Lotus4 愛情のかけらもない情事
「珍しいね、蓮子ちゃんから連絡くれるなんて」
とあるバーでの、オトコからの一言。あれから私はメールで待ち合わせした男と会って、バーに移動して飲んでいた。
「うん、突然ごめんね。急に会いたくなっちゃって……」
わざとらしく上目遣いで彼の方を見ながら言うが、大抵の男はこれでいい気分になってしまうんだ。ほら、この男もまんざらではない表情を浮かべている。所詮はそんなものよ……男って。ホント、単純なんだから。
「ねぇ……彼女は?」
そう、もちろんこの男にも彼女がいた。それを私が知ったのは、彼が私に声を掛けてきて一夜を共にした翌朝にかかってきた電話からだった。私の横で何事も無いかのように慣れた感じで彼女と会話するこの男は、電話を切った後も特に言い訳する事も無く私に触れていた。
「大丈夫、大丈夫! あいつはこういう事に鈍感だから」
いつものようにヘラヘラ笑いながら答える彼に、そうなんだと作り笑いを見せる私。でもね、こういう事に鈍感な女っていないのよ? 女なら誰だって持っている彼に対しての疑うという心、いつかはあんただってばれてしまう時がくるのだから……あの頃の私達のように。
チャラッ……
そんな事をボーっとしながら考えている私の前に差し出されたホテルのキー。今更こんな手口使うなんてと呆れたりもしたが、それでも私は嘘の笑顔を見せて喜ぶフリをしてそれを受け取る。そして、そのまま彼とバーを出てホテルのエレベーターへと移動した。
馴れ馴れしく腰に手を回す彼に少し嫌気がさしたが、それでも私は笑顔を絶やさなかった。隣にいる男にもうんざりしていたが、それよりもいつまでもこんな事を続けている自分に対してはもっと嫌気がさしていた。自分が今やっている事は、かつて自分がされて嫌だった事なのにそれでも私は復讐というつまらないものにこだわってやってしまっている。
「蓮子……」
キスから始まるホテルの一室で行われる情事には一切の愛情は無い。ただしたいからする、この男もそうに決まっている。いちいち愛とかに縛られる事無く、ただ己の欲望に身を任せてしまっているだけの行為。
今夜は特にそんな気分にさせられてしまった。さっき出会った宇佐美琉依という男を見た時は確かに何か惹かれるものがあったけれど、その後に見た彼と槻岡さんの何気ない行動に私はこうして誰かと肌を合わせたい感情に囚われてしまったのだ。あの時の感情がヤキモチなのかどうかはわからない、けれど確かに嫌な気分だったのは間違いなかった。
そんな時は誰でもいいから私を包んで欲しかった。髪の毛一本一本から爪先まで私の全てを触れて欲しかった。愛情はいらない。ただ触れて欲しいという願望を持っていた。そんな私の願望を彼らはこうしていつでも簡単に満たしてくれるのだ。私が何を思っているのか知る事も無いまま、彼らは己の欲望と一緒に満たしていく。けれど、私はまだまだ満たされていない……。
「それじゃあ、また会おうね」
情事を済ませて早々にチェックアウトしてホテルから出た私達は、その場であまり語ることも無いまま別々の道を歩き始めた。この男だけでは無い、他の男たちともそういった浅い関係をもっていた。情事の後の甘い会話なんて必要無い、体の欲望が満たされればそれでいい。でも……
「うわ……まただ」
必ずといっていいほど流れてくる涙。一人で帰っているとこうして勝手に溢れてくるものを止める事は出来なかった。この涙は何? 私の心の底からの悲鳴?
「どうして、泣いているの?」
聞き覚えのあるその声に思わず立ち止まってしまった。たった少ししか聞いたことがない声だったけれど、間違える筈が無い。なぜなら……
「また会ったね、蓮子チャン」
振り返った私の前にいたのは、槻岡さんではない女性に腕を組まれた宇佐美琉依だった。
彼の声を間違える筈が無い、なぜなら……私を惹きつけるだけの魅力を持っていたから。あの時捨てた感情をまた思い出させてくれそうなそんな予感がしたから……。
第1弾では本当に目立っていなかった蓮子ですが、実は本当にドロドロした生活されています。琉依の女版と言いますか……。でも、蓮子の場合は昔の出来事がきっかけですが、琉依の場合は……ただの女好きかも知れないです。