はじめまして、あなたのお名前は?
「なんでテメーはいつもそうなんだよ、見ててイライラしてくるぜ。おい聞いてんのか?聞こえてんだったら返事しろ馬鹿やろう」
誰も居ないはずの真後ろから聞こえる、鈴が鳴るような可愛らしい声――のはずなのに言っている内容は、近所のコンビニで無駄に集会を開く時代遅れのお兄様方のような理不尽さがあった。
一体誰が僕に難癖を付けて来たのだろうか?
こんなこと学校だけで十分だ、目の前の角を曲がれば僕の家なのに、何故僕はいつもこうなのだろう。
振り向かないといけないのは分かってる、でも振り向きたくない。
だけど声の主はそんな僕の想いなどお構いなしに言葉の刃を次々に振りかざしてくる。
「あぁ?俺様の声が聞こえないってか?ふざけんなよ、お前ごとき蛆虫が俺様を無視するとは良い度胸じゃないか。トイレに籠もるしか脳の無いお前が、テストでいつも追試ギリギリのお前が、大学生なのに未だ童て――……」
「それは関係ないでしょ!?ってか何で知ってるんですか!!」
プライバシーの損害だ。
まだテストでの追試やトイレに籠もる事は良い、何故僕が未だに童て――げふん、げふん。である事を知っているのだ!
彼女が今までいなかったわけではない、だた……そう、ただ何故か1週間も持たないのだ。
付き合った子全員が何故か突然僕を青ざめた顔で見詰め悲鳴を上げて逃げていく、そしてその後に届くメールで「ごめんなさい、私には無理です。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。追伸、一度神社に御祓いに行った方がいいと思います」とわけの分からない言葉を連ねて、さようならとなるのだ。
「僕は……僕は、悪くなーい!!」
涙ながらに叫ぶも、後ろの声の主は許してくれない。
「テメーのことなんか知るか!ふざけたこと叫んでねぇーでこっちを向けって言ってんだ、よ!」
その時の事は、突然過ぎてよく覚えていない。
だけど何かが僕の顔を鷲掴みしたような感覚と、行き成り目の前に現れた絶世の美女の顔……そしてグキリと嫌な音を立てる首。
あまりの激痛に、僕は意識を飛ばした。
もし、僕が意識を飛ばさなければ――またいつもの日常に戻れていたかもしれない。
そんなことを未だに考えてしまう僕は、やはり彼女の言う通り「うじうじ、なよなよすんな、気持ちわりぃ野郎」なのかな。
まぁ今となってはどうしようも無い事だけれども。
***
僕の名前は五味玉利。
このふざけた名前で、いつも僕は虐めに合って来た。
虐められる方にも虐められるだけの理由がある、なんて馬鹿みたいな事を言うのは、虐めをする奴らが自分たちを正当化したいための理由に過ぎない。
だってそうだろ?何を持って正義を振りかざすのか、お前はスーパーマンか!って言いたくなるね。
とにかく、僕は小学校の頃はそこまで成績が悪いわけでもなく、運動だって上位に食い込んではいないが底辺を彷徨っているわけでもない、何処にでも居るような普通の少年だった。
なのにある日突然、クラスのリーダー的立場に居た男子から無視されるようになったのだ。
何が原因だって?そんなの僕が知りたいよ。
だけど、それが始まりだったと思う。
子供とは残酷なもので、マイノリティ――つまり、社会的弱者を直ぐに嗅ぎ分ける能力がずば抜けて高いんだ。
自身の力が無いからこそ、強者の側に立つ事によって自分を守る防衛本能なのかもしれない。
だけど、だからと言って虐めが正当化されるなんて理不尽なものはない。
とにかく、僕はその時を持ってクラスで一番弱い者になった。
僕の成績とかで貶して来る奴らは、僕よりも成績上位者、僕の運動能力を貶して来る奴らは、僕よりも運動能力上位者。
じゃぁ両方に於いて僕よりも下位に居る者たちは?
きまってるだろ、僕の名前だ。
《ゴミ溜まり》なんて、まるで虐めてくれと言っている様な名前じゃないか。
名前の通りにしてやった、なんて言って僕の下駄箱や机をゴミでアレンジしていった。
もちろん担任の先生が直ぐに気づいて、クラス会を開いたり、注意をしたけど、そんなことで止まるようだったら虐めなど発生しない。
女子は知らない振りをするか、虐めに参加するか、可哀想な目で見るかのどれかだ。
彼女たちの選択肢の中に、助けるという言葉はない。
先生の見えないところで虐めは続き、それが他のクラスにまで広がったらどうなる?
ま、答えは簡単だよね。
僕はめでたく登校拒否になり、もれなく人間不信というおまけまで付いてきた。
これが僕の小学校の思い出。
親は学校からの連絡で僕の現状を知り、喧嘩をし始めた。
曰く、虐めに合うのはお前の育て方が悪いからだ。
曰く、あなたが外で他の女を作っているからよ。
などなど、出てくる出てくるお互いの不満。
僕はポカンと眺めているだけだった。というより、なんだこれ?って感じだったかな。
ま、そんなこんなで僕の義務教育が終わるまでは世間体もあって離婚しないということで話がまとまったようだ。
本当に「なんだこれ?」って感じだろ?
そして僕が中学を卒業したら即離婚。
有限実行だね、良いことだよ……僕の事全然考えてないけど。
中学では割と、というかガリ勉スタイルであまり人付き合いをしないで過ごした。
そのお陰か影で悪口を言われていたようだけど、表立って虐めに会うことも無かった。
両親の離婚が成立すると、僕はポンっと投げ出された。
これは言葉の通りだ。
毎月振り込まれるお金、そして住む場所を提供されてオサラバ。
高校は決まっていたから良かったものの、もし落ちてたらどうしろっていうの?
この時から僕はこのままでは生きていけないと考え始めたんだと思う。
髪も切り、性格を偽り、そこそこ上手く行ってたと思う。
彼女だって出来たし。
でも何故か長続きしない。
理由を聞いても「ごめんなさい」の一点張り。
此処まで来ると、僕に貧乏神が憑いてるのかと疑いたくなった。
あ、間違えた。
貧乏神は貧しくなるだけか、じゃぁ僕は不幸の神?
そんな神様いるの?もう何だっていいや、とにかく何かいる。
絶対いる。100%いる。
元彼女の勧めもあって御祓いにいったりもしたけど、効き目は一向にない。
僕にどうしろって言うの?お手上げだ。
もし僕の目の前に、その原因が来たら一発ぐらい殴っても良いよね?
そんな事を思っている時期もありました。
今、僕の目の前に、その原因が居なかったときは、って付くけど。
「で、お前のそのミジンコ脳みそで俺様の高貴な言葉は理解できたか?」
気絶から目覚めた時の第一声がこれである。
ハッキリ言って何を言っているのか分からない。
高貴云々の前に、まず常識を学んだ方が僕は世の為人のためになると思う、などと絶対に口が裂けても言えないことを心の中で呟く。
「おぃ返事はどうした?」
やはり何度瞬きしても僕の目の前には、絶世の美女といっても過言ではない程の美しい女の子が浮いている。
そう、浮いているのである。
「テメーまた気絶されたいのか?このゴミ野郎、返事しやがれ!」
もし気絶させてくれるのならば、こちらからお願いしたい。
そして夢ならば覚めてほしい。
「ちょっ少し、待ってください!」
このままだと気絶のにみ留まらない。
そんな雰囲気を彼女は滲ませ出した。
とにかく、祟り神でも不幸神でも神と名の付くものは怒らせたら怖い。
「俺様は祟り神でも不幸神でもねぇ!テメーの背後霊様だー!!」
え?心まで読まれちゃったりするんですか?
僕のプライバシーってどうなるの!?
しかも神様じゃなくて幽霊ってなんで!?
記念すべき20歳の誕生日、僕は僕の背後霊様と出会い。
この日を境に僕の日常が終わり、そして新しい世界が始まった。
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