Lotus29 私のけじめ
夏海が賢一クンと別れてからしばらくの間は、何とか夏海の笑顔を見たくて梓と一緒に励ましたり支えてきた。そんな甲斐もあっての事か、暗い表情しか見せなかった夏海もこの頃は以前のような笑顔を見せてくれるようになった。
もう大丈夫……そう安心した私は、今度は自分がちゃんとけじめをつける番だと思っていた。あの時から何も進めていなかった、自分の気持ちの行方。中途半端なままじゃいけないと思った私は、自然と携帯に手を伸ばしていた。
“〜♪”
携帯の向こうでは彼を呼び出すコール音が鳴り続けている。コール音一つ一つがこんなにも長いなんて、今までそんな風に感じた事は無かった。
オンナと会っているのか、琉依はなかなか出なかった。これ以上は悪いかなと思い、切ろうとしたその時……
『はい』
出て欲しいとは思っていたけれど、いざこうして琉依の声を聞くと何だか緊張してくる。
『蓮子?』
勝手に緊張と闘っていて何も言わない私に、琉依は“お〜い”と呼びかけている。
「ご、ごめん! ちょっと考え事をしていまして」
慌てながら応える私に対して、琉依は電話の向こうで笑っていた。この笑い声は、今から私が話す事でもう聞けなくなる事は無いだろうか。あの一言を言うだけで、これまでの関係全てが無くなってしまうって事は無い?
よく、告白したら気まずくなるって聞いたことはあるけれど、琉依はそんな子供じゃないよね? 何があっても、これまで通り接してくれるよね?
『れ〜ん〜こ〜! また考え事しているの?』
さっきよりも少し低い声の琉依に、ハッとしながらも再び謝る。今さら何だかんだ心配しても仕方の無い事なんだから、素直に自分の気持ちを打ち明けたらいいんだ!
「あのね、今大丈夫?」
『オンナと会ってたら、蓮子の考え事には付き合っていませんよ〜』
確かに……。そこまで琉依もお人よしではないよね。それでも、とりあえずは誰とも会っていないと分かったからこれで実行できる。
「あの、今からの時間を私に頂戴?」
『今から? って、何時だか知ってる?』
時計は既に深夜の十一時を過ぎていた。確かに遅い時間ではあるけれど、私と琉依にとってはこの時間からが本格的に動く時間には違いない。それを琉依もまた分かっているのか、
『OK! じゃあ、もう遅いし迎えに行くから待ってなさい!』
「えっ、ちょっと……」
私の言う事も最後まで聞く事無く、琉依は電話を切った。あっさりOKしたと思ったら、何だって? ここまで迎えに来るって? 誰が? ……琉依が?
「ヤバイ!!」
慌てて準備に取り掛かった。クローゼットからお気に入りの服を取り出して着替えて、階下に駆け降りるとメイクと髪もセットする。すると、キッチンから出てきた華鈴が覗いてきた。
「お姉ちゃん、今からお出かけ? って、もしかして彼氏と!?」
一人で舞い上がっている華鈴を無視しながら、ばっちりメイクを仕上げる。今は華鈴の相手が出来るほど、余裕は無いんだから〜!
〜♪
しばらくして、琉依からメールが届いた。内容を確認すると、家の前に着いたらしいとの事なので私は玄関に向かった。ドキドキと緊張しながら玄関のドアに手を掛ける。このドアを開くと、琉依が待っている……そう思ってドアを開いた私の視界に映ったのは
「初めまして〜! 妹の華鈴です〜」
「華鈴ちゃん? かわいいね〜、俺は琉依って言うの! よろしくね〜」
―――って。既に先に出ていた華鈴と楽しく話している琉依。この二人を見て気が抜けてしまい、さっきまでの緊張はどこか遠いところに行ってしまった。
「か、華鈴。邪魔だから……」
「あっ、お姉ちゃん来ちゃった! それじゃあ、またね」
そう言うと、華鈴は手を振りながら家の中へと戻っていった。それに対して、琉依もまた笑顔で手を振っている。全く、このオトコは……
「あ、あのね琉依……」
「華鈴ちゃんか〜、かわいいねぇ」
って、目的が逸れて行ってるような気がする。別に華鈴を紹介する為に呼んだ訳じゃないから! そう思いながら、私は琉依が勧めるまま車に乗り込んだ。そして続いて琉依も乗ると、家の前から去っていく。
「……で、どこに行くの?」
走りながら聞いてくる琉依。確かに誘ったのは私だから、場所も決めてあるとは思われても仕方ないよね。でもそんな事考える余裕は少しも無かったから、改めて考えてしまった。
「いい場所があるから、そこへ行こう」
そう言うと、琉依は目的地に向かって車を走らせた。その間中、ずっと私の頭の中では琉依への気持ちを懸命に整理していた。だから、時折掛けてくる琉依の話は、全く耳に入ってなかった。
コクハク……コクハク……
そんな言葉がずっと私をさらに緊張させていた。
“玄関を開けたらそこには……”またこのネタを使ってしまいました。やっぱり家の外で琉依が待っているなら、このネタを使わないと! って気がしたので……スイマセン。




