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Lotus24 嵐の予感


 ずっとこの時が続けばいいのに……。でも、そういう時間はすぐに終わってしまうもの。そして、夢は覚めてあなたは再び夏海の元へと戻ってしまうのね。




 ダイビングを始めジェットスキーやシュノーケルも楽しんだ私達は、伊織が作ったお昼を食べると再びマリンスポーツをそれぞれ楽しんだ。みんながジェットスキーを楽しんでいる間、私と琉依は座って休憩していた。


 「ねぇ、琉依。どうして急にメンバーだけで、海に行こうなんて言いだしたの?」

 ここへやってくる前から疑問に思っていた事を、単刀直入に聞いてみた。これまでみんなで色んな所へ行った事はあるけれど、琉依から提案したのは今回が初めてだった。

 みんなは特に気にもしていないだろうけど、私は何となく理由でもあるんじゃないかって気になって仕方が無かった。けれど、琉依はそんな私が期待していたような答えは言わずに

 「別に〜。ただ、みんなと海に行きたかっただけですよ」

 あと、目の保養にもいいしね。そう付け足した琉依は、ぺロっと少し舌を出して笑顔を見せていた。本当にそれだけなのかな? あまり本心を語らない琉依だから、何か隠してはいると思うけれど。

 突然、みんなで旅行に行こうと言い出した琉依。この時は誰も、すでに琉依の身に異変が起きていた事なんて知る由も無かった。だって、この時に琉依もいつもと同じ……笑っていたから。


 「また、来年も来れるよね?」

 そう尋ねた私に、琉依は少し寂しげな笑みを見せていた。夕日に照らされたその表情は、とても印象的だった。



 誰よりも一番琉依の近くに居ることが出来たこの一日も終わりに近付こうとしていた。陽も沈みかけている中、少し風が出てきたので私達はここを出ることにした。もう少しだけでもいいから、琉依の傍にいたかった。別荘に戻ったら、また夏海との絆を見せ付けられてしまうから。

 ここは、別荘とは違って夏海の存在を感じる事もなくて私にとってはとても居心地が良かった。


 ―このまま、ここにいてしまいたい―


 夏海という煩わしい存在を気にする事無く、琉依と一緒に此処にいたい。もう、自分の心の中は琉依の事でいっぱいだった。琉依が私の心を占めるほど、夏海への憎悪もまた増えていってしまう。幼馴染みという関係以上を持つ夏海への嫉妬が醜いほど曝け出されて行く。


 着替えを終えた私は、まだ名残惜しそうにその場で座り込んでいた。梓と夏海は、暗い表情をしている私を風邪でもひいたのかと心配そうに見ていたが、私はただ首を横に振って笑顔を返した。

 そして、周りの片付けを済ませて荷物も整えると私達は船がやって来るのを待っていた。

 「釣り道具も持ってきたら良かったなぁ」

 「別荘にあったのを借りたら良かったわね」

 渉と伊織がそれぞれ口にしている間も、琉依はみんなの顔をさっきと同じく寂しげな表情で眺めていた。そのせいか、何度か二人から話しかけられても内容を聞き返していた。

 ダイビングをしている間はずっと笑顔だったのに、突然一転して寂しげな表情を見せる琉依。どうして、その寂しさの理由を教えてくれないの?


 「船、来たわよ〜!」

 伊織の声で顔を上げると、もう近くまで迎えの船がやって来ていた。これに乗れば、私は再び琉依にとって遠い人間になってしまうんだ。そう思うと、心がもの凄く痛くて悲鳴が聞こえてきそうだった。

 次々と乗船していくメンバーの中、私と琉依がまだ乗るのを躊躇っていた。私は此処を離れる事に寂しさを感じての事だけれど、琉依はどうして乗船しようとしないの? さっきまで見せていた寂しげな表情と、何か関係あるの?

 「琉依〜、蓮子〜早く乗りなさいよ〜!」

 船上から伊織の声が聞こえると、私は琉依と一緒に乗船した。そして出港し始めると、私はずっとデッキに立ち尽くしていた。隣りでは琉依もまた、島のほうを見ていた。


 そんな琉依を見ていると、まだ此処を離れたくないという気持ちが強くなってくるよ。

 “これは……私の賭け……”

 心の中で呟いた私は、ある決心をした。


 ザッブーンッ!


 「蓮子!」

 「きゃあっ! 蓮子ちゃん!?」


 何かが水面に落ちた音の後に聞こえてくる渉と梓の声。ある決心をした私がとった行為、それは船上から海中へ飛び込むという突拍子もない行動だった。まだ出港したばかりだったので、島のすぐ傍だった為に水深もそんなに深くは無かった為、私はそのまま泳いで島へと引き返していった。


 ザッバーン!


 「えっ?」

 後ろの方で再び聞こえた水音がした方を振り返ると、すぐに私の方まで追いついて腕を掴む琉依の姿があった。水に濡れた髪を掻き分けながら、そのまま私を片手で引っ張りながら上陸するとこちらを見て

 「何してるの? 忘れ物を取りに行ったなんて言わないよね?」

 海水で重たくなったTシャツを脱ぎ捨てこちらを見てそう尋ねてくるが、その時の琉依の表情はいつもと違ってとても怖かった。それも、あんな事をしでかした私がもちろん悪いのだけれど。

 「確かめたかったの……」

 「何を?」

 小さく呟いた私に、琉依は間髪入れずに聞き返してきたが何も答えない私にフーッとため息をつくと、そのまま私の腕を引っ張って歩き始めた。向かった先は、琉依の御両親が使っていたというペンション。

 「風邪ひいたらダメだから、ここでシャワーでも浴びて帰ろう」

 持っていた鍵を取り出してドアを開けると、誰も居ないペンション内を琉依はズカズカと歩いていった。そして、すぐに戻ってきたと思ったらタオルを私に投げると、自分もまた髪や体を拭いていた。

 「渉に電話して、迎えの船を呼んで貰うから」

 そう言って電話がある所まで行くと、突然外から雷鳴が聞こえてきた。そして、先ほどから吹いていた風も強くなっていて近くに立っていた木が勢いよく揺れ始めていた。

 「……渉? うん、ちゃんと二人とも無事だから。うん、うん。分かってる、今確認したから」

 渉と何やら話をしている琉依。会話の途中、何度も外を見てはまた話をしている。


 「じゃあ、明日ね。みんなにも無事だからって、伝えといて」

 そう言って電話を切った琉依に近付いて行くと

 「明日って、明日まで船が来ないって事?」

 「こんな嵐だったら、船も来れないでしょ?」

 さっきまではまだ晴れていた空が、急に大きな雷鳴と風を轟かせている。まるで、今の私の心の中を表しているみたい……。


 明日まで……誰も来ない。琉依と二人きり……

 外だけではなく、このペンション内でも嵐が起ころうとしていた。





 恋をすると海にも飛び込んでしまう蓮子でした(汗)なかなか行動的な子ですが、危険なのでマネはしないでくださいね……。次回からはさらに蓮子が行動に出ます! 蓮子だからで出来る事です……


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