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Lotus14 作り物の笑顔



 大学生になって半年経った今でも、私の“アレ”は止まる事を知らなかった。むしろ高校の時よりもひどくなっているのかも知れない。サークルの勧誘やら、ただのナンパ目的やらで声を掛けてくるオトコ達。


 “今夜、どう?”

 “彼女いるんじゃないの?”

 “大丈夫、大丈夫! そんなの気にする事じゃないから!”


 こんなやり取りが何回繰り返されたか、もう分からなくなっている。琉依と出会ってからは自分から誘う事は無かったけど、相手から誘う分にはまだ付いて行ってしまう自分がいた。ちゃんと彼女や奥さんがいるって分かっているのに、それでも止められない。

 自分を誘ってくるオトコ達を何だか夏海と重ねてしまい、それでオトコ達を滅茶苦茶にしたいと思うようになっていたから。オトコ達を滅茶苦茶にして、夏海を滅茶苦茶にしたい感情を押しつぶそうとしている。でも、本当に傷付けたいのは夏海本人なのに……それが出来ないのは、傍にいる琉依を悲しませたくないから?



 「ありがとうございます。これで、全部理解できました」

 「いやいや。それにしても、講義が終わった後もこうして勉強しているのは君くらいだよ」

 講義の時に分からなかった箇所を終了してから教授に教わって、今はこうして荷物をまとめていた。そりゃ、将来のための勉強だから少しでも分からないところがあれば、どんどん聞いていかないと。それに、相手は私が憧れていた弘光教授。彼の講義は本当に想像していたよりも充実した内容で、時間が惜しくなるくらいもっともっと聞いていたかった。

 「萩原くんは、介護士になりたいんだよね? それはどうして?」

 「あぁ、それは私の祖母が寝たきりだったんです……」

 私が幼い時、入院してから寝たきりになってしまった祖母は自宅で慣れない手つきで介護する母によって世話されていた。突然の事だったから介護に不慣れだった母だったけど、それでも祖母はそんな母に愚痴の一つも言わずにいつも


 “ありがとう、ありがとう”


 お礼を繰り返していた。そんな祖母に母もまた笑顔で介護していた。私は何も出来ず、ただそんな二人を部屋の片隅から見ていた。ただ年寄りの世話をしているだけの事なのに、幼い私にはそれがとても微笑ましいものとして記憶に残っていた。

 そんな二人を見て、私は介護士になりたいと思うようになっていた。中途半端な気持ちでは出来ない事はもちろん知っている。

 「だからこそ、私はやりたいんです」

 「お祖母様とお母様のやり取りがきっかけか。熱心な君の事だ、きっといい介護士になれるよ」

 弘光教授の言葉に私は自然と笑顔になる。教授の言葉の一つ一つは、私を笑顔にさせてくれる魔法のようなもの。そんな時は私は心から素直になれていた。あの暗い感情なんか綺麗に忘れてしまえるくらい……。

 「おっと、それじゃあ私は先に出るよ」

 「すいません、お忙しいところを……」

 なんの、なんのと手を振りながら教授は階段を降りていった。教授が急いでいる理由は、教授のお嬢さんの誕生日でご家族で食事に行くから。そんな大切な日なのに、それでも僅かな時間を私のために割いて質問に答えてくれていたのだ。

 教育に熱心な面にも憧れるが、それよりも家族を大切にしている教授に私はこれまで会ったオトコ達と違う所に心から安心していた。自分が憧れていた人にまで、その思いを砕かれなくて本当に良かった。


 「〜♪」

 ご機嫌な気持ちに加えて、鼻歌を歌いながら外に出た時だった。

 「マジで!? じゃあ、今日はヒサコさんと会おうかな〜」

 そう携帯で通話しながら、私の目の前を琉依が通り過ぎて行った。いつもの笑い声が聞こえる琉依の後姿は、気のせいか寂しく感じられた。また……眠れないの? また、夏海が苦しめているの?

 携帯を切ってそのまま歩いて行く琉依の後を、私は迷う事無く追いかけていた。琉依から離れた距離で、気付かれないように進んでいく。って言うか、今日車で来てなくて良かった〜。もし、琉依がいつものように車で来ていたら完全に見失っていたから。

 でも、こんな事していて自分が何をしたいのかはっきり分かっていなかった。このまま追いかけてヒサコって人と会う琉依に私はどうしたいのか? わからないのに、それでも私の足は自然と琉依の後を追いかけている。


 しばらく歩いたところで、琉依はオープンカフェへと足を進めてそこで雑誌を読みながら何かを飲んでいた女性に近付いていた。って、あの人どこかで見た事あるような。

 「ねぇ、あれってモデルのヒサコだよね〜!」

 「てか、隣にいるのルイじゃん!」

 近くにいた高校生が興奮気味に話していたのが聞こえた。そうだ、人気モデルのヒサコだった! その人気モデルがなんで琉依と一緒にいるの……と言うか範囲が広すぎるよ、ホント。

 「ごめんね、待った?」

 「いいのよ! 私が呼び出したんだから〜」

 琉依はヒサコの隣りに座ると、何かをオーダーしてすぐにまたヒサコの方へと顔を向けた。そしてヒサコは琉依に近付いて何かを囁いていたのか、それに対して琉依は笑顔になっていた。けど、それも作り物だって事はわかったけど。


 バンッ!!


 テーブルを叩く音に、そこにいたヒサコはもちろんのこと琉依もまた驚いた表情を見せていた。そう、私は気がつくとそんな彼らの傍まで行って、テーブルを思い切り叩いていたのだ。急に現れた私に、琉依はまだ目を大きくさせていた。

 「ちょ、ちょっと! 何なの、アンタ!」

 少し零れたアイスティーを拭きながら、何も言わないでいる琉依をよそにヒサコは怒鳴ってきた。周りにいる人間も“修羅場か”と言いたげな目でこちらを見ている。そんな彼らの視線を確認した後、私は琉依の腕を引っ張った。

 「おっと……」

 「ごめんなさいね。今日、私が先に彼と会う約束していたもので」

 そう言うと、私はそのまま強引に琉依を連れてその場から去っていった。

 「なっ、ちょっと待ちなさいよ!」

 立ち尽くして叫ぶヒサコの声など無視して、何も抵抗してこない琉依を連れて私はそのまま突き進んで行った。




 こんにちは、山口です。第15話までトントンと更新する事が出来ました。何とか毎日更新できるようにこれからも頑張りますので、よろしくお願い致します。ここまでで、琉依の取り巻きの女性は一体何人出ているのか……。


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