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Lotus36 四年後、萩原家にて……


 琉依がイギリスへと旅立ってしまい、悲しみに沈む私を癒してくれたのは渉だった。今まで一番傍にいたのに、アンタのそんな優しさに気付かなかった私はホント馬鹿だね。

 これからは、私がアンタの事癒してみせるから!


 そして、それから四年の月日が流れて……




 「なあ、こんな感じでいいの?」

 「なんか変じゃない? この格好」

 「あ〜! めちゃ緊張してきた!」


 こんな事ばっかりさっきから横でぼやき続けてもう何分たったかしら。視線を向けると、落ち着かないのかずっとあっち行ったりこっち来たりとウロウロしている。そんな男を見ているせいか、私の方はまったく冷静でいられるのだけれど……。

 「なあ、蓮子。何か落ち着かないよ〜」

 「うるさいわね! さっきからごちゃごちゃと隣りで喚かないでよ、女々しいわよここまで来て!」

 落ち着く様子の無い渉に一喝を入れると、再びきちんと正座をし直した。そんな私に負けたのか、渉もやっと大人しく座り始める。


 渉がいつもよりも一層落ち着かないのは、今日が私の両親に挨拶する日だから。もちろん日常の挨拶ではなく、結婚のあいさつ。幼馴染みの関係で、小さい頃から慣れ親しんでいる私の両親も今日からは婚約者の父と母になるわけで、これまでのように接する訳にはいかないと渉も落ち着かないのだ。

 肝っ玉の小さい男ではないけれど、今日の渉は本当にオロオロしていて見ていて可愛くも思ったりする。体は体育教師をやっていてガッチリしているから余計に笑いが込み上げてくる。

 「あぁ、まさかこんな事になるとは思わなかったな〜」

 「えっ? 何?」

 ふと漏らした一言に渉が食いついてくる。

 「だってまさか渉と結婚するなんて思いもしなかったよ。ずっと琉依が好きだったし〜」

 せっかくの大事な日に改めて琉依の事を話して渉の方をチラッと見ると、案の定ムスッとした膨れっ面になっている。これだから渉ってからかい甲斐があって何度でもやりたくなっちゃうのよね。膨れっ面が可愛いのもあるけれど、やっぱり少しでもヤキモチを焼いてくれているのを感じる事が出来て嬉しくなる。

 ねぇ、渉? 私はそんな風にしか渉の気持ちを感じる事ができないの。それでもこんな私を愛し続けてくれる? 琉依と出会うまで本当に人を愛する事が出来なかった私だから、まだまだ愛し方も不器用だけどそれでも私の事を見てくれる?


 って、そんな事考えなくてもいいよね。渉はずーっと先に私の事を想っていてくれて、自由気ままに行動していた私を時に叱ったり、時には温かく見守ってくれていたりずっと私を……

 「な、何!?」

 突然、抱きついてきた私に渉は思わず慌てて立ち上がってしまう。また顔を赤くしちゃって……。

 「ううん、愛されてるな〜って思って」

 そんな渉に笑顔で答えると、赤くなっていた顔をさらに赤くしてせっかくセットした髪をクシャクシャと掻く渉。

 「れ、蓮子が俺に?」

 「……お前が私にじゃっ!」


 渉からそう言われて思わず照れてしまった私は、つい反対の事を言っては渉の頭を叩く。嘘、本当は私が渉からすご〜く愛されているなって思ったの。ずっと傍にいたせいで大切さに気付かなかった私だけれど、これからはその分愛するからその覚悟でいてよね。

 「……って言うかさぁ、こんな事になるならあの時、尚弥にあんな事言わなければ良かったなぁ……」

 またブツブツなんか言ってるし。もう、本当に女々しいんだから! これじゃあ、親になんてあいさつするのか心配になってくるよ。ため息をついたその時だった。


 「あっ」


 私達の前に、両親が入ってきた。渉は立ち上がると、父さんに頭を下げている。母さんはいつも通りニコニコ笑いながらのん気に手を振っている。それに比べて父さんはずっと仏頂面のまま……。まったく、これが結婚とかの話じゃなかったらすぐにでもお酒を飲んで笑いながら話しているのになぁ。やっぱりどれだけ可愛がっていた渉でも、娘の婚約者になると話は変わるものなんだな。

 「……で、話とは?」

 また、とぼけちゃって。無理して咳をして言う事でもないのに、ホント素直じゃないんだからな〜。渉はと言うと、そんな父さんを真剣に見るともう一度頭を下げて

 「蓮子さんを俺に下さい!」

 って、ちゃんとかっこよく言ってくれるし! 感激のあまり思わず涙が出そうになるよ。

 そんな渉の言葉に、母さんは手を叩いて喜んでいるのに対して、父さんはと言うとまだ仏頂面のまま。そんな父さんに私も改めて頭を下げる。私達の結婚を認めて欲しい、その一心で。

 「あなた……」

 そんな私達を見て、母さんも父さんを説得してくれる。もしかして反対とかされるんじゃないでしょうね? 隣りの家のクソガキに娘を取られるのがそんなに嫌な事なのかな。それとも、自分と同じ高校に勤めている渉が義理の息子になるのが嫌なのかしら?

 そう、渉は夢が叶って高校の体育教師になったのだけれど、それが何と言う偶然か父さんが校長を務める高校に着任となった訳でして、その時は手放しで喜んでいたのだけれど……

 「お父さん」

 少し目を潤ませて見つめると、少しだけど動揺している父さんの表情が見えた。すると、父さんは再び咳をすると

 「反対なんかするもんか。ただ、今まで何一つ知らせてくれなかった事に腹を立てていただけだ!」

 そう言ってそっぽ向く父さんの顔は何だか赤くなっていて、少し寂しそうだった。なんだ、それで拗ねていたんだ。子供みたいな父さんに思わず笑ってしまった。

 「何だ〜、そうなの? なら、言ってくれたらいいじゃん!」

 「あっ、こら渉! こんな時までいつもの口調で話すんじゃねえよ!」

 結局はいつもの二人の調子に戻ってるし……。まぁ、これで両親にも認めてもらえたし晴れて婚約成立と言う事になるんだよね?


 「あ〜っと、それよりどうなんだ? その……」

 渉とひと暴れした後に落ち着いた父さんが、何か言いにくそうにしながら私の方を見る。その視線がしきりにお腹の方へと向けられているので、何の事かやっと理解すると

 「うん、もう大丈夫だよ? 結構ね慣れてきたし」

 そう言って、自分のお腹を撫でてみせると父さんもホッと安心している。

 そう、実はこのお腹の中には隣りに居る渉の子供がすくすくと育っているのです。本当はもっと後に結婚しようって話をしていたのに、この子が出来たと分かってからの渉の態度が一変して今すぐにでも結婚しようという事になった訳で。

 この子がいると分かった時、渉はもの凄く喜んでくれたと思ったらすぐに何かを思い出したような表情になって落ち込んでしまうし。何やら尚弥と関係があるみたいなんだけど、それを教えてくれなくて今でも疑問に思っている事なんだけどなぁ。

 予定日は今年の夏前だからなぁ〜。体調管理にはしっかり気をつけないといけないなぁ。紘佳ちゃんにも色々アドバイス貰ったし、頑張らないと!


 琉依……。アンタがイギリスへ行ってからもう四年が過ぎてもう少ししたら五年になろうとしているけど、その間にはいろんな事があったのよ? 約束どおりに介護士になれたし、渉も体育教師になれた。こうして結婚する事になったし、しかももうすぐしたらもう一人家族が増えるのよ? その他にも数え切れないくらいたくさん話したいことがあるのに、三年を軽く超えて五年もいるなんて……。さっさと帰ってきなさいよ! 夏海のためにも!

 アンタに夢中になっていた私が他の事に夢中になっている所を、早く見せつけてやりたいだけなんだけどね? きっと想像しているよりも魅力的に成長していると思うから、その時はせいぜい後悔するがいいわ。


 “こんないいオンナ振るんじゃなかった〜”


 ってね。でもまぁ、きっとそんな事は言わないと思うけれど。


 改めて渉の方を見ると、こちらの視線に気付いたのか私に笑顔を見せるとお腹に手を当ててきた。渉曰く、これも胎教の一つなんだろうけど、一体お腹の子供と何を交わしているのか。それでも、私のお腹に触れているときの渉の顔は、紛れも無い“父親”の顔だった。


 愛情を忘れてしまった私に再び人を愛するという事を教えてくれたのは琉依、そしてそんな私をいつでも影から見守って支えて癒してくれたのは渉。この二人がいなかったら、私はこうして幸せを感じることは無かったかもしれない。

 ただ復讐だけの為に愛の無い情事を繰り返しては、自分の心身を傷つけてばかりいたのだろうな。その先には何も無いのに、それでも私はずっとずっと虚しい人生を送っていたのかもしれない。


 でも、アンタとこの子がいるからもう大丈夫だよね。一度は踏み外した人生だけれど、その分も幸せになろうね。

 「渉、大好きだよ!」

 「マジで? 俺も好き〜」

 子供のように喜ぶ渉は、両親の目なんか気にする事も無く私を抱き締める。両親が少し顔を赤くする前で、私も渉の背に手を回してそのぬくもりを感じる。


 幸せになろうね、渉。そして、生まれてくる赤ちゃん。



 こんにちは、赤ちゃんです!

 渉の尚弥に関する悩みとは、シリーズ第4弾の最終回に掲載されています。きっと同じ事を尚弥や伊織からも言われたのでしょうか……。

 このお話は次回で完結です。本当にここまで読んで頂きありがとうございます!


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