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二丁の黒く、禍々しい殺気を放った斧を手慣れた手付きで回し、ガウスを裂かんと真横に振り抜く―
しかしガウスは素早く―その右手を硬質化―
ダイヤよりも堅い、といったそんな表現も受容せざるを得ないような防御力を誇った。
斧はキィン!と。金属音を上げる、たかが右手だというのに。
受け止めた右手からは強烈な衝撃波がエルリークの腕を伝う、電撃が体中を駆け巡るような感覚―それでいてもエルリークは冷静であった。
彼は効力が皆無と分かるとすぐ様痺れるような、いや、実際に痺れていた―両手をすぐ様に放し、ガウスがエルリークの鳩尾に突こうとした左手からの毒手を膝を曲げ反動で後ろに飛び、間合いを取る事で回避する。
「…あの身体じゃァ、効かねェみたいだなぁ!!物理技はァァァ!」
「フン…。我が身体の堅さは随一…。そのような斧では私を倒す事など幻想、妄想…。そして、絶望」
シュンシュンシュンッ!!
尻尾がまるで水を放出したホースのようにクルン、クルンと宙を舞う!
しかしその不規則な動きから捉えられた一つの毒の槍はピタリと一瞬の空中静止。
その後凄まじい勢いで一人の男に飛んで行った。レッドギルド―その赤いローブが鮮血に―
ガキイイイイイイイイインッ!!
が、レッドギルドを貫こうとしたその尻尾は、彼の顔面数cmで静止していた…。
いや、違う。正確に言えば…隔たりがあった。
鮮紅の魔法陣―それがその尻尾を受け止めていた。
「انتقال جادو」
轟音と共に、魔法陣は光となり尻尾を包み込み、光の放出と共に―
その尻尾は消え去った…。
「何ィ…!?」
流石のガウスもCONFUSE
ガウスの尻尾はレッドギルドの魔法により、破壊された。
ガウスの尻尾の付け根からはドロドロとした粘着質のある緑色の体液が飛び散る。
「ほう…なかなか高等な魔術を使うではないか…」
レッドギルドは鋭い眼光でガウスを見つめたまま、突きだしていた右の掌を静かに下ろす。
「やった。尻尾を破壊したぜ!この調子で部位破壊を狙っていけば!」
エルリークが斧を握り直し、ガウスに攻撃を仕掛けんと前進しようとしたその時―
グヌウ…
と、何かが捻じれたような音が聞こえた。その音の主はガウスそのものだった。
ガウスの―尻尾の、付け根の傷がみるみる塞がって―そしてまた尻尾が生え
それはまた頑強な毒の槍を形成した。それもさっきのものよりは更に大きい―
「な、なんだと…!?」
「蘇生能力くらい、心得ておるわ…。しかし、私は例え部位を破壊されたとしても、更に頑強に蘇生する事が出来る。物理的な防御力は勿論、魔法等特殊攻撃の耐性も一段と上がる…。つまり…同じ手は二度とは食わない、いや食えないという事だ。そして―」
バシュッ!
エルリークの視界が揺らぐ。
足に、猛烈な痛みが一瞬で走ったかと思えば―視界がぼやける。そして、エルリークは態勢を崩し地に伏した。
体中が痺れて動く事がままならず、意識も朦朧となる。
「な…なに…ッ!?」
「エルリーク!!……!」
いきなり倒れるエルリークにダークウルフは駆け寄った所で、ある事に気がついた。
―蠍。
エルリークの近くには蠍がいた。
そしてその蠍の尻尾からは、黄色の液体―
エルリークの右の脛は真っ赤に腫れていた。状況はすぐに察知できた。
「敵は私だけ、と思ったか?…そうではない。私は狙った獲物にしか手は出さない―が、子供達はそうではなくてねぇ…ククッ」
ダークウルフは周りを見渡す。
カサ…カサカサ…
薄暗いこの部屋では、視界がよく分からないが、何かがいる事は確かである。
今も何処かで、獲物を倒さんと尻尾を光らせている蠍達がいるのだ…。
「エルリーク…大丈夫か!?」
「クッ…」
「さて、慌てる事は無い。既にこいつ等は我々の巣に踏みいれているからなぁ。煮て食うも焼いて食うも」
バンッバンッ!!
言い終わる前にアウスが銃弾を放つ。
尻尾を振るわせガウスはその銃弾をいとも簡単に弾いた。
そして次に、頑強な尻尾をアウスに突き放った。




