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Lotus28 恐れていた時とパンスト男現る



 夏海と本当の友人になろうと向き合ってから数ヶ月経った秋、それは突然知らされた。

 いつものように梓と国際学部棟へ行って、夏海がいる教室に行くとそこには頭を抱えて顔色を悪くしている夏海の姿があった。こんな光景はよくある事だから、どうせいつもの二日酔いだと梓も私も思っていた。


 「ちょっと〜、二日酔い?」

 そう声を掛けながら、夏海の隣りに梓と一緒に座る。夏海は顔を上げずに、頭を押さえながら何回か頷いてきた。って、これは今までに無いくらいの重傷かも。昨夜は賢一クンと会うって言ってたけど、それにしても一体どれだけ飲んできたのかしら。

 「夏海ちゃん、昨日賢一君と羽目を外しすぎたのね」

 夏海の背中をゆっくりと撫でながら梓はそう言うと、それを聞いた夏海はビクッと体を反応させた。

 「夏海?」

 何だか様子がおかしい夏海に、私は何とか顔を覗き込んでみる。すると、夏海は勢い良く顔を上げると笑顔を見せて

 「あっ、そうそう! 私振られたんだよ、賢一に。“もうやっていけない”って言われてさ」

 「えっ!?」

 無理して笑みを見せる夏海から出た言葉に、私は思わず絶句してしまった。梓もまた驚きを隠せないでいるのか、表情が固まったまま。

 「夏海ちゃん、大丈夫?」

 それでも何とか夏海を心配する梓の横で、私は小刻みに自分の手が震えているのに気が付いた。恐れていた事が……本当に起きてしまうなんて。確かに、夏海の事を憎んでいた時はこの時がやってくる事をずっと待っていたけれど、憎しみや嫉妬が消え去った今ではそれは自分が最も恐れている事になっていた。

 賢一クンの事だから、きっとあの時の彼女はその日限りのオンナだと信じて……それで、琉依にも言わずにいたのにそれがこんな結果になるなんて。でも……所詮は、賢一クンも私が知っているオトコ達と一緒だった訳なんだ。


 夏海は私と同じ……。信じていたオトコに裏切られてしまった。ただ、唯一の救いは賢一クンが夏海に嘘をついた事だった。夏海は自分が賢一クンに振られたのは、“もうやっていけない”と言われたからと言ってる。本当の理由である、他にオンナが出来た事はまだ知らない。

 私は、今度こそ夏海がこれ以上傷付かないようにと切に祈るしか出来なかった。

 「大丈夫、大丈夫。1人で飲んだらスッキリしたから」

 なんて強がって嘘を付いている夏海は、本当に痛々しかった。かつては自分がこんな夏海を見たかったと思うと、なんて浅はかだったのだろうと改めて自分を責めたくなっていた。

 一人で飲んでそれで忘れられる程の恋を夏海はしていた訳では無い。初めて出会った時から知っている、夏海の彼への恋心。どんな時でも一緒にいたいと思っていた夏海の気持ちは、憎んでいた間も羨ましさを感じたくらいだったから。一人の男性をここまで愛せる夏海に、憎しみとは別に憧れも抱いていたから。

 だからこそ、その分ショックも大きいはずだから簡単に立ち直れるはずは無い。それなのに、こんなにも無理して笑顔を作るなんて……。少しは甘えなさいよ。

 そんな事も出来ない不器用な夏海の頭を撫でようとした、まさにその時だった。


 トンッ


 私達の目の前に置かれた小さな紙袋。それを置いたであろう自分たちの傍にいた人物の方を見上げると、夏海は何故か目を大きく見開いていた。訳も分からずに、そんな夏海と傍に立っていた見知らぬ男性と交互に見る私と梓。

 「昨夜の忘れ物ダヨ、槻岡夏海サン」

 怪しげな笑みを見せながらそう話す彼は、指で軽く置いた紙袋を突付いていた。それでも何が何だか分からない私と梓は、そのまま二人を見るしか出来なかった。

 「なっ……」

 どういう訳か、かなり驚いている様子の夏海は何も言えないでただ彼の方を見ていた。そんな夏海に対して、彼はニッコリ笑うと

 「じゃあね」

 手を軽く振ってから、そのまま教室を去っていった。私はそんな彼が出て行く際、一応彼の顔を携帯で写しておいた。その顔が、何となく見た事があるような気がしたから。

 携帯で記録した後、夏海の方を振り返ると相変わらず小刻みに震えている。一体どうしたのかと思いながらも、とりあえず私は彼が持ってきた紙袋を取ると封を開けて中に手を入れてみた。


 こ、この感触は……!


 まさか、そんな事がある訳無い。そう思いながらも、とりあえずゆっくりと二人の前にその中身を取り出した。中から出てきたのは、私が予想していた通り


 「パンスト……」


 更に目を開く夏海、思わぬ物の出現に唖然としている梓。これ以上は何も言わない方がいいのかも知れないと思いながらも、これはちゃんと聞かないといけないと私は夏海の前にパンストをちらつかせながら

 「昨夜、1人で何してたって〜?」

 そう言って私が再び夏海の顔を覗き込むと、夏海は諦めたかのように顔を手で隠し始めた。



 後に分かった情報で、この時の彼が“影の浅井”こと浅井尚弥クン。この大学で梓よりも上に立つ、本当のトップの成績を持つオトコで後々メンバーに入る人物だった。



 パンスト男こと、尚弥の登場です。三十話目前でやっとメンバー全員出す事が出来ました。夏海も賢一と別れた事だし、あとは……あの事件発覚のみです。最終回まであとわずかですので、どうぞよろしくお願い致します!


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