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僕のトラウマと私の黒歴史  作者: 中結い
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私の黒歴史編5

 ゴールデンウィークも終わり、あれから何事もなく過ごして五月の中旬。僕の通う私立小町女子高等学校ではそろそろ体育祭の季節であり、女子高ながらも連日やる気に満ち溢れた体育会系女子たちの熱気に包まれて、真夏のような暑苦しさだ。


 あれから、彼女が忘れていったワンピースを取りに来ることはなかった。処理に困って届けに行こうにもどこに住んでいるのか分からないし、そもそも家出をしているのだから居どころなど分かるはずがない。捨てるに捨てられず、とりあえず洗濯をして他の衣類と一緒にタンスに入れてあるが、ラフなものが多い僕の服の中では殊更目立ち、なんだか場違いな空気を放っていた。


「ねえ彼方、何ぼんやりしてるのよ」


 このままワンピースを取りに来なかったらどうしようかということに思いを馳せていたら、友達の一人が不満げな声を上げた。


 僕がぼんやりしているのはいつものことなんだけど。


「ごめん、何だっけ?」


「だから、今日転入生が来るらしいのよ。どんな子か分からないけど。……何か知らない?」


「いや、その噂自体初めて聞いたけど……」


 いつの間に広まってたんだよそんな噂。


 どんな子だろうという話題で盛り上がっているうちに、始業のチャイムが鳴った。


「おはようございます。もうだいぶ噂になっているみたいだけど、今日はうちのクラスに転入生が来ます。省いたりしないで、仲良くするんですよ。佐々さん、入ってきなさい」


 そう言われてやたらにスムーズな引き戸を開けて入って来たのは、指定のセーラー服をあくまで清楚に着こなした、湿気の悩みとは無縁そうな綺麗な髪を持つ少女だった。


 言うまでもなく、あの雨の日にずぶ濡れていた彼女である。


「佐々綾乃です。よろしくお願いします」


 そう言って顔を上げた彼女の顔には、でかい絆創膏が貼ってあった。


 それを見て、教室の空気がざわつく。


 僕は思わず、初めて会ったときの彼女の姿を思い出した。

 

 傷だらけの顔と身体。


 一つの疑惑が頭の中に浮かぶ。

 

 とりあえず好きなところに座れと言われたので、彼女は今日はたまたま欠席なだけで空いているわけではない、僕の前の席に腰かけた。


 先生何も言わないのかよ。


 学校来たらめちゃくちゃびっくりするだろうな、前の人。


 新手のいじめの可能性を考えるかもしれない。


「お久しぶりです。近江さん」


「久しぶり……」


 いきなり転入してきた事とか、勝手に前の席に座っている事とか、顔に貼ってあるでかい絆創膏の事とか、気になる点が多すぎて僕の頭はややオーバーヒートを起こしていた。


 継ぐべき言葉が見つからない。


 ……いや、そういえば言わなくちゃいけないことがあったんだった。


「あのさ、ワンピース忘れていったでしょ。まだ家にあるんだけど、今度持ってくるよ」


「いいえ、それには及びません。取りに伺います。今日は平気ですか?」


 律儀だなあ。常に敬語口調なところといい、あんまり女子高生っぽくないなこの人。


「うん、平気。じゃあ放課後に」


 そう約束して、僕は授業に向かった。



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