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Lotus18 素直になれない



 琉依への気持ちを渉に打ち明けてからさらに季節は変わり、恋人同士のイベントでもあるバレンタインデーが目前になって来ていた。


 「ねぇ、琉依はどこへ行ったの?」

 ランチの時間はメンバーが集まって一緒にするのに、まだ広場には琉依の姿が無かった。ランチボックスを広げている梓も周りを見ていたが、どこからも琉依が来る気配は無い。

 「本当にもう、仕方の無い子ね!」

 そうブツブツ言いながらも梓と準備をしているのは、この大学で友達になった東條伊織。おネェ言葉を流暢に話す、梓の恋人でもある。あの真面目な梓の恋人がまさかこんなオカマなんて、誰が予想できただろうか。先日、二人が恋人同士になった事を聞いた時は本当に驚いてしまった。


 「もう、先に食べましょう! あんな子の分も、食べてしまいましょう!」

 伊織はそう言うと、渉がラッキーと喜んで早速食べ始めていた。私たちメンバーのランチは、趣味という事もあり伊織がこうして毎日大きなランチボックスいっぱいに作ってきてくれるのだけど、さすがはオカマというだけあってもの凄く繊細な出来栄えになっている。

 梓にも喜んでもらおうと言うのもあってか、タコさんウインナーにウサギさんリンゴに海苔で顔を作ったおにぎりなど、本当に毎日凝った技を披露していた。


 「あの……、一ノ瀬クン」

 ランチをとっていると、小柄な女の子が渉の傍へとやって来た。渉はウインナーを頬張りながら彼女の方を振り返ると、すぐに彼女は渉の前に何かの包みを差し出して

 「あの、これ受け取って下さい!」

 受け取ってと言うよりもほぼ押し付けたような感じで渉に渡すと、彼女はそのまま走り去ってしまった。嵐のような彼女に、私達はもちろん渉もまた呆然としていた。

 「わ、わお! やるじゃん、渉!」

 少し引いていた私たちの中で、夏海がやっと口を開いた。そんな夏海に続いて私達も冷やかしの言葉を投げかけたが、当の渉はまだ放心状態だった。しっかりしろよ……

 とりあえず貰った包みを開けると、中に入っていたのは手作りのチョコレートとスポーツタオルだった。バレンタインデーが休日なので、きっと早めに渡したのだろうな。そして、一緒に入っていたカードに目を通した渉はやっと状況が分かったのか

 「これ、バレンタインのチョコだわ!」

 と、ちょっと遅い喜びを見せていた。そんな渉の反応に、私達はさっきの彼女に同情してしまった。鈍い渉にはもっと分かりやすいアプローチが必要なんだと……。



 ランチをとった後、私は少し休もうと前からちょっと目をつけていた屋上へと足を進めていた。社会学部棟の屋上は鍵が壊れていて、サボるにはもってこいの場所として知られていた。

 一段ずつ階段を昇って屋上に繋がる重たいドアを開けて、裏へ回ろうとした時だった。


 「やっだ〜、もう」

 クスクスと笑う女の声にその場で立ち止まってしまった。こういう声が屋上でするという事は、だいたい何が起こっているのかはもう一つくらいしか無いと思うのは私だけ? いや、でももしかしたら友達と話しているだけかもしれないし……なんて、一人で色々想像しながら好奇心もあって、近付いてみると私の目に飛び込んだのは

 「もう、やだってば〜。こんなトコに付けたら目立っちゃうよ〜」

 女の子で隠れて見えないけれど、やっぱり私の想像していた通り最中だった……。どうやら、相手が目立つところにキスマークをお付けになったみたいで嬉しいくせにワザと嫌がる素振りを見せる女はシャツもはだけていた。そして、徐々に見えてくる相手もクスクスと笑っていた。

 「――!」

 「だって、見えるところにしないと意味ないじゃん?」

 そう笑いながら甘く囁いているのは、琉依だった。衝撃的な光景に思わず隠れてしまった私だったけれど、正直今に始まった事ではないからすぐにそれも慣れてしまう。て言うか、ここでヤらないでよ。


 ガンッガンッ!!


 壁を思い切り叩いた音に情事の真っ只中だった二人は近くに立っていた私の方へと目を向けた。琉依はニコッと笑顔で手を振っているし、相手の女性もまた驚く事も無く落ち着いて服装を整えていた。琉依は分かっていたけれど、この女も相当慣れているんだなと呆れてしまった。そして、彼女は身支度を済ませるとその場を立ち上がって

 「じゃあ、またね琉依」

 私の前という事なんか気にする事なく、彼女はそう言うと琉依にキスをして私の横をすり抜けて行き屋上を後にした。まだシャツが乱れたままの琉依はというと、そのまま寝転んで私の方を見ていた。

 「すいませんね〜、せっかくのお楽しみのところ邪魔しちゃって」

 「いいよ。でも、見られるのも悪くないかもね」

 笑いながら話す琉依に呆れながらも、私はそんな琉依の隣りに座った。ふと、琉依の横を見るとそこにはたくさんのチョコらしき包みが無造作に置かれていた。その中には、明らかにチョコではないブランドの紙バッグも含まれている。そんな私の視線に気付いたのか

 「これ? ほら、もうすぐしたらバレンタインデーでしょ?」

 そう言って一つ取って私の前にプラプラと振ってくる。さすがは宇佐美琉依、かなりのモテぶりだこと。今日だけでもこんなにも貰えるんだなぁと感心してしまった。

 「それで? さっきの女の子は?」

 意地悪くさっきの女の子の話を生し返すと、琉依はあぁと言って起き上がった。

 「いるでしょ? “私をあげる〜”的な女の子!」

 私をあ・げ・る! よくそんなバカな事を言う女はいるのは知ってはいるけれど……


 “それじゃあ、頂きます!”


 こんな風に遠慮なく受け取るオトコは初めて見たわよ。それもまた一回限りの関係なの分かっているのに、それでも彼女たちは一度限りの夢でも見たい……それくらい琉依とは魅力的なオトコなんだ。

 「で、蓮子は無いの?」

 手を出しながら何かを催促するように振っている琉依に、私は無言で見ていると

 「チョコですよ、チョコ!!」

 何言ってるんだか、こんなにも貰っておいてまだ足りないっていうの? て言うか、バレンタインデーなんかまだ先の事だからチョコすら買ってないよ。一応は琉依にあげようと思ってはいたけれど、それはまだ琉依には悟られないようにしないと……


 「そんなモンあるか!!」


 そう言って勢い良く琉依の手を叩いた私……はぁ、どうしてこんな可愛げのない事しかできないのだろう。本当はちゃんとあげるつもりでいるのにな……。





 ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます! 今回でやっと伊織を出す事が出来ました。すでに梓と恋人同士になっていますが、やっぱりこのシリーズには欠かせないオカマキャラです。

 琉依……、本当に女の子が大好きです。普通、“私をあげる”って言う女の子に遠慮なく手を出す人はそうそう居ないとは思いますが、この人は出します!(万年発情期なもので……)

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