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僕のトラウマと私の黒歴史  作者: 中結い
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私の黒歴史編4

 終わりました、と声が掛かったので、考え事をやめて部屋に戻る。暗い廊下から煌々とした蛍光灯の下へ戻ると目がチカチカして刺されるようだ。


 彼女はさっきの白いワンピースから白いブラウスとスカート姿になっており、色が同じなのとどっちにしろスカートなので大して印象は変わらなかった。


「本当はお風呂とか貸せたらいいんですけど、叔父さんたちがいるから……」


「お気遣いなく。こうして部屋を貸していただけただけで……十分です」


 びちょびちょの服を着替えられたことで少し落ち着いたらしく、彼女は眠そうに大きなあくびをした。


 すっかり忘れてたけどもうとっくに深夜なわけで、眠そうなのも当たり前か。


 僕は納戸にしまってあった客用の布団を運んできて、ちゃぶ台を片付けて畳に敷いた。濡れた髪で枕を使われては困るので、妹からドライヤーを借りてきて乾かしてもらう。


 しかし湿気による悩みとか皆無そうな綺麗な髪だな……。今はおかっぱみたいだけど、伸ばしたら平安貴族みたいになりそう。まあ、顔は全然違うけど。


 夜も随分と深まりさすがに僕も眠くなってきたので、彼女の隣に布団を敷いて寝ることにした。


 気分的には修学旅行だが、知らない人の家に泊まっているあっちはそれどころじゃないだろう。


「……お名前、伺ってもいいですか?」


 彼女は眠そうな声でぽつりと言った。質問の内容的には、今更な感じもするが。


「ええ、近江彼方です」


「近江さん……ですか」


 それっきりしばらく黙ってしまったので眠ったのかと思っていたら、またぽつりと彼女は言った。


「今日は何から何まで、本当にありがとうございました……このご恩は……」


 また少し間があって、彼女は言った。


「……このご恩は一生忘れません」


 そんなおとぎ話のようなことを言われて、僕は思わずぎょっとした。そもそもそんな大したことはしていない。


「そんな、大袈裟ですよ。僕はただ――」


 そう返答しかけたときは既に、彼女はぐっすりと寝入ってしまっていた。


 ……そういえば彼女の名前、聞いてなかったな。


         



 翌朝目が覚めると僕の横には誰もいなくなっていて、綺麗に畳まれた蒲団だけが残されていた。


 もしや夢だったんじゃないかとも思ったが、壁の縁に掛けられたままになっている白いワンピースがそうではないことを物語っていた。


 あの子、ワンピース忘れていきやがった。



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