読書が好きな引きこもりタイプ――と、言う訳ではなくコミュニケーションが達者で人脈はかなり広い。なので役職的には参謀とか策略家――策略家に関しては清涼の方が似合う気がするけど――だ。清涼に次いで頭が良く、若干おっとりさん。時たまにブッ飛んだ事を言ったりする、小学校からの幼馴染みだ。3年4組所属。
ちなみに私も柚もバドミントン部だったが、8月の下旬で引退してしまっている。
彼らは確か3組で、いつもよく一緒に帰っている仲良し2人組。
彼らも帰る所らしく、私は一緒に帰りたいなあと思いつつ、でも言い出す勇気が無くてウジウジしていると。
「よっ、雲居に清涼、帰るのっ、と!」
なっ、と隣を見ると、あっけらかんと柚が2人に走り寄って後ろから雲居の背中を思いっきり引っ叩いた所だった。
「痛っ……て、何だ姫橘か、いきなり叩くなよ!」
「ん~ゴメンゴメン、……つい?」
「ついって何だついって! 姫橘はすぐ人を殴る所直した方が良いぞ!」
「……天、姫橘さんに言っても今更な気がするんだけど」
「ちょ、ちょっと、柚待ってよ~」
心の準備が~……と言う副音声は聞こえないフリをされた。まあ柚の性格的に、助かっている所もあるんだけど。柚は男女の差を無視して踏み込んでいく所があるし、それによって清涼に近づけるのならいいや。
「あれ、木槿さんも一緒なんだ……と言うか、僕の事、清涼って呼ばないでって言ってるんだけど……スポーツドリンクみたいじゃないか」
「もう清涼で定着してるから無理だね!」
「そうだなぁ……もう涼が姫橘には清涼って呼ばれてるってのに慣れてるからなあ……多分無理だぜ」
「……姫橘さんが天を見かけると殴りに来るのと一緒でね」
「あっ、それは――」
「うん、清涼良い返事だね~、清涼が諦めたんだから雲居も諦めると言う事で! それで、今帰る所?」
……会話を挟む隙がない……。
「あーうん、僕は今日クラブ無いし」
「俺もな」
「へ、へえ! だったら一緒に帰ろう!」
少々強引に会話をねじ込む。すると空気を読んだのか、柚がニヤッと笑って続けた。
「いいね、たまには雲居を弄りながら帰るのも良いんじゃない?」
「ちょ、何で俺からかわれなきゃならないんだ!?」
「「「いいじゃんたまには」」」
「な、何で涼までハモるんだよ!?」
「「「気にしない気にしない」」」
◇◆◇◆
そんな仲の良い(?)やり取りをしながら、柚――姫橘柚――を含むメンバーは校門を出て帰路についた。
……んだけど。
「うわぁ、めんどくさいのがいる……」
葵の声に視線を追う。最近視線感知系統のスキルがめっきり上達してるなぁ。
視線の先――校外を走る運動部連中(つい1ヶ月前まであの中に居たんだよなぁ……)の邪魔にならない所で、黒いスーツを着た青年が、若干大きい封筒を帰っていく3年生に配っていた。3年生限定、と言う事は塾の紹介かな。
まぁ、柚は某最高峰の山脈に似た名前のパソコンでやれる塾をやっているし、清涼も雲居も、果てにはあの勉強嫌いのスポーツ少女、葵さんまで最近始めたそうだし、必要無いっちゃ必要無く、かえって邪魔になりそうな物だが。
「お兄さん、それ1つ下さい」
と、柚は青年に話しかけていた。それに雲居が続く。
「おっ、有り難うね~、貰ってくれる人少なくてさぁ」
「へー、そうなのか……兄さん、俺も1個」
「おう、毎度あり~」
「いやそれ、寿司屋かなんかの台詞ですよ」
「ああ、そうだったけな」
まぁ、ハッキリ言って別に塾の紹介は要らないのだが、こう言うのって大抵中に消しゴムやらファイルやらが入っていたりするので、それが目当てで最近はよく貰うようにしている。文房具代って案外洒落にならないし。
「ちょ、ちょっと柚、貰わなくっても――」
「お、君達にもはい、これ」
見るなり走っていった柚達に追いつく様に背後から声をかけた清涼と葵の2人にも、青年は同様に封筒を渡した。
黒く、ズッシリと重いそれを青年は渡しながら、丁度後ろを走り抜けていった運動部には聞こえない様に声を潜めて、柚達にのみ聞こえるよう含み笑いをしながら言った。
「これ、結構気合い入れて作ったんだよ。まあ、必要無いかもしれないけどさ、捨てる前に1回くらい見てくれよな」
そう言って、配るのに戻っていってしまう。丁度下校するのに使う道にある近くの信号が青になったので、大通りの反対側まで渡ってから、いまだに後ろを振り返っている葵に声をかける。
「……どうしたの? 後ろばっかり振り返って……」
「……何か、あの人の言い方が変に聞こえてさぁ……」
「うん? 別に変じゃなかったろ……なぁ涼?」
「……うん、そう思うよ」
……まあ、後から考えればこの時点で手遅れだったんだけど。
「うーん……まぁ、いっか」
「そうそう、良いにしとこ……さて、何が入ってるかな」
そう言って封筒を漁る。が、中に入っていた物に指先が触れるより、清涼が中身を引っ張り出す方が若干早かった。
「……? 何だろう、これ……」
「「「え?」」」
一番最後尾を歩いていた清涼に3人の視線が集中する。清涼の手の中には――え、……タブレット?
「……え、一応聞くけど清涼、学校に無断で持ってきた……って、訳じゃないよね優等生だし」
「……優等生だから、って言うのは理由になってないけど、うん。封筒の中に「あ、私のにも入ってた」……とまぁ、こんな感じ」
葵に言葉を遮られて若干ひきつった顔をする清涼から目を外して右隣に移行すれば、葵の手にも同じ物(ただ色違い)が。更にはその左を歩いていた雲居も、封筒からタブレットを引っ張り出す。これも清涼や葵の物と色が違う。
「……え、全員のに入ってるの?」
「うん……そうっぽい。柚は?」
「え……えーと」
ガサゴソと封筒に手を突っ込み、中に唯一入っていた固い物を引っ張り出す。するとそれも、
「……入ってた」
「「「……」」」
無言で顔を見合わせ、一旦封筒の中にタブレットをしまう。ここは下校に使う生徒が多い住宅路だ、誰が見てるか分かったものじゃない。
「……えーとさ、皆言いたい事あると思うけど、せーので言わない?」
「……賛成」
「……確かに」
「……うん、そうしようぜ」
「……じゃあ、せーの、」
すうぅ、と息を吸い、
「「「「何でタブレット入ってる(ん)の(!)」」」」
◆◇◆◇
で、冒頭に戻ると。
あの後とりあえずあまり人の来ない路地裏にまで入り込み、ついでに――とは言っちゃなんだけど、降ってきた雨をやり過ごしていると。
「見てきたよ~」
「「「お帰り」」」
大通りの方から、柚が雨に濡れながら帰ってきた。濡れない所に置いていた彼女の荷物を渡していると、柚は私の手の中の物を見て、怒りの声をあげた。
「あっ、勝手に小説読んでる!」
「あ~ゴメン、前回の続きが気になってさ~……投稿してない分、こっちに書いてるかなって」
「もう、誰にも見せてないのに!」
手元から問題のノートを引ったくり、ふと恐る恐る傍観している男子2人に問う。
「……もしかして、2人も読んだ?」
「ああ、面白かったぜ」
「その小説、近々文庫化するって噂になってる投稿サイトの小説でしょ? 姫橘さんが書いてたんだ」
その反応に、ガックシと肩を落とす柚。彼女、小説をWeb上に投稿していて、何気に人気作家状態なのだ。
「……あ~、もう1回この話最初から全部構成やり直そうかな……」
「何で~、面白いんだからそれでいいじゃない! ……それで、どうだったの?」
口を尖らせて反論してから、結果を問う。彼女は、校門前にあの青年が居ないか、居たらタブレットを返してくるように頼んでいたのだが……。
手の中の封筒4つをヒラヒラ見せたと言う事は、
「居なかったよ。校内に入ろうとしてた後輩に聞いたら、雨が降りだした時にはもう居なかったって」
「……そう」
「……どうする? これ……」
柚から受け取った封筒からタブレットを覗かせて、雲居が私達に聞く。そんなこと言われても、
「……お兄さんには返せないし……」
「……って言うか受け取った時に気づくべきだったよね……時既に遅しだけど」
「って言うか、さっむ……タオルタオル……クシュンっ!」
うーむと私、清涼、雲居が唸る中で、柚は濡れた体が寒いのか、持ってきていたらしいタオルで拭けるだけ水分を拭き取っていく。その様子と、いまだ止みそうにない雨を見上げ、清涼はこう言った。
「……とりあえず、このタブレットをこの先どうするかだけでも決めないと。だから、」
「「「……だから?」」」
一旦切った言葉に3人で振り返ると、清涼は置いていた荷物を拾い上げながら、私達に対して1つ笑った。
「僕の家行こう」
以上です。
長いので大抵「ゲームソ」と略しています。無双物です。
この作品はあらすじにも書かれている様に作者の友人が考えて自分が形にしている作品ですので投稿は亀より遅いと思ってください。
登場人物は今の所中学生の4人と青年くらいです。
誤字・脱字等ありましたら教えて下さると幸いです。