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Lotus7 恋せよ乙女!?



 久しぶりに高鳴った心臓。彼と過ごした日は眠れないまま、朝を迎えてしまった。カーテンから零れる朝日に目を細めながらそのままベッドから起き上がって部屋を出た。


 「おはよ〜」

 顔を洗いに向かった洗面所には、既に妹の華鈴がメイクを始めていた。時計を改めるとまだ六時になったばかりなのに、我が妹はこんな早朝からどこへ行くのやら。

 「今日は彼とデートなんだ! ちょっと遠出するから待ち合わせも早いんだよ」

 嬉しそうな笑みを零しながら仕上げにかかる華鈴を、今までは正直言って小馬鹿にした様な目で眺めていた。


 “所詮はその彼も男なのだから、いつアンタを裏切るか分からないよ”


 そんな意味を込めて。何度か会った事ある華鈴の彼氏はとても真面目そうな人で、とてもそんな事はしなさそうな気もしたけれどそれでも私はそういう屈折した感情を曲げる事はなかった。けれど、一夜明けた今日からは違っていた。

 「そう、楽しんでおいで」

 「? うん」

 珍しい返事に驚いたのか、華鈴は一瞬眉間にシワを作らせていた。そりゃ、今までは可愛げのない事ばかり言っていた姉が突然こんな事言うもんだから驚きもするでしょうね。

 昨夜彼と会ってから私の心は何か満たされたような感じがしていた。それまでは男なんて簡単に裏切ってしまうものと思っていた私の心は閉ざされていたのに、自然にそれを切り開いてくれた彼に私は忘れかけていた恋心を抱き始めていた。

 「お姉ちゃんも早く彼氏作りなよ。まぁ、それだけ恵まれた容姿をもっているんだから」

 もうそれは始まっているよ……華鈴には言わないで心の中にしまっておいた。まだこの気持ちは自分だけの物にしておきたかったから。誰にも言わないで大切に抱きたかったから。


 ピーンポーン♪


 「はい……って、蓮ちゃんじゃん。どうしたの? 今日は休みだよ」

 瑛が眠たそうな目をこすりながら出てくると同時に私はそのまま家の中へと入っていった。そしてそのまま階段を昇っていき、渉の部屋のドアを開ける。

 「渉〜! おはよ〜!」

 「……」

 休日なので渉は当然まだ眠っていた。私の大声にも何の反応を示さない、まぁこれは学校があっても同じことなんだけれど。それでも私は寝ている渉の傍に行って横になっている体を思い切り揺らして起こす。

 「起きて〜!」

 「……ん、んん?」

 かすれた声を少しあげた渉だったけれど、それでもまだ目を開ける事は無かった。せっかく渉から彼の事を聞こうかなと思っていたのに……。

 彼とはもちろん宇佐美琉依のこと。彼と渉は学科は違えど同じ高校だから、いろんな情報とか持っているはず。だからそれを聞こうと思ってこうしてやって来たのになぁ……。でも考えてみると、久しぶりにこんな感情を抱いたせいかまるでやり方が子供っぽく感じてしまう。

 それでも少しでも彼の事を知りたいから、誰かに頼ってでもそれを得ようとしている。なんて、ホント子供みたい。


 「ん?」

 ふとベッドの傍にあったアルバムに視線が行った。渉は爆睡中だし、起こすのを止めてアルバムを手に取ってそれを開いた。そのアルバムには中学校の入学式の写真から始まっていた。まだ幼い感じが残る渉は他のみんなが真剣な顔をしている中、一人だけVサインを出して笑顔を見せていた。

 「馬鹿だわコイツ」

 ふと、そんな渉の横に立っている男の子に目が惹きつけられた。その男の子は薄い茶色の髪の毛に綺麗な顔立ちで中学生にしては長身のまだあどけない感じの宇佐美琉依だった。そして、そんな二人から離れたところには長い髪を綺麗にまとめている大きな瞳を輝かせている槻岡さんの姿もあった。

 「中学生からの付き合いだったの?」

 思わず独り言を呟いていた。そしてページを捲っていくと、渉と彼と槻岡さんの写真が数枚飾っていた。キャンプに行った時、学園祭のものや修学旅行など……そして、今度は高校の写真が所狭しと貼っていた。

 中学の時とは違って大人びた彼の傍には槻岡さんではない女の子が数人写っていたり、そしてまた渉と槻岡さんと写っているかと思ったら今度はその中にまた一人小柄で可愛い女の子が写っていた。その女の子はそれから何枚か一緒に写っていて、中には彼がその子を抱き締めているものもあった。

 「(今度こそ)彼女?」

 「違うよ〜。それは、梓〜」

 また自然と出た呟きに、今度は後ろから渉がかすれた声で返事してきた。渉は私の肩に顎を乗せてその写真に写っている女の子について教えてくれた。

 「可愛いでしょ? その子は倉田梓ちゃんっていって、特進コースの才女ちゃんなの。学年で常にトップの成績なんだよ」

 そのクラタアズサちゃんは彼のお気に入りらしく、いつもこうして顔を合わせては抱き締められたり頬にキスされたりと彼の寵愛を受けているとか……でも、彼女ではないのだと。

 「そうだね、今度は梓にも会ってよ。ホント可愛いから蓮子も気に入るよ! って、何でここに蓮子がいるんだ?」


 ボスッ!!


 「今頃気付くな! 馬鹿!」

 枕を渉の顔に押し付けると、そのまま部屋を出て渉の家を後にした。



 アルバムから密かに抜き取った、渉と並んで笑顔で写っている彼の写真を忍ばせて……




 渉と蓮子はお隣さんなのに中学校が違うのは渉たちが公立の中学に対して、蓮子は私立の中学校に行ってたからです。同じ公立の中学校に行ってたら、もっと早くに琉依と出会っていたのに……。


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