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Lotus16 避けたかった再会


 大好きな貴方とこうして二人で過ごす時間は、あっという間に過ぎてしまうもの。もう少し一緒にいたい……そう思っていた時に現れたのは、かつて私が心から愛していたオトコ……



 この声を聞き違える筈は無かった。たとえそれが何年ぶりかに聞く声でも、その声を忘れるはずが無い。


 だってその声の主は、かつて私が心の底から愛した人物であり、そして……私を裏切ったオトコだったから。


 「け、慶介」

 「久しぶり! てか、こんなトコで何してんの?」

 動揺を隠せないまま頭を上げて見ると、そこにはかつて愛したオトコ=遠藤慶介の姿があった。あの時から数年が経っているせいもあってか、髪型や服装など外見はかなり変わっているけれど、それでもかつて大好きだったその瞳は全く変わっていなかった。

 慶介はあの時の事など何も無かったかのように接してくる。


 “だって、蓮子ヤらせてくれねぇじゃん!”


 あの時言われた言葉が再び脳裏に蘇ってきて、顔が蒼ざめていく。忘れようと思っても忘れられない、おぞましいあの場面は結局は今に至るまで鮮明に記憶に残っていた。それなのに、どうして慶介はそんなにも明るく接する事が出来るの?

 「まぁ、いいや。それよりも、蓮子かなり綺麗になってね?」

 そう言って髪を触ってくる慶介の手に、思わずビクッと反応してしまった。そんな私の反応に気を良くしたのか、慶介の手はそれを止める事はなかった。琉依の見ている前でこんな事されたくないのに、それでも私はそれを制止する事が出来ないくらい動揺していた。

 まさか、今になってこんな所でこんなオトコと再会してしまうなんて思いもしなかったから。かつては片時も離れたくないくらい愛していたのに、今では一秒でも早くこの場から立ち去って欲しいくらい嫌悪感を抱いている。

 「……美帆は、どうしたの?」

 美帆とはあの時慶介と肌を重ねていた、元親友の事。噂ではそれから二人は付き合うようになったと聞いていたので、今でも二人は続いているのだろう……そういう意味を込めて尋ねた。

 「美帆? あぁ、あいつか。あんなのすぐに別れたよ」

 「えっ?」

 素っ気無く答える慶介に思わずその場を立ってしまった。だって、そんなのって……

 「てかさ〜、アイツって体の相性は最高だけど性格がなぁ……。まぁ、ヤルだけの女って奴? そんなのすぐに飽きる訳よ」

 何、言ってんの? 別に、美帆の事をかばう訳では無いけれど、それでも自分と同じ様に捨てられた彼女を哀れに思えて仕方が無い。お互いこんなオトコに心を囚われてしまったのが間違いなんだから。

 「で、俺としてはやっぱり蓮子が一番だったな〜って思ったんだよ。それでやり直したいな〜って思ってたところに、こうして会えるんだもんな〜」

 さっきから慶介が発する言葉に何一つ理解が出来なかった。美帆の事を捨てたと思ったら、今度は私とやり直したい? 理解しろと言う方が、無理がある。

 「お前、性格良かったし。それに……」

 そう言って慶介は何も言わずに私の方をジロジロと見ると、気味の悪い笑みを浮かべた。


 「今なら、お前すぐにでもヤらせてくれそうじゃん?」


 ――!! 慶介のとんでもない言葉にその場で立ち尽くしてしまった。私は、このオトコのどこに惹かれていたのだろう……。あんなにも好きだったのに、今ではもうどこに惹かれていたのかすら思い出せないでいる。そんな私に向けられたのは、このオトコの醜い部分。こんな事言われても、どうして私は何も言えないでいるのだろう……。


 “ソレハ カレノ イウトオリダカラ?”


 心の中でもう一人の自分が囁いている。確かに慶介の言っている事には違いないかも知れない。だって、現に私は人のオトコと会っては体を重ねていたから。その原因がこのオトコでも、それは曲げる事の出来ない現実だから……。

 「あの〜、熱弁のところホント申し訳ないのですが〜」

 「な、何だ?」

 嫌な雰囲気が流れている中、目の前で座っていた琉依が手を挙げてその場を立ち上がった。突然の慶介の登場と、嫌な記憶に悩まされていてつい琉依の事を忘れてしまっていた。

 「さっきから、やり直すだのヤらせるだの言ってるけど五月蝿いんだよね〜」

 「?」

 琉依の言葉に、私と慶介はただ琉依の方を見ているしか出来なかった。と言うか、一体何を言い出すんだろうか。

 「てか、お前誰?」

 「俺? 蓮子の友達〜」

 慶介の遅れ気味の質問にも臆することなく、琉依はいつもの調子で答えた。

 「友達? 嘘だろ? 蓮子、こいつともヤッたんじゃねぇの?」

 「慶介!!」

 私の叫び声に、さっきからひそひそと話をしていた周りの人たちが一斉にこちらを注目していた。今は何の関係も無いとはいえ、元は愛した人……それなのに、どうしてこんなにも幻滅してしまうような事ばかり貴方は言うの? これ以上、楽しかった思い出まで汚さないで……、そう思っていた時だった。

 「て言うかさ〜、あまり人の事言えないんじゃない?」

 ……? 琉依の言葉に私は顔を上げて彼の方を見た。琉依は、そんな私をよそに立ち上がったまま慶介の方を見ていた。

 「何だよ? 図星だったんだろ?」

 「別に、俺と蓮子は友達ですけど? それよりも、アンタその体で女を満足させられる自信あって言ってるワケ?」

 そう言うと、琉依は慶介の体を上から下まで眉間にシワを寄せながら見ていた。それは見下すと言うよりも、完全に馬鹿にしたような珍しいものを見るような目で見ている。

 「ねぇ、どこで女性を満足させてきたの? 体? 言葉? テク?」

 いや、どれも違うだろうな〜と、馬鹿にしたように呟く琉依に慶介は顔を真っ赤にさせて震えていた。と言うか、個人的にもどこで美帆を落としたのかが気になっている私もいるのですが……

 「なっ! そういうお前は何なんだよ! そこまで言うなら何か自慢できるのか?」

 完全に動揺している慶介を見ていると、何だか哀れに思えてくるのは私だけではなくきっと周りにいる人たちもそう思っているだろうな。慶介に言われた琉依は、じ〜っと慶介の方を見ると

 「う〜ん、かなり自信はあるけれど……俺、男とはヤッた事が無いんだよね。どう証明して見せようかな……」

 そう言って琉依は慶介の方を怪しげな目で見つめる。何かを悟った慶介は、それに対して何歩か後ずさりしていた。するとそんな慶介のシャツの襟を掴むと、自分の方へ勢い良く引っ張るとさっきまでとは違って鋭い目つきで慶介を睨んで

 「いい? 今度、俺の友達を馬鹿にしたら……」

 そこまで言うと、琉依は慶介の耳元で私には聞こえないくらいの小さな声で何かを伝えていた。すると、それを聞いた慶介は一瞬で顔を蒼くさせてそのまま何も言わずその場から逃げ去ってしまった。

 慶介が居なくなった途端にわき上がる黄色い歓声、それに笑顔で答える琉依はそのまま私の傍にやって来た。

 「立てる?」

 安心したのか、それとも慶介にあんな事を言われた悔しさなのか、私はいつの間にかその場で座り込んでしまっていた。目の前に差し出される琉依の手に自分の手を置いた時、もの凄く安心してしまって涙が流れてきた。そんな私を見て、琉依はしゃがんで私の頭を撫でてくれた。


 「琉依……」


 そのまま私は彼に身を任せて泣いてしまった。




 蓮子の元カレ=慶介、最悪ですね。賢一と同じくらい根性悪いかも……。でも、夏海といい蓮子といい、元カレにダメージを与えるのはやっぱり琉依の仕事なんですね。

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