私の黒歴史編2
酔客のためのつまみやら酒やらを買い込んでコンビニを出ると、雨はまだ降っていた。
しかもこういう時に限ってコンビニの傘は残らず売り切れており、一本もないという甚だ役に立たない状態にあった。
さっきより雨脚が強まっているようにも見えるが、ここは覚悟を決めてずぶ濡れになってやろうじゃないか。
そう心を決めてフードをかぶり、小走りで家に向かおうとしたところに、ずい、と傘が差し出された。見ると、さっき僕が貸した青い蛇の目である。
「あの、これ……お気持ちだけで結構ですから」
そう言って上げた顔は僕と同じくらいと見えて、可愛くはあるが妙に傷だらけである。下を見れば、白い旅行鞄が置かれていた。
なるほど、そういうことか。
「良かったら、家に来ませんか? 傷の手当とか、した方が良いでしょう」
バケツをひっくり返したような雨は、留まるところを知らず止む気配もない。いくら少し大きめの傘を持ってきたとはいっても、二人で入れば肩も濡れる。くっつこうにも知らない人だし、元々広めのパーソナルスペースが邪魔をしてそう近づくことが出来ない。
しかしなんといってもこの沈黙が一番嫌な訳で、僕は今日初めて会った人に対して、この道に関するどうでもいい怪談を語るのである。
「この道って、色々な化け物が出ることで有名なんですよ。河童とか、べとべとさんとかたんころりんとか」
「それはまた、ずいぶんと雑多ですね」
「まあ、嫌がらせのデマですから。僕の家は職業上、あんまり好かれるようなものではないので」
そう言うと、彼女はびくっと身体を震わせて動揺したように僕を見た。
何かまずいことを言っただろうか。
「どうしました?」
「いえ……今あの、僕って……もしかして、男性の方ですか? すみません、そうは見えなかったもので」
なんだ、そういうことか。
「ああ、違います。見ての通り女ですよ。自分でも変なだとは思いますけど、癖になっちゃって」
「なんだ。いえ、気にしなくていいと思います」
彼女はふう、と息を吐いた。
男の娘疑惑を掛けられたようだ。
そこまでかなあ……。
うーん、ちょっとへこむ。
「でも、そんな嫌がらせをされるようなお家って……何をされているのか、聞いてもいいですか?」
ああ、と僕は溜め息を吐き、そして少々迷って聞き心地の良い方だけを口にした。
「地主です」