私の黒歴史編1
ゴールデンウィークなんて玉のような名前に似合わず、じめじめと雨の降りしきる四月最終の夜のこと。
僕は馬鹿騒ぎをする親戚たちの酒宴の輪にいたくなくて、特に必要ともされていないおつかいを頼まれてコンビニまでの道程をてくてく歩いていた。
深夜に差し掛かっても雨脚は衰えるところを知らず、早すぎる五月雨のごとくざぶざぶと音を立てて足元を濡らす。湿気で酷いことになっている癖毛もさることながら、靴に染みてぐちょぐちょになる雨水の煩わしいことはこの上ない。
長靴を出してくるべきだったかと後悔するが今更どうにもならないので、びしょ濡れの足はいったん意識から切り離す……ことが出来ればいいのだが。
どうにもならない濡れた足を引きずってのろのろと進む暗い夜道。
冷たく湿った空気がべっとりと肌にまとわりつき、聞こえる音といえば雨音だけで、それさえもまるで静かさを際立たせるためだけにあるように感じる。土の匂いが濃く漂い、湿った空気を更に重くする。そこになんだか、どこか生臭さが混じるような。
要するに、この道は暗くて怖くて怪談チックで、気味が悪くて怖いのだ。
昔から緑色の子供が走って行ったとか、姿の見えない足音に付きまとわれるとか、目玉に甲高い声で話しかけられるとか、そんないわくつきの道なのに、僕の家からコンビニ含む町へ降りるにはこの道しかないという、この嫌がらせかとも思える立地の悪さ。
噂を広めた奴は、きっと家に嫌がらせをするつもりだったのだろう。
効果てきめんだよ。まったく。
不気味な藪の間を抜けるとその先は細い道路になっていて、そこをもう少し行けばコンビニに着くようになっている。
普段はそこそこ車の通りも多くて賑やかだけど、こんな夜中では通る車も無くやけに静かだ。そこそこの交通量があるだけに一応バス停なんかもポツンとあったりするんだけど、こんな時間ではさすがに終バスも出ていて利用者はいない……かと思いきや、人が一人立っていた。
しかも、これだけの雨量で傘を差していない。
白いワンピースが雨に濡れて、割と露骨に透けてしまっているのだが、それは別にいいとして……。
怖い。もしや僕は新たな怪談を目撃する羽目になってしまったのだろうか。
とは言ってもさすがに普通の人だったら可哀そうなので、恐る恐る近づいていって様子を見る。
濡れた髪が顔にかかって、表情は窺い知れない。だが鳥肌が立っていたので、とりあえず幽霊の類ではないことを確信した。
「あの、大丈夫ですか?」
こんな状態で大丈夫なはずがないだろうとも思ったが、ただの挨拶だと思って声を掛ける。その人はわずかに震えたように見えたが、返答はない。
仕方なく、もう一度声を掛ける。
「びしょ濡れですけど、傘とかないんですか?」
またどうでもいい質問をしてしまったが、なんとか反応を引き出せないだろうかと期待する。だがやはりまたわずかに震えただけで、なんの返答もない。
このままでは埒が明かないし、僕としてもどうしようもない。どうしようと少し迷ったところで、僕は彼女に差していた番傘を押し付けて、とりあえずこれ差してください、とだけ言ってコンビニまで走った。