Lotus12 明かされた真実、芽生える憎悪
貴方の事が知りたくて、我慢できないから夏海に会いに行った事……
それが、全ての始まりだったのかもしれないね
待ち合わせの喫茶店に行くと、そこには既に可愛い私服を着た槻岡さんが待っていた。メールによると、この後彼氏とデートの予定があるからと言う事でそれまでの間なら会ってくれる事になった。先日会った時に、メルアド交換しておいてよかった〜。
「ごめんね、槻岡さん。待った?」
「ううん、私もさっき来たところだから大丈夫! それよりか、そろそろ名前で呼んでくれると嬉しいな」
そういえば、槻岡さんは私の事“蓮子チャン”と呼んでくれているが、私はずっと“槻岡さん”のまま。メルアドまで交換しておいてこんな呼び方だとなんか余所余所しく感じてしまうか。
「夏海でいいよ! “ちゃん”を付けられるのはなんか照れるし」
「それでも、まだ急には呼びにくいから練習はするね」
そんな私の返事に槻岡さん(急には無理!)は笑顔で答えてくれた。せめて高校が一緒なら徐々に慣れるのだろうけど、こればかりは本当に時間がかかりそう。急には変えられないしね。
「それで、琉依の話だっけ? あいつ、何かしたの?」
オーダーしたアイスコーヒーで喉を潤した後、槻岡さんは尋ねてきた。こう言われると、さっきまでは聞く気満々だったのが何だか緊張してしまう。だって内容が内容だけに……ねぇ?
「え〜っと、宇佐美くんってたくさん彼女いるんだね」
とりあえず渉に聞いた事と同じ質問から始めてみる。すると、槻岡さんは再び口を付けようとしたアイスコーヒーを手にしたまま呆然としていた。
「あのバカ! もしかして琉依から誘われたの!?」
急に立ち上がってそう叫んだ槻岡さんに、今度は私が目を丸くする番だった。その勢いに負けてゆっくり首を横に振ると、槻岡さんは安心したのか我に返ったのか周りを見て少し恥ずかしそうに座った。
「違う、違う。この間、彼女と一緒にいる宇佐美くんと会っただけなの」
そう言うと、槻岡さんはなるほどっと頷いていた。
「そうだよ。彼女じゃないけど、琉依には同じ高校の子から教師、他校の生徒や女医に女社長など数多のセフレがいるのよ。セフレといっても、その日限りの関係だけどね」
渉から聞いてはいたけど、本当に範囲が広いな……。どうやって知り合っているのか知らないけど、それにしてもその女性たちも物分りのいい人ばかりだなぁ。たった一夜だけでも関係が持てたらいいのかな? 私はそんなの嫌だけど。
「あと、槻岡さんも宇佐美くんと関係を持ったって……」
ゴホッ!!
私が言い終わる前に、槻岡さんはむせて大きな咳をしていた。こんな質問やっぱり急すぎたかな?
「あのバカ! 何て事言うのよ〜!」
咳をしながらそう言う槻岡さんの目は苦しさで涙目になっていた。確かにまさかこんな話までしているとは思いもしなかっただろうな。
そして、槻岡さんが落ち着くのを待とうとしたけど、先に槻岡さんから話を再開した。
「それにしても、琉依ったらそんな事まで言うかな〜。会ったばかりの蓮子チャンに!」
いやいや、私が無理に聞いたようなものだから彼が悪い訳ではないんだけど。いくら宇佐美くんも自分からはそんな話しないでしょ?
「で、何て? 彼が出来てから素っ気無いとでも言ってた?」
―――えっ!?
「彼と付き合うまでは毎晩のように寝ていたのに、彼が出来てからはだいぶ家に行く回数も減ったしね」
「……」
今、何て? 誰が誰に素っ気無くて、誰が誰の家に行く回数が減ったって? 目の前で槻岡さんが話している事を上手く理解できない、ううん理解しようと思えない。だって、冗談でしょう?
「やっぱり、今も関係続いていた?」
「琉依がね、しつこいから」
否定してよ! そう思っていた私の願いは打ち砕かれた。
“と言っても、夏海が今の彼と付き合う前で終わったけどね”
彼の言葉が脳裏をかすめた。あれは、嘘だったの? どうして? 何で私に嘘をつく必要があったの?
そう思っていた私は前にいる槻岡さんの顔を見てすぐにその答えが分かった。そして、それと同時にあの時言った彼の言葉の意味も分かった。
“夜、眠れないから……”
「蓮子チャン?」
何も言わない私の顔を覗き込んでくる槻岡さん。その表情は私を心配しているかのようなものだった。そうだ、私の考えている事が正しかったら何もかもつじつまが合ってしまうんだ。彼が眠れない理由も、どうしてあんな嘘をついたのかも。そして、何故今でも関係が続いているのかも……。
彼は……槻岡さんの事を愛しているんだ
だから彼は槻岡さんの事を思って、私に嘘をついたんだ。今でも関係が続いていると言えば、彼氏がいるのに別の男と関係を持っていると軽蔑するから。そして、眠れないのは彼の家の近所に住んでいる槻岡さんの家には当然その彼氏もくるから。近くに住んでいたら、家に来る途中や帰る時に声が聞こえてもおかしくない。だから……
じゃあ、彼が眠れないのは? 彼がこうして、他の女性と寝るのは?
アンタの……所為?
良かったよ、今日こうして会って話が出来て。でないと、私はまたバカみたいにオトモダチになっていただろうからね。彼の事を知る事が出来て、さらにアンタの本性も知る事が出来たから。
私は立ち上がって伝票を取ると、彼女に精一杯の笑顔を見せた。
「ごめんね、もうそろそろ彼氏と待ち合わせの時間でしょ? 今日はありがと! 宇佐美くんには内緒にしていてね? 夏海」
なんだ、あっさり言えるじゃん“夏海”って。それに気付いたのか、夏海も笑顔になっていた。そして、私達は店の前で別れた。
彼氏の元へ向かっている夏海の後姿をただその場で見ていた。
“夏海”“夏海”……
友達じゃなければこんなにも簡単に言える。
でも、アンタは宇佐美くんの一番近い存在に変わりは無い。あんな話聞いても、やっぱり私の気持ちは変わらないから……だから、今度からはアンタの事利用させてね? オトモダチの夏海チャン。
ついに蓮子に夏海と琉依の関係がばれてしまいました。夏海の事を気遣ってついた嘘が、蓮子を傷つける事になる事を予測はつかなかったのでしょうか? 次回からは舞台は大学へと移ります。徐々に近付いてくる、あの別れの時です。