Lotus30 胸に秘めた想いを今……
これから貴方に今まで秘めていた想いを伝えるからとても緊張しているのに……どうしてアンタは華鈴と話してるの?
思わず力が抜けちゃうじゃない……
「うっわ〜! 綺麗!」
車を走らせる事二十分程で着いた場所は、綺麗な夜景を見渡せる高台だった。こんな綺麗な夜景が見れるのに、辺りを見渡しても私達の他には誰もいなかった。
「でしょ? 結構穴場なんですよ、ここは」
車をロックしてから隣りにやって来た琉依はそう言うと、夜景を眺めていた。かすかに琉依の香水の香りが、私の心を心地よくさせて緊張も解けかけていた。タバコを取り出して火をつける琉依は、一度煙を吐くとこちらを振り返る。
「それで? 今日はどうしたの?」
穏やかな笑みを見せながらタバコを吸っている琉依。意地悪ね、きっと呼び出した用件も分かっているくせに……。それでも、自分の口から言わないと全ては始まらない。そう思うと、再び私の心は緊張してきた。
今度は何も言わずに、ただ私の方を見ている琉依。自分がこれから何を言われるのかもちゃんと見通している。それでも見せるこの余裕に対して、私はもう限界までドキドキしている。
「あの、あのね琉依。私……、私……」
そこから続きがなかなか言えないでいた。こんなにも緊張する事なんて、一体何年ぶりかしら? 想いを伝える事がこんなにも大変なんだって今さらながら感じてしまう。
相手は琉依、誰よりもそんな言葉を言われ慣れているからありきたりな言葉を言うと、他の女性たちと同じ扱いになってしまいそう。だから少し違った言葉でも言いたいけれど、こんな状態だとそんな気の利いた言葉なんか思いつきません!
「結構、引っ張るねぇ。何かいい事でも言ってくれるの?」
その余裕が更に私の緊張感を引き上げているのですが……。でも、いつまでもこんな風に黙っている訳にもいかない。出会った時から想い続けていたこの気持ちを伝える、ただそれだけの言葉を言えばいいんだ。
「な〜に、蓮子。どうしたの? 思いつめたような顔しちゃって、俺の事でも考えているの?」
「……そうよ」
何気に吐いた琉依の言葉を、躊躇いながらも肯定した私に琉依は少し驚きを隠せない表情を見せていた。冗談で言ったつもりだったのに、まさか本当に自分の事を考えているなんて思ってもいなかったのかしら。
「琉依の仕草、言葉、表情の全てが私の心を占めていて離れないの。初めて会った時からずっと、ずっと琉依の事が離れなかった!」
半分勢いに任せて言っているので、ちゃんと気持ちが伝わっているかどうか不安だけれど、それでも心の中に溜めていた今までの気持ちを全て吐き出すようにその勢いは留まる事を知らない。
「一定の彼女を作らずに、いろんな女性と関係を持っていると知ってもそれでも自分の気持ちは変わらなかった」
そして、夏海の事が好きだと分かってしまった時も……それでも何一つ私の心が傾く事は無かった。それは琉依が今まで知り合ったオトコとは何もかもが違っていたから。一緒に居るだけで自分の心を癒してくれる、そんな大切な人だから。
「だから……好きなの。琉依の事が、好き……」
この想いが実らなくても、気持ちだけはちゃんと琉依に知ってもらいたかった。これから先、私達の間が気まずくなってもそれでも琉依を愛していたという気持ちは琉依の中にも刻んでおきたかった。重荷だと思われても、私は琉依にだけはちゃんと分かって欲しかった。
「……」
自分の気持ちすべてを伝えたけれど、琉依は何も言わずに私の前に立っている。私はというと、言うだけ言ってから思い出したかのように急に顔が赤くなってきたので、琉依の方を見れずにただ俯いていた。
私の気持ちは全て伝えたから、お願い……何か言って? そうじゃないと、この沈黙は苦しいだけだよ。
「俺って、かなりの幸せ者だよね。こんな風に気持ちを伝えてくれる人がすぐ傍にいたんだもん」
しばらく続いた沈黙を破って、琉依は淡々と話し始めた。その言葉で私は俯いていた顔を少しずつ上げて琉依の顔を見上げる。想いを伝えてから初めて見る琉依の表情は、優しい笑みを見せていて私に少しの癒しを与える。
「ありがとう、ずっと想っていてくれて。あんなとこ見られたりしているのに、それでも想っていてくれた蓮子の気持ちは貴重だよ」
これまでの自分の行いを振り返っているのか、苦笑いを見せながら琉依は答える。そんな嬉しい言葉を聞いても、私は次に琉依が何を言うかはもう分かっていた。でも……大丈夫だから。
「俺も蓮子が好きだよ。でもね、それは……」
「梓と同じ様に、友達としての“好き”でしょ?」
琉依が言う前に私が言ったから、図星だったのか何も言わずに驚きの表情を見せている琉依。それくらい、ちゃんと分かっていたよ? 初めて会った時から、アンタが夏海一人しか見ていなかった事くらい。
「分かってるから、ちゃんと。琉依の気持ちくらい、ちゃんとわかってるか……」
――!!
私が言い終わるのを待たずに、琉依が私を抱き寄せてきた。突然、琉依の腕に包まれた私は驚きもしたが、すぐにその腕にしがみ付いて溢れる涙をなんとか我慢する。
「本当に嬉しかったから……ありがとう」
琉依の言葉は、今の私にとって本当に嬉しいものだった。
“ごめん”と言われるよりも、“ありがとう”と言われる方が同じ振られる結果でも気持ちは全然違う。こう言われた方が、ちゃんと相手の心に残ったって実感できるから。琉依に想いを伝えてよかったと、思えるから……。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、またね」
再び車に乗って、家まで送ってもらうと私は車から降りて運転席に回って琉依に言葉をかける。そして、琉依が去っていくのをその場で確認すると、玄関へと向かった私は思わずその場で足を止めてしまった。
「おかえり〜」
私の目の前には、そう言って手を振って玄関のドアの前で座っている渉の姿があった。そんな渉の傍には缶コーヒーと数冊の本が置かれていて、つい今来たところではないと思うのには十分だった。
「華鈴がさ〜、いきなりやって来たと思ったら“お姉ちゃんがオトコマエとデートした”って言うんだもんなぁ」
あんの馬鹿! すぐに渉にばらすんだから……。
「それでずっと待ってたの?」
「ずっとじゃないけどね。まぁ、大体は分かってるから……」
分かりやすい嘘を言うと、渉はその場を立って私の手を握ってきた。そして、自分の家と私の家を交互に指すと
「さて、どっちがいいですか?」
私と琉依がどんな話をしてきたのか分かっているのか、渉は私の泣き場所を選択させてきた。何もかもお見通しな渉に、私は俯くと指を上げて渉の家を指した。それを見た渉は、そのまま私を連れて門を出ると隣りの自分の家まで私の手を引いてくれた。
こんにちは、山口です。初めて30話を超えました。意外と長くなっているこの作品ですが、今回やっと蓮子が琉依に想いを伝えました! 結果は予想できたと思いますが、それでも第1弾の間にはこんな事もあったのです。そして、もうすぐしたらあの事件も起こります。
この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます!