私の黒歴史編3
僕の家は本来金貸しである。それがざくざくと財を蓄え地主化していったのが始まりなのだが、それがいつのことなのかはさっぱり分からない。
地主の傍ら今もしっかり金貸しを営み、情け容赦ない夜叉の如き取り立てで周囲を震撼させるとともにひどく毛嫌いされている。
実際、過去にはいくつかの脅迫状が届けられており、親戚一同は一笑した後にどうやってか送り主を突き止め何らかの何かを施したらしいが、それは僕の知るところではない。
ちなみに、そのときに付いた羅切の近江家というとんでもない汚名は、今も消えずにいる。
嫌悪とともに畏怖の目さえも向けられる――そんな存在が、本来我が近江本家のはずであった。
だが、今この宴においての彼らに、そんなクールさはとても見受けられない。
「おかえりぃ♪ 彼方ちゃあん……お、誰ぇ? その子」
「何? 女の子拾ってきちゃったのお? 彼方ちゃんも隅に置けないなぁ」
彼女にタオルを貸し出していたら、いつの間にか玄関にまでやって来ていた叔父さん達が絡んできた。
出来上がってるなあ……まったく、いつまで飲む気なんだよ。
「違うよ! ったくもう、ほらお酒とか買って来たから、どうぞ」
そう言ってワイワイしている間に、さっさと離れて自室に向かう。
「あれー? 彼方ちゃんどこ行くのお?」
「飲まないのー?」
「飲めないっ!!」
居間から廊下を通りそのまま渡り廊下へと出て離れへと渡る。何気なく庭を見ると、あまりの雨量に池が氾濫している。翌朝になって鯉が乗り上げていたりしないだろうかと心配しつつも廊下を折れて隅っこの部屋へと入った。
「今薬箱出しますから、その辺に座っててください」
そう言って座布団を差し出す。
薬箱はよく使うから、わざわざ出すまでもなくタンスの上にあった。
脱脂綿に消毒液を染みさせ、顔の血を拭って絆創膏を貼る。痣はどうしたらいいか分からなかったので、とりあえず軟膏を塗るだけにとどめておく。よく見ると傷は顔だけではなかったので、そこも消毒したり軟膏を塗ったりとしているうちに結構な時間が経ってしまった。
くしゅん、と彼女がくしゃみをする。
そういえば濡れた服のままだったな。
「僕外にいるので、その服着替えたらどうですか? 着替えは……持ってますよね?」
ちらっと白い旅行鞄に目をやる。雰囲気的に家出か追い出されたかだろうから、あの鞄の中身は衣類だろうと踏んでいた。
「はい。お気づかいありがとうございます」
そうして頭を下げたのを目に収めてから、僕は扉を閉め暗い廊下に立って一人ぼんやりした。