私の黒歴史編11
あの後に携帯を確認すると、見知らぬアドレスからメールが届いていた。内容は指定場所の地図の画像と、宣告通り殺すという内容の文書だった。
送り主は確実に、この間の手紙の主であるはずだ。
メールを僕宛に送った辺り、殺すというのはきっと妹に向けたものではないはずだから、きっと命だけは助かっているはずだというのがせめてもの頼みだった。
僕は組体操の役目を佐々さんに任せて、送られてきた地図に沿って全走力で走りつつ手紙にあったベルフェゴールの正体について考えていた。
親戚でもない、妹でもない、勿論僕でもない。じゃあ、あれは一体誰のことを指すんだろう? 考えろ、考えろ……。
五分ほど走ると、指定された公園に行きついた。中では大柄な男が二人、妹を抱えるようにして立っていた。
妹は生気を失ったように、まるで人形か何かのようにぐったりしていた。
「……っ! はるかっ!!」
その異常な様子に思わず叫ぶと、二人の男が一斉にこちらを見たようだった。
思わず足がすくむ。だが、そんな場合ではない。
「やっと来たか……だいぶ驚いたみたいだが殺してはいない。気絶してるだけだ」
「お前、ベルフェゴールと手を切るようにとあれだけ忠告したのに、馬鹿なやつだな」
にやり、と笑う様子に思わず背筋が寒くなった。だが、それも武者震いだと思うことにして、きっと相手を睨みつける。
「お前ら、誰か別の人と勘違いをしてるんじゃないのか? 僕はベルフェゴールなんて奴知らないし、聞いたこともないぞ」
これは本当のことであったが、相手は全く信じようとはしていなかった。まあ、そんな物わかりの良いやつだったらこんなことしないだろうし、当たり前か。
「今更弁解したって遅え。さっさと手を切ってれば、こんな手荒なことをせずに済んだのに……」
そう言って懐からナイフを出す。偽物ではないようだ。
「目撃者の口も封じないとな。二人まとめて天国まで送ってやる」
二人まとめてというからには、そこには僕だけでなく妹も含まれているのだろう。僕はともかく、妹は本当に何も知らないのだ。せめて彼女だけでも命を保証される権利はあるはずだ。
僕はチャンスをうかがい、隙を狙って金的を二人の男にかました。
衝撃で妹を手から放したのでビンタをして起こし、僕の携帯を押し付けた。
「僕の学校まで行って叔父さん達に知らせてきて。地図はメールボックスにある。叔父さんたちは中庭入って左にいるから」
「えっ、え? お姉さまは?」
「僕は……いいから、後で行くから。気にしないで、ほら」
「えっ、でも……」
「いいから! 早く!!」
そう言って、妹を送り出す。
二人で逃げてしまっては、こいつらは絶対に追いかけてくるだろう。そうなると小学二年生の足と、体育が2でしかも膝に怪我を負った女子高生の足ではいくら金的を食らっていても絶対に追いついてしまう。
近所に助けを求めようにも、この辺りは民家もなく人通りもほとんどなかった。
そして何より、僕は足がすくんでしまって歩くどころか立つことさえ出来なかった。
こんなときに情けない。
でもどうしても、足が言うことを聞かなかった。
二人の男が立ち上がり、ナイフを握りしめてこちらへ向かってくるのが分かった。うつむいていても、強烈な圧を感じる。相当怒っているようだ。金的なんかされれば当たり前か。
拾った命を、こんなやつらに奪われるのは惜しい。だが身体は動かないし、一体どうすればいいのか。
僕の脳裏にふと、佐々さんの顔が浮かんだ。他にも友達はたくさんいるのに、なんで佐々さんなのだろう。
なんて、いかにもかまととぶって考えるふりをしてみるけれど、理由はとっくに分かっている。
僕は多分、佐々さんが
地面に映った影が大きく動き、ナイフを振りかぶったらしいことが分かった。
もうだめだ。こんなことなら、もっと
じっと身構えていたが、いつまで経っても何も起きる気配がない。恐る恐る目を開けてみると、そこには大きな傘を片手にナイフとしのぎを削る佐々さんの姿があった。
「遅くなってすみません。でも組体操は成功させましたよ」
そう報告をしつつ、眉一つ動かさずに屈強そうな相手を跳ね返す。そのまま急所へ突きを繰り返し、足払いをして相手を転ばせた。
二対一なのに、たいへん余裕そうである。
それに対し相手の二人は、切羽詰まったように言い訳をした。
「ち、違うんすよ、ベルフェゴールさん。俺らはただ……」
「……お前ら、抜けるって言ったとき散々私のこと殴ったよな? それでチャラになったんじゃないのか? ……なんとか言ってみろ、この××××!!」
うわ! 佐々さんが放送禁止用語を!
「その上この人は……っ、もういい。手加減とか、そういうのやめた」
そして、彼女は傘を捨てた。
「この人に手を出すのがどういうことか、骨の髄まで教えてやるよ」
ここから先は、R18G。
この後叔父さん達が駆けつけてきて、全く原形をとどめていない元人間の顔を眺めながらふーんと唸った後、後は大人がやっておくから気にしなくていい、とにっこりした。
なんでも叔父さん達の元にも手紙やらいたずら電話やらが来ていたらしく、ちょうど犯人特定をし終わった頃に事件が起こっていたらしい。
羅切の近江家再来の予感がする。
僕らはせめて閉会式だけでも出たらどうだという叔父さんの言葉により、一旦学校へ戻ることになった。
その道程で、佐々さんはぽつりと言った。
「あの、すみませんでした。私の個人的な因縁に近江さんを巻き込んでしまって……」
「……何言ってんの。佐々さんは宣告通り、僕を守ってくれたじゃん。それに僕の方こそへなちょこで、お手数お掛けしたっていうか」
足がすくんで動けないとか、情けないし。
「それにしても、佐々さんがあんなに喧嘩が強いなんて驚いたなあ。おしとやかそうに見えるのに」
彼女は小さく微笑んで、それに対し何と言おうか迷っているようだった。だが、やがて心を決めたように口を開いた。
「実は、私……」
そうして、佐々さんの告白が始まった。