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Lotus34 それでも、大好きだった



 「はぁ〜」

 店のテラスで一人ため息をついては夜空を見上げる。中ではまだ琉依を中心にみんなで盛り上がっていた。そんなノリについていけなくなった私は、とりあえず酔い醒ましついでにテラスでゆっくり座っている。



 

 “イギリスで必死になって頑張るから。夏海が来る時には、いつものように余裕のある俺で迎えられるようにね”

 “最後に、俺の彼女の夏海チャンです。みんなよろしくねん”


 さっき、みんなの前で言った琉依の言葉が脳裏を駆け巡っている。いつの間にか、二人は想いを通じ合っていてそしていつの日か夏海もイギリスへ行くと約束もしていたんだ。

 夏海の肩を引き寄せて二人の事をみんなに公言した時の琉依の笑顔は、今まで見てきた物とは違って本物の笑顔でとても幸せに満ち溢れていた。長い間、自分の心に秘めていた夏海への想いが通じたのだから、もちろん幸せに決まっているよね。

 琉依の本心を知ってから、いつかはこんな日が来るとは思っていたけれどそれがこんな時に聞かされるとは思わなかったから……。驚いて何も言えなかったよ。素直に言えなかった……“おめでとう”のコトバ。

 何ヶ月も前に失恋したのに、今日また失恋した気分になっちゃって何だか涙も出そうになる。琉依の横で照れながらも笑みを見せる夏海に対して、憎しみは全く無くてむしろホッとした気分になっていたのに、こうして一人になるとやっぱり……


 琉依の事好きだったんだな


 って実感してしまう。私の好きな笑顔や仕草、何もかも全てが今度こそ本当に夏海一人の物になってしまうんだな。

 「う〜、ヤベっ泣きそう」

 鼻をすすりながら星が輝く夜空を見て何とかそれをごまかそうとする。こんな時に涙を見せたりしたら、賑やかな空気を一気にダメにしてしまう〜! 泣くな! 今は泣くな!


 「何してんの?」

 ビクッと肩を少し上げて、見上げたそこにはお菓子をいくつか手にした渉の姿があった。何も答えない私に構わず、渉はそのまま隣りにドカッと座り込んだ。そして私にお菓子を差し出してきたが、それを首を横に振って断ると今度はポケットからティッシュを取り出して差し出してきた。

 「今はこれだけしか無いから、この分だけ泣きなさい」

 そう言って私にティッシュを押し付けると、自分はお菓子を頬張りながら何も言わずにただ隣に居てくれる。さっきまではみんなと盛り上がっていて私の様子なんか知る由も無かったのに、それでもこうして察してやって来ては何も言わずに傍に居てくれる。どうしてアンタは何でも分かってくれるんだろうね……。

 そんな渉だから、私はずっと甘えてしまうんだよ? それに、そんな気持ちに何か変化も起ころうとしているんだよ?

 「だいじょ〜ぶ、琉依の事なんてすぐに忘れられるよ。だって、イギリスに行くからね!」

 軽く笑いながらそう言うと、再びお菓子を頬張り始める。私の言葉など待たずに、自分の言いたい事だけを言ってはこうして傍にいる。不器用だけど、それが渉の優しさ。

 「……バリバリ、うるさいんだよ。バーカ」

 「このオンナは全く可愛くないんだから!」

 素直にお礼も言えずに文句ばかり言う私の頭を、渉は“お前もバーカ”と言いながら軽く叩いてくる。自然と笑みも出ながらお互い叩き合っている時だった。


 「お楽しみの所ゴメンね。渉、ちょっと蓮子借りていい?」

 そう言って私と渉の前にやって来たのは琉依だった。

 「借りるって程のモノでもないぞ、コイツは」

 そう笑いながら言うと、渉は店の中へと入っていった。取り残された私が見上げると、琉依は笑みを見せて隣りに座ってきた。そしてタバコを取り出して火をつけて吸い始める。

 「軽率な行動をして蓮子をまた泣かせてしまったね。ゴメン……」

 「えっ? どうして謝るの?」

 軽率な行動って、みんなに夏海との事を公言した事を言ってるの? そんな事別に気にしなくてもいいのに。メンバーに恋人を紹介する事なんて、ごく普通の事なのにそれでも私の事考えてくれてこうして来てくれたっていうの?

 ホント、最後まで優しいんだからなぁ。

 「って、どうした!?」

 そんな優しさに負けて思わず涙を見せてしまったから、琉依も動揺してしまっている。せっかくの日がこれで台無しになってしまうよ……。

 「初めて会った時から、今日までやっぱり俺は蓮子の涙ばかり見ていたな〜」

 ホントだね、ホテルからの帰り道に出会った時や慶介と会った時、そしてペンションでの出来事に今夜……会えば必ず泣いていたね。笑顔の方がいいと言ってくれたのに、それでも私は涙無しではいれなかったよ。

 「ねぇ、そろそろ笑顔を見せてよ」

 「うん?」

 私の涙を自分のハンカチで拭うと、琉依はお手本とばかりに笑みを見せている。もうすぐしたら琉依は遠いイギリスへと旅立ってしまうのだから、せめて最後くらいは笑顔を見せてあげないと。

 涙でメイクが落ちていないか鏡で確認した後、私は琉依の方を振り返ると琉依の手を握って

 「ありがとう、琉依。私も頑張るから、琉依も頑張ってね」

 そう言い終るのと同時に彼に笑顔を見せた。ぎこちない笑顔じゃないかとか心配になったけれど、それを見た琉依の顔でそんな心配は要らなかったかなと安心した。

 「俺も、色々ありがとうね。向こうでも頑張るから、蓮子も介護士になれるよう頑張ってね」

 そう言って琉依は手を握り返してきた。堅い握手を交わして、私と琉依はお互いを応援しあった。二年前、初めて会った時から思っていたのかもしれない。恋人同士では無くて、こういう関係になれる事を心のどこかで思っていたのかもしれない。


 それでも……本当に好きだったよ。




 こんにちは、山口です。シリーズ初の30話越えで、かなり長くなってしまっています。どうも琉依が絡んでくると、話も伸びてしまうような……。

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