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Lotus21 無神経オンナと優しいアイツ



 「あっつ〜い!!」

 「早く、中に入ろうぜ」

 琉依の提案で夏休みの数日間を利用してやって来た、宇佐美家所有の島にある別荘の前に私達は汗まみれで到着した。歩いていた私の前では


 「いいよ、持つよ〜」

 「何言ってるの! 女の子がこんなの持つんじゃありません!」


 そう言って梓の荷物を男らしく軽々と持って歩いている伊織。やっぱりオトコだったんだなぁ……と感心していると、隣りに琉依がやって来た。

 「お荷物、お持ちいたしましょうか?」

 「いいよ、これくらい持てるし。それに……」

 私はそのまま琉依の手元に目線を移す。琉依の右手には既に彼の物ではない荷物が握られていた。その持ち主はもちろん夏海。夏海はというと、琉依よりも前の方で軽快に歩いていた。


 「……勝手なオンナ」

 「ん、何?」

 ボソッと呟いたので、琉依にはもちろん聞き取れなかったらしく近付いて聞き返してきた。そんな琉依を適当にあしらうと、私は一人で歩き始めた。目の前で笑顔を見せながら歩く夏海を見ていると、何だか苛立ちが沸々と湧き上がってくる。

 この旅行の話をしていた時の事だって、私は夏海の無神経さには本当に腹が立ったくらい……。メンバー六人で行こうと話していたのに


 “ねぇ、賢一も連れてっていい?”


 一体その無神経な発言はどこから発せられるの? その時の私はあまりの無神経さに唖然としてしまい、琉依の方を見た時少し微妙な表情を見せてはいるけれどそれを断ろうとはしなかった。そんな夏海に言葉をかけたのは伊織だった。

 “ダメよ、今回は琉依のたってのお願いでメンバーのみで行くんだから”

 それを聞いた時の琉依の表情は何か安心したような穏やかなもので、対して夏海は少し残念そうな顔をしていた。夏海の彼=高月賢一クンはメンバーのみんなとも一応は顔見知りだけれど、それでも普通は連れて行かないでしょ? 少しの間くらい我慢したらいいのに、ホントウザイ!

 そして、当の賢一クンはと言うと

 “せっかくだからみんなと楽しんで来いよ!”

 いくら幼馴染みや昔からの友達と言っても、男が三人(二人か?)も一緒に行くのだから普通なら反対するのに不機嫌になりもしないで背中を押してくれるのは、そうそう出来る事ではないよ?

 もう、捨てるから……だから別にヤキモチ焼く事も無いのかな。それに気付かない夏海は、恋愛ボケ丸出しだわ。いい気味を通り越して、何だか哀れに思えてくる。


 そして、今。彼氏が来れないと分かったら今度はこうして琉依に甘えてばかりいる。誰かに寄生してないと生きていけないのかこのオンナは! 夏海にもイライラするけれど、それに文句も言わない琉依にも腹が立ってくる。少しは夏海を突き放してやったらいいのに。それだから、夏海はいつまでも琉依に頼りっぱなしでいて解放してあげないんだから。


 「じゃあ、一階は野郎と伊織。二階は女性方の部屋になっているから、好きな所使って下さいよ」

 少し疲れ気味の琉依はそう言うと、我先に自分の部屋へと入っていった。好きに使ってくれと言っても、ここに来るのが初めてな私はどうしたらいいのか? そう思っていると夏海が私の腕を掴んで階段の方へと引っ張って行った。

 「こっち、こっち。二階は部屋が五つあるから好きなトコ使って。あっ、でもここは私の部屋なんだけど……」

 そう言って立ち止まる部屋のドアには“なつみ”と書かれたプレートが掛かっていた。それを見た時、再び私の胸はズキンと痛んだ。どこへ行っても夏海という存在は付いて回る……。どんなに狙っても、少しの隙も無いくらい琉依の周りには夏海で占められているんだ。それをこうしてむざむざ見せ付けられると、本当に憎しみがわいて来て仕方が無い。いつの間にか握り締めていた拳は、爪が痛いくらいくい込んでいた。

 「そっ? じゃあ、私はこっちの部屋を借りようかしら?」

 何とか平然を装い不自然な笑顔を見せてから、そのまま部屋の中へと入っていった。まだ廊下で話している夏海と梓を残して、ドアを閉めるとそのままベッドへと飛び込んでシーツを握り締めた。

 これまで何度、夏海によって悔しい思いをさせられて来ただろうか。無意識の内にしている夏海の言動は、ほとんどが私の傷を確実に抉っていっている。まだ回復もしない内に、次から次へと抉ってはダメージを与えている。

 ねぇ、知ってる? 自分は琉依には無関心な振りしているけれど、アンタは知らないうちに琉依の事を束縛している。彼氏がいても、離れている時は琉依を求めている。何かにつけて琉依が居なければ何も出来ない、琉依に依存しきっている。それなのに、アンタが琉依の心配が出来るのは何故? 琉依の悩みのほとんどがアンタが原因となっているのに、真っ先に気付きなさいよ。


 コンッコンッ


 「蓮子〜、開けるぞ?」

 いつもならいくら着替え中でも遠慮なく入ってくる渉が、何故か珍しく許可を得てから入ってくる。少しは常識というものを学んだか!

 「何〜? 疲れちゃったから、少し眠らせて欲しいんだけど……」

 「あら、そうなの? 何か冷たいの持って来ようか?」

 一度は下ろした腰を再び上げると、そう言って部屋の入り口へと歩いて行った。何よ、今日はいやに優しいわね。

 「気持ち悪い……」

 「何!? 吐くのか?」

 呟いた私の言葉に、渉は慌てて何か吐いてもいいような袋を探している。

 「違う。渉の言動が気持ち悪いの」

 「そっか、それなら……ってどういう意味だ!!」

 私の頭を叩くフリをしながら喚く渉は、私の嫌な感情と琉依と夏海の関係を少しだけ忘れさせてくれていた。そのお陰で気が緩んだ私は、その時やっとさっき握り締めていた拳の痛みに気付く事が出来た。


 ねぇ、渉。私たち、もっと違う出会い方をしていたら……きっと恋をしていたかも知れないね。




 こんにちは、山口です。この作品を読んで頂き本当にありがとうございます。

 完全に悪者になっている夏海ですが、本当はいい人なんです。憎んでいるからこそ、蓮子から見ると悪いところばかりしか見えないようになってしまっているんです。

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