コンマ1秒の戦い
「完全覚醒-パーフェクトバースト-・・・!!」
キィィン!!
シャイニングカイザーが力強くそう言い放つとその身に纏う光のオーラがうねりを上げる。そして輝く。ウルトラソウル。
その眩しさはまるで直視できない太陽の如く。余りの輝きに周囲一帯は昼間であるかのように錯覚してしまうぜ。
壮大なオーラの奔流はやがて一点に集中すると、やがてそこに人影が見えた。
そう。言うまでもなくシャイニングカイザーだ。
その身には濃厚なオーラによって整形された純白の白い鎧をつま先から頭のてっぺんまで覆い、堂々とカトキ立ちしていた。
純白の装甲には所々黄金の装飾。そして差し色である蒼いラインが血管のように全身に巡っており淡く輝いている。
見る者を魅了するようなその装いはインフェルノカイザーの完全覚醒-パーフェクトバースト-とは正反対の美しさと神々しさを醸し出していた。
『まさか・・・!』
十二幹部が一人、アリエスも思わず息を呑む。
バサァッ!!
そして背中の装甲が展開する。さながら天使が翼を開いたかのようだ。
するとその周囲一帯に光のオーラを拡散させたではないか。
「これは・・・まさかカイザーと同じ!?」
それを見たダーク・ウルフは声を上げて狼狽える。
そう、無理もない。勘の良いガキのダーク・ウルフはその光景に既視感があったからだ。
と言うのも、最近出番が無いインフェルカイザーがライジングボルトシティの戦いの際に力が暴走し、闇の化身と化した時、周囲一帯に粒子状の闇のオーラを撒き散らす起動効果を発現させた事がある。
その際、闇属性を持たない者を無差別に蝕む「闇之暗黒深淵領域」を創り出し、周囲を闇に飲み込む。過去にエルリークはこれで死にかけた。
シャイニングカイザーのコレはインフェルノカイザーのソレと酷似しており、ここにいるダーク・ウルフ、エルリーク、アージョは光属性を持たない。
即ち、この三人は濃厚な光のオーラに抗えずその命を散らす事になるという事は容易に想像できるのだ。そう、無理もない・・・。
「あ・・・!?なんだ・・・身体が・・・?」
だがシャイニングカイザーのコレは違った。
ダメージを受けるどころかダーク・ウルフが受けた胸部の傷がみるみるうちに回復し、痛みが引いていく。
それだけじゃない。身体も9時間くらい熟睡した時並に軽くなり、肩こりも解消。肌も風呂上り時並に綺麗になり、右腕にあった虫刺されすらも治ってしまったではないか。
「な、なんだ・・・?傷が治っていく・・・」
「おぉ・・・あったけぇ・・・」
ダーク・ウルフと同じようにアージョと今起きたエルリークも同じように回復していた。だがエルリークの毛根は回復していないようだ。
【ファンファーレ】
シャイニングカイザーが完全覚醒-パーフェクトバースト-を発動した時、範囲内の味方を全回復し、状態異常を全て取り除く。さらに20秒間の間、全属性に対し30%の耐性を付与する。
ちなみに1凸すると15秒間の間範囲内全ての味方に中断耐性(大)を付与し会心ダメージ+60%が解放されるぞ。
インフェルノカイザーの完全覚醒-パーフェクトバースト-が全てを破滅へと導く破壊の力だとすればシャイニングカイザーの完全覚醒-パーフェクトバースト-は全てを護る為の力。
兄とは正反対の力に覚醒したシャイニングカイザーはこの力を持ってこの戦いに終止符を打たんとしていた。
『素晴らしい。まさか貴方が完全覚醒-パーフェクトバースト-を発動するとは。ポラリス様もお喜びになるでしょう』
シャイニングカイザーの完全覚醒-パーフェクトバースト-に対し、アリエスはそう評価する。
だが裏腹にどこか他人事のようなその言葉は安全圏からその様子を見ているアリエスの現状を表していた。
悠長に構えるアリエスだったが、その言葉を発した瞬間には既に勝負は決していた。
『!?』
居ない。そう、アリエスが気づいた時にはシャイニングカイザーの姿が音も無く消えていた。
同時に、それをアリエスが認知した時、アウスの右腕は切断され、宙に舞っていた。
この時、シャイニングカイザーは神速の如き速さで攻撃を繰り出していたのだ(優先度+2)
既にシャイニングカイザーはアウスのすぐ背後に回り込んでいる。それをアリエスが認知するにはもう少し時間が必要であった。
ガッ!
シャイニングカイザーは宙に舞うアウスの右腕をガシっとキャッチする。
切り飛ばされたアウスの右腕にはブーストアーマーを制御するモジュールが取付けられており、アリエスはこれを通して戦いの様子を観察し、アウスの体を制御していた。
覚醒したシャイニングカイザーの狙いは右腕のコレであった。
「光の千里眼-天照-」
ギュンッ!
アウスの右腕を持ったままシャイニングカイザーは自身の頭部に光のオーラを集中する。
千里眼系の技と言えば視力強化や探索能力を上昇させるといったサポート系の技であり義務教育でも習うお馴染みの技だ。
そんな技をシャイニングカイザーは発動した。今、このタイミングで。
皆さんもご存じの通り、千里眼系の技は発動時に消費するオーラ量によって索敵範囲が上昇するが今のシャイニングカイザーのオーラ量は常軌を逸している・・・。
そんな常軌を逸したシャイニングカイザーが発動する光の千里眼・・・!?
そう、シャイニングカイザーは右腕のモジュールに宿るアリエスの思念を元に、居場所を逆探知しようとしているのだ!
「・・・!」
キィィン・・・!
この瞬間、シャイニングカイザーの視界には様々な場景が視えていた。
ここ、ダークネス・ダーク・タワーを飛び出しずっと北へ・・・。
ヴァリアヘイム大陸最北端の街、ピリオドシティをも越えさらに北へ・・・。
すると光側の領域ことアルスヘイム大陸が見えて来た。最南端の港には赤くペイントされた特徴的な灯台、アカナイ灯台が見える。
そしてそこからまだまだ北へ。そこにはアルスヘイム大陸一の山岳、ハーナンデワタシ岳が雪を被り、その地に鎮座する。
ハーナンデワタシ岳を超えるとそこにはケチン盆地が広がり、アルスヘイム大陸が誇る雄大な自然を堪能できるが今のシャイニングカイザーにとってそれはどうでもいい。
そのまま国道417号線に乗り、北東に進むとそこはくたびれた鉱山。かつては豊富な鉱石が採れたその山は今や廃坑となっており、かつての栄華を誇ったミドメ炭鉱の姿は無い。
そんな廃れた炭鉱の奥深く・・・。地下深く降りて行った所に違和感のある施設・・・。これは一体・・・!?
「見つけた・・・!!」
ヴン!
何かを発見したシャイニングカイザーはそう呟くとおもむろに右腕を伸ばす。
するとその先の空間が引き裂かれ、円形の穴が開く。そう、ワームホールだ。
「終わらせる・・・!」
シャイニングカイザーは決意の言葉呟き、ワームホールへ入るとその姿を消した。
「え・・・?え?」
一方、余りにも一瞬の出来事故に反応できず言葉を失うダーク・ウルフ。
自身の傷が回復していくと思った矢先には既にシャイニングカイザーの姿は無かった。
そこに残されたのは右腕を切断され横たわるアウスのみ・・・。
「何が起こったんだ・・・あの白いカイザーがやったのか・・・?」
「何かよく分からんけど俺等かませ犬みてぇじゃん・・・」
アージョとエルリークも同じように何が起こったか理解していないようだ。
そう、無理もない。一連の下りは完全覚醒-パーフェクトバースト-を発動してからほんの4.6秒間の出来事。
一瞬の逡巡の間に起こった出来事に残されたダーク・ウルフ達三人は口を開けたままアホ面を晒し、唖然とするしかなかった。
戦士に必要なものは、臨機応変な判断力だ。アホ面を晒している場合ではない。そう、無理もないのだ。




