Lotus17 癒すアナタと突き放すアイツ
元カレと再会して動揺を隠せない私に追い討ちをかける様に、汚い言葉を発し続けるアイツ。そんなアイツから私を守ってくれたのは、他でもない貴方だった。
あんな事があった後、思わず泣いてしまった私をなだめながら琉依は私を連れて公園までやって来た。何とか落ち着いた私は、その場で慶介の事や美帆の事、過去の自分の事などを話し始めた。
どうして自分が今、彼女や妻子が居るような人と関係を持っているか。そして虚しさだけが残るのに、もう自分では止められないくらい欲望が暴走している事とか。誰にも言ったことが無い、誰にも打ち明ける事が出来なかった自分の醜い部分を全て琉依に吐き出した。
全てを話し終わった時、しばらくは嫌な沈黙が続いていた。琉依に打ち明けて何か慰めて欲しいとか、そんな事は求めていなかった。けれど、それでもこんな沈黙が続くぐらいなら貶されてもいいから何かを言って欲しかった。こんな沈黙は、更に自分を責めてしまいそうで……怖い。
「蓮子って、初めて会った時からなんか今まで会った女の子とは違う雰囲気があったんだよね」
ふと琉依が口に出した言葉は、意外なものだったので思わず琉依の方を見てしまった。琉依はそんな私に笑顔を見せながらもそのまま続ける。
「なんて言うかさ、本音を曝け出していないって言うの? 何かを必死に隠して隠してそれを決して出さないように強がっている感じがしたなぁ……」
普段、あんなにも愛想を振りまいているくせに、どうしてそんな所はばれてしまうの? 今まで誰も気付かなかった自分の弱さを、どうして貴方は簡単に見破ってしまうの?
「頭、痛くない? そんなにも我慢していたら、いつか壊れてしまうよ?」
そしてハゲちゃうぞ! と笑いながら頭を押さえる琉依に、思わず吹き出したりもしたけれどその次には再び涙が流れ始める。さっきあれだけ泣いたのにも関わらず、全ての水分を出し切ってしまうくらい瞳からは次々と涙が溢れては流れていた。
「蓮子の涙って、いつの時かも見たよね」
初めて出会った夜も、私は彼の前で涙を流していた。その時と同じ様に、今回も琉依は私の涙を自分の指ですくっていた。
「これじゃあ、笑顔よりも泣き顔の方が見る回数が増えてしまうよ」
だって、仕方が無いじゃない……。涙しか流れないくらい、貴方の言葉は私の心を動かしているのだから。何でもお見通しなんだから、それくらいにも気付いてよ。そう訴えるかのように、私は軽く琉依の胸に拳をぶつけた。
「女の子はね、笑顔が一番ですよ?」
そう言って私の頬に手を合わせると、“ねっ?”と聞いてきた。そんな琉依に、私はやっと笑みを浮かべて軽く頷いた。そんな私を確認すると、琉依は私の手を引っ張って
「じゃあ、帰ろうか」
そう言って、公園を後にした。
帰り道、ずっと繋いでる琉依の手はとても暖かかった。こんなぬくもりを知ってしまったら、ずっとこのままでいたいと思ってしまうよ。どうしても、その優しさを独り占めしたくなる……。でも、その優しさを含めた琉依の全ては夏海のものなんだよね? こんなにも近くに居て、手も届いているのに心はずっと夏海の傍にあるんだよね。そんな事分かってしまうと、こうして手を繋いでいるだけでも私の心は嬉しい反面傷付きもしている。
何も話さず歩いていると、いつの間にか自分の家の近くまで帰って来ていた。そして、角を曲がった私達が見たのは
「渉?」
私の家の前で座り込んでいた渉は、近付いてきた私たちに気付くと立ち上がってこちらへやって来た。
「あの男と会ったんだって?」
渉の言葉に私は琉依の方を見上げた。どうやら琉依は、公園の自販機でコーヒーを買った時に渉に連絡していたみたい。それから心配した渉は私達が帰ってくるまでずっとここで待ってくれていたという訳だけど……。
「それじゃあ、俺帰るわ」
「今日は、自宅に帰るんですか?」
渉のかけた声に、琉依は一回頷くとそのまま手を振って元来た道を帰って行った。そして、私は渉と一緒に自分の家へと入っていく。
「おかえり〜って、渉じゃん!」
「華鈴〜! 年上なんだからもっと敬えといつも言ってるだろ〜! 渉サマと呼べ!」
そんな渉に舌を出して挑発する華鈴に、渉は負けじと軽く蹴る真似をした。笑いながら逃げていく華鈴を見送って、渉は私を連れて二階へと上がっていき部屋に入った。
「はい、どうぞ座って〜」
と言うか、ここは私の部屋なんですけど。我が部屋のように座ることを勧めてくる渉にそんなツッコミをする事もなく、とりあえず言われるままにその場で座る。
「で、琉依から大体の事はメールで聞いたけど……その様子だともう大丈夫そうだね?」
「えっ?」
渉はそう言って鏡を渡してきたのでとりあえず見ると、そこに写っていたのは顔を赤らめている私の顔だった。悲しい、辛いはずなのにどうしてまたこんな表情になっているのか。
「“琉依”という言葉だけで、そんなにも顔が赤くなるって事はお前やっぱり……」
渉の言いかけた言葉の前に私は静かに頷いた。
「好き」
たとえあの眼差しや優しさ、心の全てが夏海のものであったとしても私は自分の気持ちに嘘はつけない。もう私の心は琉依にしか向けられていなかった。
「そっか〜、やっぱりな!」
「渉?」
思うほど驚かない渉に、私は逆に驚かされてしまった。渉はいつも通り豪快に笑うと、私の肩をバンバン叩いて
「いいか、蓮子。あいつはかなりの強敵だから、強気の姿勢で行けよ!」
そう言うと肩をさする私から離れて立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。階下からは、再び出くわした華鈴と何やら言い合う声が聞こえてくる。そんな渉を見送る事もなく、私はただ部屋で呆然と座り込んでいた。
もっと反対するとか、そんな態度を返されると思っていたのに……意外な渉の反応に私は驚くしか出来なかった。反対されたから諦める訳ではないけれど、それでも何だかさっきの渉の態度は応援してくれるというよりも見放されたような気がしてならなかった。
ねぇ、渉。この時、アンタは本当はどう思っていたの?
蓮子ってこう見たら、本当に恋するオンナのコなんです。ただの男好きって訳じゃないんです。これから、蓮子と琉依そして渉がどうなるか楽しみにして頂けると幸いです。