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Lotus10 ばれてしまった秘密


 先生との情事の後から、彼とは気まずくて会いたくなかったのに、渉のせいで再び会う事になったのだけれど……出会った時の彼は、何も無かったかのように自然な態度で接してきた。ホッと安心もしたけれど、何だか寂しい気持ちにもなった。




 マスターに作ってもらった軽食を口にしながら皆は色々会話をしていたけれど、私の頭の中には何一つその内容は入っていかなかった。ただ笑みを見せながら、たまに彼の表情を見るだけで精一杯だったから。

 

 「あっ、痛っ」

 そう言った後、突然彼は右手を押さえて立ち上がると私の方を見て

 「手ぇ切っちゃった。蓮子チャン、裏で手当てしてくんない?」

 「はっ!?」

 何が何だか分からない私の手を掴んで、彼は心配する梓ちゃんにウインクしながら裏口の方へと進んでいく。彼が手を怪我してどうして私が……そんな事思いながら連れて行かれた部屋で私はとりあえず救急箱を探す。そんな私を見て彼は椅子に座ると

 「あっ、怪我なんて嘘だからいいよ」

 「はっ!? 何で?」

 呆気に取られている私に彼は押さえていた右手をプラプラと振って見せる。その手には何一つ傷なんて無かった。彼の訳の分からない行動にただ立ち尽くしていると、彼はそばにあった椅子に座るよう勧めてくれる。

 「だって蓮子チャン、さっきからずっと上の空だったでしょ? もしかして、この間の夜の事をずっと気にしているのかなって思って」

 分かってたんだ……。私があの夜の事をずっと悩んでたって事。それで嘘の怪我までしてこうして二人にしてくれたんだ。こんなささいな彼の優しさにも惹かれてしまう。


 やっぱり……好きなんだ。


 そんな気持ちが改めて心を締め付けていた。他の男と体を重ねていても心の中では虚しさで一杯なのに、彼とはこうして一緒にいるだけで忘れていた何かを思い出させてくれる。たとえ何度他の男と情事を重ねても、彼への想いを消す事は出来ない……。そう思っていた私を、彼は優しい笑みを浮かべて見ている。

 ほら、もうこんなにも私は彼への気持ちに侵食されている。彼の笑顔一つにも、胸の鼓動は早くなるのだから……。


 「この間の女性はねぇ、クラブで知り合った女医さんなんだ。結構、綺麗だったでしょ?」

 何も聞いていないのに、彼は私が気になっていたことを話し始めた。

 「その前に会った女の子とは年齢もタイプも違うような気がするけど、本当は年上が好きなの?」

 今度は思ったことを正直に聞いてみる。すると、彼はう〜んと考えて天井を見上げていた。違うの?

 「違うと思うよ。それにあの人、ああ見えてちゃんとご主人いる人だからね」

 「……」


 この人も同じ? 誰と……私と?

 「じ、じゃあご主人いる人とそんな関係に?」

 「そういう事になるね」

 俯いて呟いた私の一言に彼は即答で返した。

 「人の奥さんに手ぇ出してるじゃん!」

 「そういう事になるね」

 同じ返事しか返さない彼の表情は変わる事無く笑顔のままだった。そんな彼に私は自分の事は棚に上げておいて、責め続けている。

 「そんなの最低じゃない!」

 「……てか、蓮子チャンもでしょ?」


 えっ……?


 今までとは違う彼の返事に思わず固まってしまった。その時の私を見る彼の目は、今までとは違って真剣なものだった。それより、どうしてそんな事を知ってるの?

 「あれ? ホントなんだ?」

 何も言わない私に彼は少し驚いた表情を見せて言った。しまった! そう思ったのは手遅れだった。ここで否定の言葉を出していれば、彼はそれを信じたかもしれないのに私はつい肯定の意味の沈黙を選んでしまったのだから。

 「どうして?」

 知っているの? 最後まで言葉にはならなかった。何とか言葉に出来た問いかけの部分も、私の声は震えていたのだから……。

 「どうして? そうだね〜、あの人って独身って雰囲気じゃなかったし」

 と言っても俺のカンだけどね。そう笑いながら言う彼の答えは間違ってはいなかった。確かに先生には妻子がいるのだから。そこまで分かっていて彼は私の身勝手な責めにも怒ることは無かった。

 「蓮子チャンがどうしてそんな事をしているかは知らないけど、別に俺は誰にも言うつもりは無いから。って、俺も同じ事をしているからね」

 「……」

 

 “そんな事はやめろ!”

 まだそう言ってくれたほうがマシだった……。

 “誰にも言うつもりは無い”

 まるで、どうでもいいと言われているように感じた。私がどこでどんな男と寝ようが、彼とっては関係のない事だと突き放された感じがして虚しくなる。

 「宇佐美くんは、どうしてそんな事をしているの?」

 彼の言った事には返事をしないで、また別の質問をする。しかし、彼は笑顔でその場を立ち上がるとドアの方へ歩いていった。そして、こちらを振り返ると

 「別に……夜、眠れないから」

 そう一言だけ残して渉たちが待つ席へと戻って行った。部屋で一人残された私は一緒に行けず、ただ呆然と立ち尽くしていた。それは、彼が振り向いた時の顔がとても怖かったから。

 怒った表情じゃない、笑顔だったのにそれがとても怖かった。



 とうとう琉依に蓮子の秘密がばれてしまいました。自分も同じ事をしているから、蓮子と一緒にいた男性が既婚者という何かを感じ取ったのでしょうね。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!


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