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すれちがい


 次男坊が具合を悪くした。


 食堂へ連れてきて注文の仕方を教えたまでは良かった。だが俺が飲み物を取りに行っている間に具合を悪くしたようで、次男坊の元へ戻った俺が見たのは、黒い髪で困ったような顔をして次男坊の背を撫でる男子生徒と、口を抑えたまま俯き背を撫でられている次男坊だった。


 思わず次男坊と呼びそうになって焦った俺は、坊ちゃんと呼び掛けてまた焦った。今まで呼びかけた事なんかない。だからなんて呼べばいいのか分からず、結局俺は残熾さんと名を呼んだ。


 顔をのぞき込むと、あり得ないくらい顔色が悪かった。この短時間で何があったと言うくらい青い。なのに次男坊は、そんな顔色をしながら俺を見て、ほうと息を吐いた。


 緩く息を吐き肩の力を抜くその様は、まるで安心したみたいで。俺は少し戸惑ってしまった。

 俺を見て安心した? 俺が、次男坊を安心させたのか。今日初めてお前の前に姿を現した俺が。


 俺なんかで、お前は安心したのか。……残熾。


 なんとも言い難い苦い気持ち。苦虫を噛んだような、気まずいような、そんな居心地の悪さに次男坊から目をそらして男子生徒に向き直った。

 軽く感謝の意を告げると、そいつは人の良さそうな返答を残して去っていった。見ると既に次男坊と俺の食事は出来ているようで、次男坊から紙を受け取り俺は食事を取りに行った。


「食べられますか」

「……食べられる」

「……そう、ですか」


 何やら次男坊の表情が暗いので気分がまだ悪いのかと聞いてみたが返答は大丈夫というもので。仕方なしにどちらからともなく箸を持った。

 黙々と口に食べ物を運ぶ次男坊を盗み見ながら、次男坊に合わせいつもよりゆっくり咀嚼する。


 先ほどは俺で安心したように見えたのに、何故だか今の次男坊には壁を感じて心がざわつく。相変わらずの無表情が、分かり難くて嫌になった。


 お前は俺に何を求めていると言うんだろう。






 初めて会ったとき……いや、見たとき、か。初めて次男坊を俺が見たのは五つの時だ。五つの時の記憶はそれ以外にはないから、初めての本家入りに余程緊張していたんだろう。

 その時の次男坊は三つだった。まるで人形のようだと思った。女の子がよく抱いている人形のようだと。無表情に座り動かない様子は異様で、初めてそんな生き物をみた衝撃たるや記憶に焼き付いている程だ。


 大人は可哀想だとこぼしていたし、父はピリピリしていた。姉はじっと次男坊を見つめていたが、もしかしたらその時から既に次男坊への気持ちがあったのかもしれない。

 優しい姉だったから、表情の無い次男坊を見て、哀れまれている状況を見て何とかしてあげたいと思った事だろう。笑わせたいと、願ったことだろう。


 幼かった俺が、本能的に哀れに思ったように。



 ×



 次男坊を部屋まで送り、自室へ帰ってきた。風呂は自室にある狭いシャワーで済ませた所だ。


 しかし次男坊を追う形で転入する事になろうとは。次男坊があんなに簡単に家から追い出されてしまうとは。……哀れとしか言いようがない。


「……はあ」


 今日は疲れた。早く寝よう。布団にダイブして、目を閉じる。思い出すのは姉が次男坊の事を語る時の様子と、口を閉ざした次男坊。


 嬉しかった。俺に気付いてくれていた事が。食事を置いたものの声をかけられない……それに困ってやってしまった事を喜んでくれた事。

 だけど、あの壁を感じてしまうと分からなくなる。嫌になってきて、しまう。


 俺が今此処に居ることは正解なんだろうか。……なんて、前までの俺なら考えない様なくだらない事を、悩んでしまっている。






ぴぴぴ


ぷるるるる……ぷるるるる……


《はい、もしもし》

「先生、俺、あっと……残熾」

《わかるよ、表示されてる》

「そっか」

《ああ。学校どうだ?》

「うん、先生、あのね……」

《うん》


 譲がね、お客様みたいで怖いんだ。嬉しかったし嬉しいのにね、怖いんだ。

 先生教えて。なんで譲が怖いんだろう。






先生がちょっと出演しましたね。

残熾はフラッシュバックのお客様と譲が被って怖くなってしまったり、譲は残熾を哀れんだりしつつも理解出来ずに苛立ったり。

多分残熾の中で敬語=お客様なんでしょう。


閲覧ありがとうございました。



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