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Lotus15 抑えきれない気持ち


 自分でもなぜこんな事をしているのか、よく分からなかった。ただ気がつけば必死になって貴方を連れ去っていた。きっと、本能から感じていたんだね。貴方の作り笑顔なんかこれ以上見たくない事を……




 ここがどこなのかも分からない。けど、私はそれでも琉依の腕を掴んだまま歩いていた。

 「蓮子〜?」

 たまに掛けて来る琉依の呼びかけなど聞こえないフリして、行く先も分からないまま私の足は止まる事を知らずに進んでいく。女性と一緒にいた所に突然現れた私に、琉依はどう思っているのかな?


 「――!!」

 突然自分の足に体重をかけた琉依によって、私は進めていた足を止めてしまった。何となく怖い感じがして、恐る恐る琉依の方を振り替えると琉依はいつもの笑顔で私を見ていた。

 「そんなに焦らなくても、別に逃げやしないよ」

 それよりも、喉渇いた……そんな琉依の一言で、私達は近くにあった喫茶店へと入っていく。そして、私は向かいに座る琉依の顔を見れずにただ俯き沈黙を続けていた。


 「ありがとうね」


 えっ!? 琉依の言葉に声に出さないで、ただ頭を上げて顔を見る。琉依はオーダーしたアイスコーヒーを飲みながら、こちらを見て笑顔を見せていた。

 「怒って……ないの?」

 何で? と笑いながら再びアイスコーヒーを口にする琉依。いや、怒るでしょ普通は。いくら彼女じゃないとはいえ、女性と会っている所に急に現れたかと思ったらこうして無理に連れ回されているのだから。意外な態度を示す琉依に、私はただ驚くだけだった。

 「いいよ、別に。それに、何だか俺も乗り気じゃなかったから助かったよ」

 再びお礼を言われた私は何だか複雑な気分になった。琉依はいいとしても、彼と会う事を楽しみにしていたヒサコには悪い事をしたかも。

 「ヒサコさん? 大丈夫だよ、また今度埋め合わせするから」

 そんな私の思いも、琉依は見透かしたかのようにフォローしてくれる。そしてすぐに携帯を取り出して、メールを打っていた。

 「でも、マジで驚いたよ。後ろから来ているのは分かってたけど、まさかあんな事をするなんて思わなかったからね」

 「えっ?」

 メールを打ちながら話す琉依の言葉に、今度は私が驚いてしまった。後をつけていた事、最初から琉依にはお見通しだったって言うの? それなのに、何も知らないフリしてたんだ。これには自分が恥ずかしくなってきて、顔が赤くなってくる。そんな私を見て、琉依は笑っていた。

 「さっきの、モデルのヒサコだよね? 琉依って、業界人にも顔がきくの?」

 また思ったことをそのまま出してしまった私の質問に、琉依は少し驚いた顔で私を見ていた。

 「何? 何か、おかしな事聞いた?」

 「いや、まだ俺も未熟だな〜っと思って……」

 ――? 何を言っているのか分からない琉依をただ眉間にシワをよせて見ていた時、琉依は近くにあった雑誌を引っ張ってきた。そしてそれをペラペラとページを捲っていると、途中でその手を止めて私にその記事を見せてきた。琉依から受け取った雑誌を見ると、そこには……


 「えっ!?」

 「これで、分かってくれた?」


 それからは何も言葉に出来ず、ただその雑誌の写真に釘付けになっていた。そして、雑誌と目の前にいる琉依とを何度も交互に見る。とにかくこんな反応しかできないその理由は、琉依に見せられた雑誌の一面には今目の前にいる琉依の写真が大きく載っていたから。目の前にいる琉依とは違って、雑誌の中にいる琉依は綺麗にメイクを施されていて、外国人女性と見つめ合っている写真だった。

 「って、これは何?」

 「うん俺ね、モデルしているのよ。ガキの頃から」

 そうだよね、これはどう見ても素人の写りではない。でも、モデル並みのスタイルと顔立ちと思っていたけど、まさか本当にモデルとは思わなかったなぁ。でも、通りでヒサコとも顔見知りって訳だし、数多の女性から注目されている訳だ。

 琉依の事をまた一つ知った事で、私の口元は何だか締まりが無く緩みっぱなしだった。それに、気がつくと周りにいる女性たちがこちらを見て何やらヒソヒソと話している。それはやっぱり、有名人でもある琉依が近くにいるからだろうな。

 「ちなみに、これを撮ったのは夏海の親父さん。カメラマンなんだ」

 夏海の? それを聞いて一瞬緩んでいた口元が一気に真一文字に閉じてしまった。幼馴染みという間柄だけではなく、こんな所でもこの二人は繋がっているんだな。何だか胸元がチクンと痛くなっていた。

 二人でいる時も、やっぱり琉依の口から出てくる“夏海”という二文字。私がその何気ない一言で胸を痛めているという事、貴方は気付いていないのでしょうね。でも、私もまた気付いていないの。“夏海”という言葉を何気なく発する度に、自分自身も傷付いているという琉依の心に。


 気がつくと、綺麗な夕焼け空はいつの間にか真っ暗になっていた。その間もずっと私と琉依はどこへも行かず、その場で会話をしていた。どこへも行かなくていいから、もう少しこの幸せなひと時が続けばいい……そう思っていた時だった。


 「あっれ〜? 蓮子じゃねぇ?」


 ドクンッ……


 「やっぱり、そうだよ! 蓮子じゃん! 久しぶり〜」

 声のする方を琉依は見てそれから何も反応をしない私の方を覗き込んでいるが、私はそのまま頭を上げることも出来なかった。ただ、カタカタと小さく震えるしか出来なかった。


 ―どうして?―


 「蓮子?」

 近くに居るはずなのに、琉依の声が小さく聞こえる。返事も出来ないくらい私の頭の中は、もう別の事でいっぱいいっぱいだった。

 ―どうして、今頃になって?―

 心臓が有り得ないくらい早く動いている。ドクンドクンと鼓動が聞こえてくる程に、動揺を隠せないでいる。何も返事しないでいるのに、それでもその場から立ち去ろうとしないその声の主は……


 「慶介……」


 あの日、私を変えた……かつて愛していたオトコ……




 琉依がモデルをしていた事をここで公開する事が出来ました! 第1弾や第4弾でも明かす事は無かったのですが、それでも少しはキーワードも隠されていたと思います。第4弾で尚弥が丘の上の家に行った時に見た、琉依のポスターもあれはモデルとして撮影されたものだった訳です!(ナルシストという訳ではありません……多分) 次回も蓮子の元カレが出ているので、ちょっとドロドロしています。

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